■連載/あるあるビジネス処方箋
今回は、元女子プロレスラーの元気 美佐恵(げんき みさえ)さんに取材を試みた。元気さんは、テレビ番組「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」(日本テレビ系)の女子プロ予備校2期生(1993年公募)で、1994年にプロデビュー。最盛期、175センチ、95キロの大型パワーファイターとして活躍した。
全日本女子プロレス、ネオ・レディース、NEO女子プロレスに籍を置き、AWF世界女子シングル、NWA認定パシフィック&NEO認定シングル、初代大日本女子シングル、NEOタッグ(松尾永遠/田村欣子)、JWPタッグ(輝優優)などになる。2008年、35歳で引退。
元プロレスラーのザ・グレート・カブキさんが経営する居酒屋「かぶきうぃずふぁみりー」などで修業を積み、2016年から居酒屋「ねばーぎぶあっぷ。」の店主として奮闘する。自ら厨房に立ち、料理をつくり、アルコールをふるまう。開店時から、かつての同期生の藤本由美さんが支える。プロレスや格闘技が好きな会社員、学生、主婦、フリーターが連日集う。女子プロレスラーの現役、OG、男子プロレスラーの現役、OBたちも来客する。
今年2~3月以降、コロナウィルス感染拡大で大きな打撃を受けたと言われる居酒屋業界だけに、現状をメディアで伝えることは意味があると私は思う。そこでお話を伺うことにした。開店前にオンライン取材ができた。
居酒屋「ねばーぎぶあっぷ。」は、JR飯田橋駅東口から徒歩5分。文京区後楽2-3-17米虫ビル1階(ベルサール飯田橋ファーストの前)。営業時間:18時~23時半 土曜日18時~22時
Q お店の経営は、この半年ほどはいかがでしたか?
2~3月は売上は通常通りでしたから、心配はしていなかったのです。4月7日、政府が緊急事態宣言を発令しました。あの時点で、政府から持続化給付金100万円が私たちのようなお店にも支給されると聞いていました。東京都からも休業したことへの協力金(「感染拡大防止協力金」)50万円を受け取ることができると知らされていました。ですから、4月上旬の時点では大きなショックは受けていなかったと思います。
ただし、政府や東京都から受け取る金額(計150万円)では、毎年のこの時期の売上に達しないのです。それでも、お店のスペースが比較的こじんまりとしているから、一等地や間取りが広い店舗に比べると多少安いので払えました。発令が解除された5月下旬まで休業にしましたが、まあ、なんとか潰れはしないかな…と楽観的に考えるようにしていました。お客さんやその家族にご迷惑をおかけするのは避けたいと強く思っていました。
5年前の開店時から、一緒に手伝ってくれる女子プロ時代からの友達(藤本由美さん)が、従業員としてそばにいてくれます。150万円やそれ以前のわずかな内部留保で、4~5月の家賃や公共料金、光熱費の固定費、彼女への賃金を支給していました。私は最低限度、生きていく生活費があればなんとかなりますから・・・。
5月下旬まで、一切開店していません。時々、お店に来て室内の空気を換気したり、掃除をしていました。衛生面には、常に注意をしているんです。カウンターの色を塗り替えもしました。お客さんの中には電話やメールで激励してくれる方がいました。ボトルを買ってくれて、金銭的なサポートをしてくださった方もいるんです。ありがたかったですね。5月下旬以降に、女子プロ時代の仲間や現役の選手が来てくれました。私からは連絡をあまりとらないのですが、うれしかったですね。
売上は多少、回復傾向になり、元に戻るかな…と期待したのですが、7月に東京都から営業時間短縮の要請がありました。酒類を提供する飲食店などに営業時間を朝5時から夜10時までに短縮する内容でした。
開店が午後6時ですから、10時で閉店にすると、4時間ほどの営業になります。短縮要請の時期は8月末まででしたが、この期間にお客さんの数がまた減りました。売上は、7月から8月末まではずいぶんと落ち込みました。特に8月は、5年前に開店した直後の売上になり、大赤字。9月以降、今に至るまで2~3月の頃の売上には戻りません。10月になり、多少、回復傾向にはなっています。
Q 元気さんは、強いですね。私が取材する居酒屋の店主の中にはストレスのあまり、精神的に滅入ってしまい、経営ができない状態になった人もいます。
「ねばーぎぶあっぷ。」と店名に掲げているし、私のリングネームが元気美佐恵でしたから…明るく、元気にしていくことが大切だと言い聞かせています。5年前から一緒に組む友達は私が立場上は雇う側だから、そのあたりはきちんとしなきゃいけないと思っているんです。
開店から2年程は売上が少ない時期があると、彼女に愚痴をこぼしていました。自分が不安だったからでしょうね。経営する立場でありながら、不安を煽ることをしてしまい、今も反省をしているんです。その頃、自分の性根を治そうと思ったのです。まあ、今年の8月は「やばいよ」って、ずいぶん愚痴をこぼしてしまいましたが…(苦笑)。5年間働いてくれているから、本当に感謝しています。
7~8月に経営が一段と苦しくなった時には、お店をやめて、キッチンカーを出そうかと彼女と話したこともあるのです。キッチンカーならば、どこにでも行けるかもしれないし、自粛要請を求められないかもしれない。夢物語ですけど…。準備に時間やお金がかかるし、いろいろな資格が必要になります。そこは、きっぱりとギブアップしました。
とにかく、お店を守っていくしかないと考えたんです。明るく元気よく、開店すると、お客さんが少しずつ戻ってくれていますから…。今後、コロナがひどくなったら新たに対策を考えなきゃいけないですけど。こんなになっても、来てくれるお客様にも恵まれている気がします。ありがたく思います。
Q 女子プロレス時代の仲間からの支援は?
大先輩の長与千種さんや北斗晶さんが、コロナウィルス感染拡大の影響を受け、打撃を受けている女子プロレス界を支えるために最近、女子プロレス共闘組織『ASSEMBLE』を発足させたのです。その大会の選手やスタッフへのまかないなどで、北斗さんから直々に仕事の依頼をいただきました。
現役時代から大変にお世話になっている井上京子さんの武蔵小山にあるスナック(あかゆ)には、最近伺いました。京子さんはワールド女子プロレス・ ディアナ代表取締役社長で、「あかゆ」も経営しています。今は多くの店の経営が苦しくなっているから、何らかの影響を受けているのかもしれないですね。
京子さんは、絶対に愚痴をこぼしたりはしないんです。後輩である私たちや、周りにもファンにも、そういう姿を一切見せません。「プロレスラーたるもの、弱さを見せてはいけない、常に強くあるべき」という考えをお持ちです。それを守り抜いている方です。この寒い中、京子さんは店内で半袖でした。人間的に熱い心の持ち主ですが、実際、体も熱いみたい。真冬でも室内では半袖、冷房にして温度は18°。家では、裸!超人ですよね!…(笑)。
うちの周辺の会社は会食禁止令が出ているようで、毎年多かった12月の忘年会の予約もなかなか入らなくなりました。11月に入りましたから、(この記事を読む方の予約を)お待ちしています。どうぞよろしくお願いします。そろそろ開店時間だから…。後は、お店に来てくださったら話しますよ。
文/吉田典史