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5Gの普及でスマートホーム、スマートシティはどう変化し、セキュリティ問題をどうクリアしていくのか?

2021.01.18

2020年4月に発足した一般社団法人LIVING TECH協会。「人々の暮らしを、テクノロジーで豊かにする。」の実現を目指して住宅関連事業者やメーカー、流通・小売りに携わる企業が集い、ユーザーに心地良いスマートホームを段階的に進めていこうとしています。

2020年10月29日にはカンファレンス「LIVING TECH Conference 2020」を開催。全13セッションの中から、セッション5の内容を3回にわたって紹介します。

左から、巻⼝成憲さん(リーウェイズ株式会社 代表取締役CEO)、/赤木正幸さん(リマールエステート株式会社 代表取締役社長CEO・不動産テック協会代表理事)/滝沢潔さん(株式会社ライナフ代表取締役)/武井浩三さん(一般社団法人不動産テック協会 発起人/理事)/名村晋治さん(株式会社サービシンク 代表取締役/テクニカルディレクター)


※Session 5 中編※不動産テック協会から見える未来!IOTからスマートホームまでの今後

【前編】不動産とテクノロジーをどのように融合させていくのかがキーワード

新型コロナによってスマートシティは加速していくのか?

巻口(モデレーター):最初のテーマは「新型コロナによってスマートシティは加速していくのか?」。新型コロナによって家にいる時間が長くなると、「家の快適性をどうするのか?」という話が出てきます。テクノロジーで解決しようというサービスが、アメリカとかでは当たり前の話題になりつつある。今この環境の中で、スマートシティの取り組みが始まっているわけですが、実現可能性がより高まっていくのか、そうじゃないないのか、お話し伺えたらと思っております。赤木さん、ぜひご意見を。 

赤木 :そうですね、「新型コロナでスマートシティは加速しない!」って本当なら言いたいんですけど(笑)、ごめんなさいやっぱりすると思いますね(笑)。ここはちょっと、大衆に迎合しているんですけど。

大きな分脈として「スマートシティ、つまり閉じた世界の中でどうなっていくのか」と、非接触型もしくは遠隔で人と人が繋がり始めている今、「スマートシティ同士がどういうかたちで遠隔でつながっていくのか」、この2つの論点があるかなと個人的には考えております。 

スマートシティで、例えば「どういう人が」「誰と接触して」、新型コロナの文脈でいくとクラスターになった場合どう追いかけていくか。技術的にはやっていけると思うんですけど、果たして「日本でこれが許されるのか」っていうところが一つ。 

もう一つは、例えば「(非接触型で)ドローンで物を飛ばして受け取る」となってくると「ここはドローンを飛ばしてもいいのか」と、行政、制度、仕組みとのコンフリクト(衝突、不一致)が起こってきます。土台は確実にできているとは思うんですが、今後、今までの古い土台の中で「何をどう変えていくと新しいスマートシティができるのか」、そんな議論が必要かなと考えております。

巻口:例えば福岡市のあたりは、ドローンの活用に対しては「行政として」やっていますよね。お付き合いのある、もともとドローンを運用していたToreBizon(トルビズオン)という会社では、ドローンのルートを確保するために行政が持っている土地や線路の上を通らなきゃいけないので、「スカイドメイン」要するに「空の住所」を作って、その住所を売り買いする、その権利を買うようなサービスを提供しています。そういった最新の情報が、スマートシティを形づくっていくんじゃないかなと。 

もうちょっと消費者の目線で、「新型コロナによってどんな便利なことがあったか」というお話を伺いたいのですが。武井さん、いかがですか? 

武井:みなさんそうだと思いますが、オンラインミーティングの回数が増えました。ZoomGoogle Meetを使って一日少なくとも5時間、長いときは8時間から10時間とかやるようになりましたね。

巻口:逆に大変になったってことですか? 

武井:移動はしないので楽ですけど、それがデフォルトになったんで「移動する時間が取れず、逆に家に閉じ込められてるような感覚」もあって。この辺はやっぱりバランスが重要ですね。大企業の方々が、こういうことに対して門戸を開いてくれたのは、大きいのかなと思うんですよね。 

デフォルトのミーティングがオンラインになった。それで「今回は会うの会わないの?」みたいな。これって、アフターデジタルの世界観だと思うんです。基本はもうデジタル。僕らテック企業は、肌感覚でもともと慣れていましたけど、「世の中の常識」としてその基準が上がったのは、ものすごい大きな変化で、新型コロナがなかったらこんなに早く醸成されなかっただろうなと思います。 

滝沢:僕が新型コロナでの変化で一番良かったのかなと思っているのが、「政府の危機感」だと思っていて。まさに、あの給付金のときに「一応ウェブサイトは作ったけれど、多くの自治体は紙でしか受け付けません」となった。諸外国に比べて「実は日本けっこうやばいんじゃない」ってなりましたよね。

新政権がこれだけIT化に力を入れるようになったのも、多分新型コロナがあったからで。それによってスマートシティも加速するし、いろんなもののIT化全般が加速したんだろうなと感じますね。 

巻口:なるほど。我々テックプレーヤーにとっても、僥倖(※1)だったという話かなというところです(笑)。 

1 僥倖:偶然に得るしあわせ。

5Gによって、スマートホーム、スマートシティはどう変わるのか?

巻口:さて、次のテーマは「5Gによって、スマートホーム、スマートシティはどう変わるのか?」です。先ほども少し触れましたが2020年は「5G元年」、これから取り扱うデータの量が圧倒的に増えると、これがどんな変化をもたらすのか、長らくシステムの専門家でいらっしゃった名村さんにお話しを伺えればと思います。 

名村:今年から5Gが出て、iPhoneの新しいモデルも5G対応になったということで、言葉自体もどんどん広まってきていると思うんです。速度が速くなって、遅延もしない。多数のツールと同時にアクセスできるっていうのは、大きなメリットですよね。 

今、僕すごく感じるんですけど、オンライン会議をしていたら両方がこう「あっ」って言い始めてちょっとタイムラグがあって、「じゃあどうぞ」みたいな(笑)、そういうことがありますよね。それが5Gによって遅延がなくなるだろうみたいな話はもちろんあるんですけど、それよりも一番大きいのは「5Gによってやり取りされる情報量が増えてきたときに、人がそれをどうやって享受するか」ってところです。

今までの「3Gから4G」になったのと、「4Gから5G」になるのって、多分かなり大きな差が出てくると思っているんです。3Gから4Gになったときは、フューチャーフォンからスマートフォンになりました。ほとんどの人が今、スマートフォンでデータのやり取りをしていて、大きな企業で言えばお問い合わせもスマートフォンからのほうが多い。これって、スマートフォンっていうデバイスでやり取りできる情報量だから済んでいるんです。 

何が行われていくかっていうと、一つは「デバイスの画面の問題に詰む」。おそらく、それがスマートフォンの限界になるかなと。スマートフォンがなくなるわけではないんですけど、「スマートフォン一台で全部終わり」という時代は、多分そろそろ終わりが来ると思っていて。 

僕は数年前から「その次は絶対AR」だと思っていたんですね。要は、この小さな画面が限界となると、大きな領域に対して何かデータをいっぺんに出してくれなかったら処理が追い付かない時代になってくる。 

5Gによってデータの量が大きくなってきたときに、「データをどのようにして人が享受できるか」っていうデバイスが同時に進歩しないことには、単に早いだけで「オリンピックを多視点で観られる」みたいなエンターテインメント程度で収まると思うんです。大きな情報をどうやったら受け取りやすくなるか、その結果がスマートホームとスマートシティに繋がるのではないかと思います。

5Gが技術論で終わってしまう可能性

名村:もう一つ、さっき「3Gから4G」に変わるのと「4Gから5G」になったときの方が大きな差があるって言ったのは、インターネットができた直後ぐらい、それこそ2000年ぐらいにアーリーアダプター(※2)な人たちがウェブサイトを持っていましたけれども、一般の方も使うようになったときに「どうやってホームページを使うかわからない人」が出てきたんです。 

2 アーリーアダプター:新しい商品やサービスをいち早く取り入れる人。

 同じように、5Gでたくさんのデータのやり取りができるけども、「そのデータをどうやって使うの?」というところは、これからアイデアが出てくると思うんですね。だから、「どう使えるの」と「どう使うのか」の両方を一緒に考えていかないと、単なる技術論の話になってしまい、一切広まらないと思っています。同時多発的にみんながわーっと広まらないと、技術論で終わるんじゃないかなっていうのが今の感覚ですね。

不動産における”立地の価値”も変わるのか

巻口:今、例えば「ハロウィンで渋谷に来るな!」ってことで、「バーチャル渋谷」に集まろうみたいな取り組みもあるわけですけど、不動産屋さんからすると「立地の価値、無くなるんじゃないか」みたいな(笑)、逆の心配が出てきて。 

赤木さん、ARなどによって不動産の価値が下がるかとか、何か心配や懸念はありますか?

 赤木:懸念というよりは、新しいバーチャルな空間ができたときに、そこのエリアの価値とかそこの使用権みたいなものが発生すれば、「バーチャル地上げ」ができないかなみたいな(笑)。さっきのドローンの話も実はそうなんですよ。やっぱり日本って「空中権」っていうかなりきつい権利があるんで、空を飛ばそうとするとき空中の権利取らなきゃいけない。やっぱそういう新しい技術には、必ず新しい権利が発生するので、そういう意味ではいろいろワクワクしてるところです。

セキュリティーの問題はクリアされるのか?

巻口:様々なIoTデバイスに関して、どうしてもセキュリティの課題が日々出てきています。IoTのデバイスを実際に作られている滝沢さんに、この問題についてご意見を伺えればと思います。 

滝沢:消費者の方からすると「どのデバイスがセキュリティが100%か」って、見極めようがないと思うんですね。私がいるスマートロック業界であった事件ですと、201912月に韓国のKeyWe(キーウィ)さんっていうスマートロック会社でセキュリティの脆弱性が見つかりました。アプリを解析すると、スマートロックの半径15mぐらいの中にいれば、Bluetoothを傍受して誰でも開けられてしまうことがわかったんです。 

日本の一部のホテルさんとかも導入していたデバイスで、しかもファームウェア(※3)のアップデートができないんです。なので、「もう終わり」なんですよね、それ。製品交換するしかない。うちのそのセキュリティ担当からしたら「そんなの素人みたいなミス」と言っていたんですが、これ消費者から見たらわかりようがない話ですよね。そこを回避するって難しいだろうなって思うんです、消費者として。

 3 ファームウェア:ハードウェアを制御するため、本体に内蔵されているソフトウェアのこと。

 一方で、身近なセキュリティで「これ危ないな」って思うのが、すごく初歩的な運用とか設定とかの方でして。最近あった事例だと、不動産管理会社さんが、ソニーさんのマルチシーリングライト、スピーカーもついていて遠隔でいろいろと操作できるデバイスなんですが、それを全棟に入れている物件の管理を預かったっていう話を聞いたんです。 

ちょうど僕もそれを家で使っていて「運用ってどうなってるんですか?」ってお尋ねしたら「えっ、運用ってなんですか?」って。「あれって一回デバイスの近くでスマホから設定をすると、遠隔で操作できるようになるんですけど、退去したときに本体の初期化ボタンを押さない限り、次の人が入居したとしても遠隔で前の入居者がライトいじれるはずなんです」って言ったら、案の定、運営の運用の穴で抜けてたんです。それで慌てて今までの退去があった物件について、全部リセットボタンを押しに行くみたいなことが発生してですね。

これはそこまで重たい問題ではないからいいんですけれども、スマートロックなんていうのはさらにこれが起きやすくて、「前の入居者がうっかりアプリで権限を持ったまま」とかっていうのが起きるとアウトですよね。デバイスがたくさん出てきて、実際に設置される部屋が増えてはいるんだけれども、一方でそれぞれの設定とか初期化とか運用にちゃんとしたフローが組まれてないと、こっちのほうがずっとセキュリティ的に危ないなって思いました。 

巻口:どうすれば運用ルールを徹底できるのか、名村さんにご意見ちょっとお聞きしたいですね。 

名村:難しい問題だと思います。今までの鍵がシリンダーキーで、物理キーがあったものをデジタルで変えましょうと、新しいことをやろうとしてるわけですから。さっきのスマートロックの話も、不動産屋さんが退去するときに「今目の前でアプリ消してくださいね」みたいな話をするのかって。何台入れているのかもわからないとなると結局「鍵を複製している」のと同じで。結局、「鍵ごと変えましょう」みたいな話になるんで。 

ちょっと残念なんですけど、今はほんとに過渡期ですね。トライアンドエラーの中でというのがどうしても出てくる。そうなると、トライアンドエラーをやっている数が多いところにまず相談に行って、「どうしたらいいですか?」っていう仕事が今度は出てくるんじゃないかなとは思いますよね。

 巻口:いずれにせよ、いろんな商品を全部チェックするわけにはいかないので、なんらかの認定制度だとか、信頼マークだとかいずれ出てくるとか思うんですけど、そこまでは皆さん自助努力でがんばりましょうって話ですね。

 後編へ続く。

取材・文/久我裕紀

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