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【リーダーはつらいよ】「東日本大震災、井戸水の枯渇、大雪被害、もう終わったと思いました」吉村しいたけ農園・吉村孝幸さん

2020.12.09

「リーダーはつらいよ」、今回はしいたけ農園の主の物語である。農園の主と妻と二人で栽培と収穫、販売も手掛けている。神奈川県相模原市にあるこの農園は、2011年の東日本大震災で被害を受け、その後に着工したリニア新幹線でも甚大な影響を受けている。

吉村しいたけ農園の主、吉村孝幸さん(67)。京王線、JR横浜線橋本駅から車で約30分、相模原市大島地区のしいたけ農園のビニールハウスは、新興住宅地と隣接している。市場に出回るしいたけの90%は、おがくずと栄養剤で作られる菌床栽培だが、吉村さんは風味や味が菌床栽培とは格段に違う原木栽培にこだわる。だからこそ11年の東日本大震災で深刻な被害を受け、しいたけ農園の真下を通るリニア新幹線の工事では、甚大な影響を被ることになった。今回は原木栽培のしいたけを襲った二つの災難と、めげずに出荷を続ける吉村農園のしいたけの美味さを紹介する。

脱サラして農業の道へ

相模原市の大島地区はもともと農業地帯で、吉村の実家はこの地域の旧家だ。先祖の墓石には“元禄”を刻んだものもある。江戸時代は庄屋に当たる家柄で、先々代はこの辺りの村長を務めたという。父親は教育者で、地元の学校の校長を務めた。

農学部を卒業し、公務員になった吉村孝幸だが、実家には土地がある。農業への夢をかなえるべく30代半ばに脱サラ。長年、農業に精通している母親の手助けが必要だった。さて、何を作るか。

「都会に近いこともあって、農業指導員に勧められたのは、小松菜やホウレン草等の軟弱野菜でした。ところがオフクロが軟弱野菜は手間がかかるからイヤだと」

「何がいいかな?」「しいたけだったらいいよ」母親とはそんな話で落ち着くと、しいたけメーカーの講習会に参加したり、彼の試行錯誤は続いた。

しいたけの原木栽培へのこだわり

そもそも市場に出回るしいたけの90%以上はおがくずを固め、栄養剤を入れて作る菌床栽培だが、吉村は味も風味も歯ごたえも格段に異なる原木栽培にこだわった。原木の栽培には露地と施設がある。彼が取り入れた施設栽培は、枝を90㎝ほどに切った直径約15cmほどの原木にドリルで12mmの穴を開け、しいたけ菌を植菌しロウでふたをする。

しいたけ菌を打った原木を“ほた木”というが、ほた木は休養舎と呼ばれるビニールハウスに置かれる。休養舎では“菌まわし”といって、ほた木に菌糸が伸びるのを助けるため、季節に応じて、ほた木に適度の井戸水の散水を続ける。菌糸が十分にほた木に行き渡るまで半年から1年は休養舎で置く。しいたけが出る状態になったら、刺激を与えるため井戸水で満たした水槽にほた木を浸す。水槽に浸す時間は季節によって差があるが長い時で一昼夜。

水槽から取り出したほた木を発生舎という別のビニールハウスに置く。品種によって異なるが室温を20~23℃に保つと、ほた木からしいたけがニョキニョキと生え、取材をした晩秋の時期なら、10日ほどで出荷できる。

吉村しいたけ農園のオープンは91年だった。

「これといった失敗もせず、しいたけ栽培をはじめてからしばらくは、快調過ぎるぐらいでした」と、吉村は言う。

福島県から仕入れた阿武隈山地の原木が絶妙だった。原木はコナラだが木の肉質、木の皮の状態が、しいたけを栽培にうってつけだった。しかも安価だった。90年代後半から2000年代、最盛期はパートを4人雇って、多い時で年間1万6000本の原木から、およそ15トンものしいたけを出荷した。ところが――

福島原発事故とリニア工事の甚大な影響

「2011年の東日本大震災に伴う福島の原発事故で、すべてが狂ってしまいました」それまで毎年数千本は仕入れていた福島県産の原木が、放射能の影響で入手できなくなってしまったのだ。長野県や山梨県等から代わりの原木を仕入れたが、思うように生産量が伸びなかった。出荷量はみるみる減っていった。

そこに追い打ちをかけたのが、リニア新幹線の工事の影響である。リニア新幹線は品川から名古屋までの区間のうち、86%がトンネル内を走行するのだが、

「最初の計画では確かうちよりも、200mほど南側にトンネルが通るはずだったんですけど、だんだんうちに近づいて来て。正式決定になった時は、うちの真下をトンネルが通ることになっていたんです……」

測量に来たJR東海の職員は、しいたけ農園の井戸のすぐそばに赤い杭を打ち込んだ。井戸の真下をトンネルが通る。工事が始まればその影響で、井戸は涸渇し使えなくなってしまう。井戸水は施設の原木栽培の“命”である。ほた木に菌まわしをして、しいたけが出る状態にするにも、しいたけを出すために刺激を与える時も、井戸水がなくてはならない。水道水は費用がかむし、カルキ等の不純物はしいたけ栽培に適さない。トンネル工事の影響で井戸水が涸渇すれば、それはしいたけ農園の廃業を意味していた。

「よりによって、うちの井戸の真下をトンネルが通るなんて……驚いたというか、原発の事故を経験していましたから、“またかよ”という思いでした」吉村は軽くため息をつく。

これで終わったかな……

ところが、しいたけ農園を襲った災難はこれで収まらなかったのだ。さらに泣きっ面にハチが待ち構えていた。リニアのトンネルが井戸の真下を通ると決まった後の2014年2月14日から15日にかけて、関東甲信越地方を襲った記録的な大雪。山梨県甲府市で114㎝の積雪を記録したが、農園のある相模原市大島地区も記録的な積雪に見舞われ、収穫前のほた木を納める発生舎のビニールハウスが、雪の重さで崩壊してしまったのだ。

これで終わったかな……

原発事故の影響で、収穫量も最盛期の半分以下に減っていた。つぶれたビニールハウスを前に、吉村孝幸の脳裏にそんな思いが過っていた。

明日公開の後半は、吉村しいたけ農園の原木しいたけの美味と、再びしいたけ栽培に挑む農園主の心意気を紹介する。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama

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