両親ともに理系の研究者の家庭に育った藤代さん。両親の繰り広げる研究の会話がとても楽しそうで、「自分も早く仲間になりたい!」と思ったことが、科学者を目指したきっかけのひとつだと言う。
藤代有絵子さん/1993年生まれ、山梨県出身。東京大学大学院 工学系研究科 物理工学専攻 十倉研究室在籍。日本学術振興会特別研究員。2020年度、日本ロレアルが主催、国内の若手女性科学者を支援する、ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞を受賞(2021年度も11月25日より募集開始)。
「小学校の時に買ってもらった宇宙の図鑑の影響も大きかったですね。見ていると吸い込まれそうになる不思議な感覚があって、怖いと思いながらも、もっと宇宙を知りたいという気持ちが強くなりました」
現在の研究分野は物性物理学。マンガンやゲルマニウムなどの金属材料を化合物にし、磁場に対する電子の振る舞いを測定するなど、日夜、物質の新たな機能の解明に勤しむ。東京大学総長賞など受賞歴が多く、研究実績も高く評価されている、女性科学者のホープだ。
「金属材料を入れたガラス管を真空状態にして、バーナーで炙るのが実験の基本。『私、溶接工だっけ?』って思う瞬間も(笑)。実験で使う金属材料は、見た目は小さな石ですが、超伝導のようにエネルギーロスを少なく電流を流せる材料になり得るなど、驚くべき可能性を秘めているんです」
藤代さんの研究が実を結べば、メモリデバイスをさらに小型化できるなど商用面での期待値も高い。
「物質に見出した新たな性質が、数十年後に世界を救う要因になるかもしれない。そんな発見ができたら研究者冥利に尽きますね。将来は研究室を持ち、後輩の学生も育てたい」
Q.仕事をする上で欠かせない道具や習慣がありましたら教えてください。
PPMSと略される物性測定装置や電子顕微鏡、真空ポンプ、ガスバーナー、電気炉などは欠かせません。あと、物理分野の研究者って、白衣を着ないのが普通なんです。だから汚れても良い、動きやすい私服で実験します。本当はヒラヒラしているかわいいスカートも着たいんですが、火を使うし、危険だからってことで、ラボ内ではスカート禁止になったのがちょっと悲しい。
Q.休日はどう過ごしていますか?
オンラインで友達とランチ会。お酒もちょっと飲みます。料理をするのが大好きで、一番リラックスする瞬間かも。家に帰ったら動画共有サイトでレシピを探すのが日課。ストックしておいて休日に一気に作ります。
Q.趣味・特技を教えてください。
今は趣味と言えるほどの趣味はなく、最近は読書も論文ばかり。最新の研究についていきたくて、自宅でも毎日、世界中から論文がアップデートされるサイトで読んでいます。
Q.好きな食べ物を教えてください。
焼肉。部位はサーロインなどこってりしたところ。あとラーメンも大好きで、淡麗系から二郎系、つけ麺などいろんなジャンルの人気店をこまめにチェック。行列にもひとりで並んでいます。
Q.好きな本や漫画、映画を教えてください。
子どもの頃は偉人の伝記が好きでしたね。漫画は『名探偵コナン』、小説は辻村深月さんの作品もよく読んでいました。最近ハマっている映像作品が、アメリカで超人気の海外ドラマ『ビッグバン★セオリー』。博士研究者を含む、男女6人が登場するコメディです。主人公は典型的な変人研究者で、友達やガールフレンドとの騒々しい日常が描かれます。分野も私と同じ物性物理学。〝あるある〟を楽しんでます(笑)。
Q.これは職業病だなと感じる行為や癖はありますか?
同業者で集まると比喩が研究用語になりがちなこと。良くないですよね。食べ物を見ても、「あの金属物質の構造に似てる」など物理の研究にたとえがち。暇つぶしに物理縛りでしりとりすることもあって、傍から見たら気持ち悪いかなって(笑)。
Q.やってみたいこと、行きたい場所、欲しいモノはありますか?
今はやっぱり海外旅行ですね。プライベートもですが、学会でいろんな国にみんなで行くのが楽しみだったんです。毎年3月に、アメリカで米国物理学会という大きな学会があるんですが、今年はコロナ禍により直前で急きょ中止に。早く気楽に海外旅行できるようになればいいな。
取材・文/佐藤太志 撮影/西村智晴 ヘアメイク/佐藤美香