理想酒場と人生の機微
でね、後日談になるけど、帰ってからこの店のことちょっと調べたんですよ。
そしたら、時には、なかなか手に入らないような、それこそとんでもないプレミアム焼酎までもが、さらっと壁際に置かれていることもあるらしいんですよ。そしてそれも200円…。
おまけにオレは常温水で割ったけど、割らないで焼酎オンリーなら、ぐい呑みを表面張力まで満たして呑んでも200円だからね。
でさ、そのぐい呑みの容量を記事の最初の方に“150ccはゆうに入る”って書いたけど、今この原稿書きながら、この量も気になっちゃってね。
ウチにもこの店とちょうど同じくらいの大きさのぐい呑みっていうか、茶碗蒸し用の磁器があったんで、何cc入るか調べてみた。
そしたら200cc入った!!
呑もうと思えば、200ccの本格焼酎が……それも時にはとんでもないプレミアム焼酎が、一杯200円!!
もうなんかワケわかんないでしょ。さっき“タダみたいなもんじゃん”って書いたけど、もはや“タダ”を通り越して、こっちが逆に金もらって酒呑んでるみたいな気分にすらなってくる!
ボランティア酒場といってもいいかもしれない。そういや、店主の方の話によると、常連さんが時々、酒を持ち込んでくれるんだそうだ。「九州に旅行行ったから、これ店で出してよ」なんてつって。
あまりの安さにお客さんも、感動し賛同し、店に協力しちゃってるんですよ。
呑んだ杯数自己申告制といいう、お客さんからの持ち込みといい、お店とお客の美しき相互信頼関係!! これぞイイ酒場の理想形!
話は呑んでる焼酎に戻り、続きましてちょっと雰囲気変えたくて、栗焼酎の銘柄忘れたけどなんか呑んで、その後は純米焼酎っていうのを呑んでんですが、もはや記憶が白濁しておりまして……栗焼酎あたりで、呼び出したI君が合流したんだけど、何を話したか、最初の方しかあんまり覚えてないもん。
“呑んだ杯数は自己申告”って聞いた時に「これはしっかり杯数をカウントできるよう、心を引き締めて呑まないと…」って決意してたのに、そんな決意はどっかいっちゃって、ただただ気持ちよくなっておりました!
しかし、この店で心引き締めたまま呑めるヤツがいるのか? いるんだったら会ってみたい。
酒の話ばっか書いちゃったけど、ツマミもオツでしたよ。お通しに出てきた枝豆からして、ただの枝豆じゃない『わさび枝豆』っていうワサビのツンとした風味の聞いた枝豆でね。これだけで焼酎2杯行けるもん、200円の。
当然また行きたいんだけど、店に醜態さらしたようで、また行くのがチョット恥ずかしい。あんまイイ店だと、こうなっちゃうのが痛し痒しの還暦ちょい前のお年頃なんだよなァ~。
女房と行けば、酔っちゃうと後でしこたま激怒されるんで、酔わない自信はあるんですが、いわば呑みたい量の半分も呑まない…いや呑めないような状況でしょうから、それじゃ全然楽しめないよなァ~。人生って色々だよなァ…。
まぁ酒場っていうのは、様々な人生を痛感する場所…っていうことだなァ…。
文/カーツさとう
コラムニスト。グルメ、旅、エアライン、サブカル、サウナ、ネコ、釣りなど幅広いジャンルに精通しており、新聞、雑誌、ラジオなどで活躍中。独特の文体でファンも多い。