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日本在住でたった1人!ワイン業界で最も権威のある「マスター・オブ・ワイン」に36歳で挑戦、合格するまでに実践した3つのこと

2020.09.27

ワインの資格といえばソムリエを思い浮かべる方が多いだろう。今回ご紹介したいのは、イギリスで発足した、ワイン業界で最も権威のある称号である「マスター・オブ・ワイン」。

世界30か国で409人(※)しかいないが、日本在住者でただ一人その称号を保有しているのが大橋健一MW(マスター・オブ・ワイン)だ。(※2020年8月現在)

現在、酒類専門店「山仁酒店」で代表取締役社長を務め、さらにワインコンサルタントなど多方面で活躍している大橋MW。ワイン業界で最難関といわれる試験を突破するまで、何年もの時間を要するが、「酒屋の息子」として育った大橋MWがマスター・オブ・ワインを志したのは36歳だ。

「マスター・オブ・ワイン」とはどのような資格なのか、また大橋MWが何年もかけて、試験にチャレンジしながらモチベーションを保ち、合格するまでに実践してきた方法を伺った。

マスター・オブ・ワインとは

マスター・オブ・ワインになるためのステップ

はじめに、マスター・オブ・ワインになるためには、マスター・オブ・ワイン協会にて専門的な学習プログラムを受ける。その上で、

〈ステージ1〉基礎学科
〈ステージ2〉36種類のワインテイスティングの実技試験と理論(5つの論文)
〈ステージ3〉6千~1万語のリサーチ・ペーパー(研究論文)

の全てに合格することが必須だ。基本的に英語で行われ、合格まで最低でも3年間を要するが、難易度が非常に高いため、実際にはその倍以上の年月がかかることが多く、また全員が合格できるというわけでもない。

マスター・オブ・ワインの学習プログラムの内容は多岐に渡る。ブドウの栽培や醸造、ワインビジネス、最新の時事問題なども含み、合格すればワイン業界のどの分野でも働くことができるような、非常に幅広い知識を習得できる。

また、マスター・オブ・ワインの学習プログラムに入るための条件もある。ワイン業界での3年の実務経験や、難関といわれるWSETディプロマ(※)以上のワイン資格を保有しているなどが必要。つまり、マスター・オブ・ワインを志し、学習プログラムに入ること自体がすでに大変難しいことなのだ。

(※)WSETはWINE & SPIRIT EDUCATION TRUSTの略で、世界最大のワイン教育機関である。WSETの認定資格はLevel 1~4まであり、Level 4である「ディプロマ」は、日本人ではわずか59人しか保有していない(2020年1月現在)。

はじめに「マスター・オブ・ワイン」とはワイン業界の中でどのような存在であるのか、大橋MWに伺った。

「マスター・オブ・ワイン協会員」になることが大切

「1953年にイギリスで発祥した『マスター・オブ・ワイン協会』は、世界中のワインの有識者が目指す学位です。イギリスは古くからワイントレードの中心地として知られています。試験に合格すると、国際商標権である『マスター・オブ・ワイン(MW)』を名前の後ろに付けることができます。

マスター・オブ・ワインとは、私は商業ギルドのような集まりだと考えています。マスター・オブ・ワインは『マスター・オブ・ワインの協会員になるための学位』なのです。協会員になるための関所の札のようなものと言えるのではないかと思います。

マスター・オブ・ワインに合格していない時に、ほかのマスター・オブ・ワインに連絡を取るということはできないのですが、協会員になると、ワイン業界で世界的に著名な方とも連絡が取れるようになります。

フレンドリーすぎるというくらい連絡を取り合うことができ、互いの仕事の情報をシェアすると、ものすごい発見があったりして、仕事に繋がるようなこともあります。マスター・オブ・ワインは、世界中のマスター・オブ・ワインたちと連絡を取ることができるコミュニティなのです。その関所の門を開けられるかどうかということです」

マスター・オブ・ワインは「ワイン界のオーシャンズ11」である

「マスター・オブ・ワインを目指すのはワイン業界に従事している人が多いです。試験の最後に、リサーチ・ペーパー(研究論文)を書くのですが、その内容でその人のキャラクターが決まるようなところがあります。醸造に関する論文を書いた人、マーケティングの人、アートの人、いろんな人がいます。

例えば、マスター・オブ・ワインのコミュニティの中で、誰かが『こんなことで困っているけれども、誰か力を貸してくれない?』と言うと、世界中のマスター・オブ・ワインが助けてくれる。『このプロジェクトを組むけど、あなた入ってくれる?』『はい、もちろん!』というように、要はラスベガスの大きな金庫破りのためのオーシャンズ11のような集まりなのです。仕事が終わると、『またいつかあなたの国か私の国で会おう。じゃあな』という感じになれる。そんな軍団だと思って下さい。

私はリサーチ・ペーパー(※)の内容から、日本でブランドを成功させるためのマーケティング方法や、例えば日本の酒蔵が海外で商品をヒットさせるために必要なスキームを作る時などに呼ばれたりします。

マスター・オブ・ワインのみんなが仲間であり、本当に強いコミュニティであるのです」

ワイン市場に影響を与える世界中の協会員たちと情報をシェアし、誰もが互いに助け合い、共に仕事をする。試験を合格した先に、「マスター・オブ・ワイン協会のコミュニティに属する」ということに大きな意義があることが見えてきた。

(※)大橋MWのリサーチ・ペーパーのテーマは「東京の高級寿司レストランのワインリスト 現状と変革への可能性」

36歳でマスター・オブ・ワインの取得を決めた当時の気持ち

36歳の時にニュージーランド出身のサム・ハロップMWと出会ったことで、マスター・オブ・ワインを目指すこととなる。その当時の気持ちを伺った。

サム・ハロップMWと出会って気付いた圧倒的な視点の差

「36歳で取得を決めようとした時、迷いは相当ありました。36歳って、下手すると社長さんもいますし、仕事ができる優秀な中間管理職の方もいる。私は32歳の時に日本ソムリエ協会主催の全国ワインアドバイザー選手権で優勝したのですが、そこで終わりにしようと思っていました。

自分の会社である山仁酒店を経営していく上で、決算書の見方など経営学を本格的に学ばないといけないと思っていましたが、集中して勉強しようと思っていた頃に、人の紹介でサムMWに出会い、スキルではないのですが『圧倒的な視点の差』に気付いちゃって。こういう人が日本にいないのが、将来的に良くないと感じたのです。

例えば、ワインも日本酒もそうなのですが、醸造の排水って酸性水なんですよ。これを川に流していくと、どんどん川の生態系がおかしくなってくる。アメリカも、渓流にいるサンショウウオがワインの醸造排水で絶滅の危機なんです。酒造りやワイン造りは自然環境が大切ですが、『こういう観点でワインをビジネスにしている人っていないな』と考えました。

もちろん自分がなりたいというのもありましたが、自分だけじゃだめなんですよ。早くこういう人が出てこないと、外国の人に日本のワイン業界は倫理観を教わって、主導されて……日本がそこをリードする国になれるというイメージが全く湧かなかったんです。だから、まずは自分がならないとだめだというのがありました」

サム・ハロップMWと

「マスター・オブ・ワインになるためにはもちろん難しさや、英語を勉強しなければならないという煩わしさがあります。簡単に計算しても5年ほどで合格している人もほぼいないので、そうすると『これから何年勉強するの?』というのがあったのですが、それ以上に、社会的な倫理観や、その経済活動を通した社会貢献とか、ワイン業界でそういう見方をする人が日本にいないっていうのが、すごく良くないと思ったんです。

マスター・オブ・ワインの取得を決めても、どうしても会社の経営が疎かになるため、同時に、信頼できる人から経営的な指南を受けました。また、私には共に働く一歳年下の弟がいるのですが、弟が現場のマネジメントをしてくれたというのが大きかったです」

最難関の資格取得に向け、どのように立ち向かっていったのか

強い決意を持って、仕事面の環境を整えながら資格取得に向け準備を始めた大橋MW。

サム・ハロップMWとの出会いから3年後、マスター・オブ・ワインの学習プログラムに入学するために必要なWSETディプロマを取得した。再度述べるが、これだけでも本当に難しいことだ。

留学経験がなかった大橋MWは42歳で晴れてマスター・オブ・ワインの学習プログラムに入学するものの、ステージ1を不合格になり、留年してしまう。ステージ3のリサーチ・ペーパーの合格までの6年間、どのようにモチベーションを維持しながら合格へと立ち向かっていったのだろうか。

常に「気合いと根性」

「根本的に言うなら『気合いと根性』しかないです。要は、絶対になれると信じ切ること。信じ切っていても、ステージ1でつまずいてしまいました。クラスメートの半分以上くらいはステージ2に行くのですが、私だけがステージ1に戻って……要するに留年ですよね。

留年すると新しい生徒が入ってきますから、そのような環境はもちろん落ち込みました。いろんな先生に『俺だけだめだった』と言ったり、どうしたらいいんだろうと聞いたりしていました」

自分から先に親切にする

「人のアドバイスは、絶対に忠実に聞くようにしていたら早道なんだろうなということを信じていました。嘘のアドバイスをする人はいないでしょうけれど、なるべく私が人に良いことばかりしていれば、人は私に悪くはしないですよね。だからまず、『日本に来たら絶対に私に声をかけて。一緒にお寿司を食べに行こう』などと言いながら、勉強の合間に時間を作って、先生や同級生に出来るだけ親身になって対応するようにしていました。

そうすると、彼らから『今度こういうセレモニーがあって、勉強になる機会だけれど、自分の国まで来る?』などと声をかけられるようになりました。実際に行ってみると、その国の人以外は私しかいなかったとか、勉強になることがあったなど、何かしら掴むものがあればモチベーションは少し高くなってきますよね。そういうことの連続ですね」

「日本人」の殻を脱し、徹底的に自分の意識と行動を変える

「でもやっぱり、ネイティブのイングリッシュスピーカーではないので、相当なハードルがあります。今でもマスター・オブ・ワインのレクチャーを聞いていると、半分はわからないです。

例えば日本語で、『マスター・オブ・ワインのレクチャーを聞いていると半分はわからない』と言った場合、『私は』という主語がなくても通じます。日本語でも英語でも本を読めば主語がくっついてきますが、口語の会話だとわかりづらいことが多い。アメリカとイギリスの英語も、形容詞の使い方が全然違いますし、言っていることがわからないと、授業を聞いていても悲しくなりました。

これはどう対処したらいいのだろうと思い、先生に相談すると、『授業中は出しゃばってでも話を止めろ。止めて質問しろ』と言われるのですが、これまた日本人にはできないんですよね」

「あるマスター・オブ・ワインにその悩みを打ち明けたら、『日本人でいるうちには絶対になれない。日本人って生徒の中でワーストだよ』と言われたんです。『勉強したいホスピタリティがあるのはわかるけれど、自分が思っていることをまず言わないと』、と。実際には‘‘言わない’’んじゃなくて‘‘言えない’’んですよ。でも、『そのやり方があなたたちの文化であることもわかるけれど、私たちにとっては不親切にしか見えない』と言われてしまいました。その意識改革をしなければだめでした。

『授業は全部最前列に座って、先生が質問をしたら一番先に手を挙げて、出しゃばりだと思われるくらい手を挙げろ。アメリカの100人以上ある大教室でも、それが普通にできるようになったら、お前は絶対合格する』と言われました。

だからもうその言葉を信じて、やるしかないと思いました。どこへ行ってもそれをやり続けて、最終的には『お前は日本人じゃない』って言われるようになっちゃいましたけどね。信じてやることだけですよね。だから結局『気合いと根性』なのです」

マスター・オブ・ワイン授与式にて

「気合いと根性」
「自分から先に親切にする」
「自分の意識と行動を変える」

以上の3つのことを意識して並ならぬ努力を続けた結果、2015年、大橋MWは48歳の時にマスター・オブ・ワインとなった。

現在はワイン業界を牽引する存在として、世界中で活躍している。

大橋健一MWプロフィール

酒類専門店の株式会社「山仁酒店」(栃木県宇都宮市)代表取締役社長。コンサルタント会社「株式会社レッド・ブリッジ」も所有。ロンドンで開かれるインターナショナル・ワイン・チャレンジ日本酒部門審査のコ・チェアマンも務め、世界中で活躍。

2017年より「シャトー・メルシャン」およびメルシャンが輸入・販売する「アルベール・ビショー」のブランドコンサルタントを務めている。

ワイン業界で最も権威のある称号「マスター・オブ・ワイン(MW)」を保持している日本人は、大橋健一MWとロンドン在住の田中麻衣MWの2人のみ。

【取材立会/協力】
メルシャン株式会社

取材・文/Mami
(一社)日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート

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