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【開発秘話】総出荷本数が200万本を超えたコーセーの「メイク キープ ミスト」

2020.09.12

■連載/ヒット商品開発秘話

 男性にはわかりづらいが、女性にとって化粧崩れは世代に関係なく普遍的な悩み。化粧崩れを防ぐ対策商品はいろいろあるが、中でも現在評判なのがコーセーの『メイク キープ ミスト』である。

 2019年6月に発売された『メイク キープ ミスト』は、メイクの仕上げにサッと吹きかけるだけで汗や皮脂、水をはじいて化粧崩れを防ぐミストタイプの仕上げ用ローション。フレッシュフローラルの香りで、効果持続時間は8時間ほど(コーセー調べ。効果には個人差あり)持続する。新型コロナウイルスの影響で売れ行きが厳しい化粧品の中にあって快調に売れており、2020年7月末に総出荷本数が200万本を超えた。

コストを度外視し驚くような効果があるものをつくる

 化粧崩れを防ぐ商品で代表的なフェイスパウダーは、化粧の上に粉をはたくという特性上、化粧の質感が変わってしまうことが避けられない。現在のメイクのトレンドであるツヤ肌の上にフェイスパウダーをはたくと、せっかくのツヤ感が落ちてしまう。

 こうしたことから、質感を変えることなく化粧崩れさせない商品として開発されたのが『メイク キープ ミスト』。宣伝部PR 課の平井祐未さんは「仕上げに欠かせず新しい化粧文化として定着するような商品を目指して開発が始まりました」と話す。

コーセー
宣伝部PR 課 平井祐未さん

『メイク キープ ミスト』は大きく分けて汗・皮脂プルーフ成分とメイクコート成分の2種類の成分で化粧崩れを防いでいる。

 汗・皮脂プルーフ成分は水にも皮脂にもなじみにくく、メイクにじみなどを防ぐ。一方のメイクコート成分は、汗・皮脂プルーフ成分を肌にしっかりとどめながら肌に柔軟な膜を形成する役割を持っている。汗・皮脂プルーフ成分をメイクコート成分がとどめることで、汗や皮脂、水、雨、涙をはじくというわけだ。化粧崩れを防ぐには硬い膜の方がいいように思えるが、「顔の肌はつねに動いているので、膜が硬いと表情割れを起こし化粧が崩れます」と平井さんは話す。

 しかし、『メイク キープ ミスト』が水と皮脂の両方をはじくのはなぜか? その秘密は、大きく分けて2つの成分で構成されていることにあった。

 2つとは水溶性の成分と、水にも皮脂にもなじみにくい油溶性の成分。このため、『メイク キープ ミスト』はよく見ると2層になっており、使用方法も10回以上振って2つの成分をスプレーボトル内で混ぜ合わせてから顔に吹き付ける、となっている。

 開発当初は水溶性の成分だけを使って『メイク キープ ミスト』をつくろうとしていたという。ただ、水溶性の成分だけだと皮脂ははじくものの、汗や水、雨、涙には弱い。そのため「化粧持ちを多少良くすることはできましたが、驚くような効果が得られませんでした」と平井さん話す。

 このままだと物足りないものしかできないことから、驚くような効果が発揮できるものをつくるべくコストを度外視して開発することに。社内では実現が疑問視されていたが、「お客様のニーズに応えられるものをつくりたい」という関係者の熱い想いから、実際につくって証明することを条件に開発の了解が得られた。

100種類超のサンプルすべてで経時変化を調査

 コストを度外視して開発することを決めた後、開発は加速する。水溶性と油溶性成分の二層構造で再検討を開始。肌の乾燥による化粧崩れ防止や肌への負担感を抑えるため、保湿成分を加えることにした。

 水溶性成分と油溶性成分の両方を配合することで、水分も皮脂も弾くことが可能になる。ただ、完成までに多大な苦労を強いられることになった。

 まず、水溶性の成分、水にも皮脂にもなじみにくい油溶性の成分は、ともに数多くある。様々な組み合わせを検証するだけでなく、同じ組み合わせでもそれぞれの成分の配合比率を変えるなどして検証することになった。

 また、膜を形成することから、スプレー先端に付着した液体が乾くと固まってしまい使えなくなるという問題や、肌に吹き付けると違和感や負担感が生じるという問題も発生。容器の見直しや中身の処方変更などの対応に追われた。

「感触の良さ、化粧持ちの良さなどのバランスがうまく取れる安定性を実現するのが大変でした」と振り返る平井さん。つくったサンプルは100種類を超え、サンプルができるたびに経時変化を調査。調査は朝から夜までかかるので、とにかく時間と労力を要した。

 このほか、人工皮革を使った撥水効果の検証や皮脂のにじみも検証。人工皮革を使った検証では、撥水性は未使用時と比べて段違いに高く、皮脂のにじみは未使用時よりも小さく抑えられることが確認できた。

『メイク キープ ミスト』を人工皮革に塗布したものと未塗布のものの撥水効果の比較。塗布したものは水が染み込むことなくすべて流れ落ちている

人工皮革に一般的なパウダーファンデーションを塗布し『メイク キープ ミスト』を塗布したものと未塗布のものそれぞれに擬似皮脂を1滴垂らし、1時間後の皮脂のはじき具合を比較したもの。『メイク キープ ミスト』を塗布したものは未塗布のものより皮脂のにじみが小さく、皮脂を多くはじいていることがわかる

動画配信で高い機能性を訴求

 構想から発売までに要した時間は実に4年。苦心の末に『メイク キープ ミスト』は誕生したが、発売は静かに始まった。テレビCMなど目立つことはせず、その代わりに、ブランドサイトや同社の総合美容情報サイト『Maison KOSÉ(メゾンコーセー)』公式Twitter、東京メトロの車両で流す電車内ビジョン広告、SNS広告で配信するための動画を制作した。

 動画では高い機能性を訴求。そのために使った演出が、メイクした卵に水を掛け続け、『メイク キープ ミスト』を使ったものとそうでないものを比較するというものであった。未使用の卵と違いいつまでもメイクが落ちないシーンは、視聴者に強いインパクトを残した。「動画を見て『これだけ落ちないなら使ってみよう』というお客様の声を多くいただきました」と平井さんは話す。

動画で機能性の高さを訴求するために使った、メイクした卵に水を掛け続け、『メイク キープ ミスト』を使ったものとそうでないものを比較する演出のワンシーン。『メイク キープ ミスト』を使用した卵は未使用の卵と違いいつまで経ってもメイクが落ちない

 発売当初はこうして汗や水、皮脂で化粧が崩れないことを訴求したが、冬になると、化粧崩れを防ぐことのほか保湿効果を訴求することにした。

マスクメイクでさらなる注目を集める

『メイク キープ ミスト』は2020年3月に総出荷本数100万本を超え、その後4か月ほどでさらに100万本を上積みした。コロナ禍の中で急速な上積みを実現した理由の1つがプロモーション。新型コロナウイルス感染症の流行以降は、必ず、「#マスクメイク」というハッシュタグをつけてプロモーションを展開することにした。

 この影響もあってか、ほぼ同時にTwitterやInstagramで、『メイク キープ ミスト』に関するインフルエンサーの自発的かつ好意的な投稿が目立つようになってきた。「神コスメ」「マスクメイクの必須アイテム」などと評した投稿が一気に拡散。YouTubeでも、『メイク キープ ミスト』の効果を実証する動画の投稿が目立つようになった。

 また、コロナ禍の2020年5月に、フレッシュシトラスの香りと、フレッシュフローラルの香りのトライアルサイズを数量限定で発売する。フレッシュシトラスは春や夏に合った香りとして、トライアルサイズについては効果に疑問を持ち購入に慎重な人が手に取りやすいをものとして企画された。トライアルサイズには「持ち運びたい」という声に対応する意味もあったという。

数量限定販売されたフレッシュシトラスの香り

数量限定販売されたフレッシュフローラルの香りのトライアルサイズ

取材からわかった『メイク キープ ミスト』のヒット要因3

1.効果が高い

 ボトルを10回以上振り顔に5〜6回吹き付けるだけで、化粧が長持ちする。加えて、使用感が良くメイクの質感を変えない。こうした高い機能と使用感が、化粧崩れに悩む女性の心をつかんだ。

2.コストパフォーマンスが高い

 価格は1本1200円(税抜。編集部調べ)。ドラッグストアでも買いやすい価格ながら、使いやすく高機能なため、コストパフォーマンスが高いものになった。

3.状況に応じたプロモーション

 2019年6月の発売当初は化粧が崩れない、同年冬は化粧が崩れないことと保湿、そしてコロナ禍ではマスクメイクを訴求。状況に応じて訴求ポイントを変え、つねに注目を集められるようにしていた。

 平井さんによれば、使用感に関してはネガティブな反応がほとんど返ってきておらず、好意的な声で占められているとのこと。コロナ禍で化粧品業界は売れ行きが落ち厳しさに直面しているが、真に必要とされている優れたものは、逆風下でも売上を伸ばすことができるというものである。

ブランドサイト
https://www.kose.co.jp/makekeepmist/

文/大沢裕司

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