不如帰は徳富蘆花の小説でも知られる
明治・大正時代の作家である徳冨蘆花が知られるようになった作品が、1898年に出版された長編小説『不如帰』です。元々、新聞に連載されていたものが出版され、再販されるほどのベストセラーとなりました。小説のあらすじや小説を元にした映画について紹介します。
海軍少尉を主人公とした悲恋小説
海軍少尉の武男と結婚した浪子は、幸せに満ちた新婚生活を過ごしていましたが、浪子が肺病を患ったことで状況が一変します。療養のため逗子で過ごしていましたが、武男が軍務で長期不在中に義母によって離縁させられてしまうのです。
自宅に戻った武男は激しく怒り家を出ますが、日清戦争が始まり浪子との再会を果たせないまま戦地へ向かいます。重症を負ったものの一命を取り留め帰宅した武男は、浪子のことが忘れられずにいました。
ある日、京都駅で神戸行きの列車に乗っていた武男と東京行きの列車に乗っていた浪子は、偶然にもお互いを見かけます。数秒でも再会できた嬉しい瞬間でしたが、これが永遠の別れとなってしまう、というのが大まかなあらすじです。
映画化も多数
1910年以降、小説を元にした映画が何度も制作されています。58年に公開された映画には、現在もドラマなどに出演している大空真弓や、数多くの本の出版も手掛けた丹波哲郎などが出演しています。
美しくもはかない悲恋物語だけでなく、戦時中という時代背景や古くからの風習などが盛り込まれているのも見どころです。何度も映画化された背景には、昼メロドラマのようなストーリー展開に心を揺さぶられる人が多かったからかもしれません。
不如帰以外の漢字表記と由来
不如帰以外で使われている代表的な漢字表記には、『時鳥』と『子規』があります。それぞれの表記の由来について紹介します。
田植えの時期を告げる「時鳥」
ホトトギスというと、不如帰よりも『時鳥』という表記を思い浮かべる人が多いかもしれません。日本にホトトギスが渡来する時期は、田植えを開始する時期でもあります。ホトトギスは毎年同じ時期に渡来するため、『田植えの時期の到来を告げる鳥』という意味で時鳥と表記されたのです。
古今和歌集には、『いくばくの 田を作ればか 時鳥 しでの田長(たをさ)を 朝な朝な鳴く』という一首が残されています。ホトトギスが田植えを監督する田長に早急に田植えを開始するように鳴いているという意味です。
正岡子規の由来にもなった「子規」
子規というと、日本を代表する文学者の一人である正岡子規を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか?子規はペンネームで、ホトトギスの漢字表記の一つなのです。
子規は、ホトトギスを意味する漢語で、ホトトギスの鳴き声や習性からこの字が当てられたと考えられています。
正岡子規が残した俳句の中に、『卯の花の 散るまで鳴くか 子規』という句があります。当時は不治の病とされていた肺結核を患い、長く生きられないことを知り、自身をホトトギスに重ね合わせた句です。
ホトトギスの口の中がまるで血を吐いたように真っ赤であるため、結核で血を吐き苦しむ自身を重ねたとされています。
その他、20以上の異名
異なる漢字表記があるだけでなく、20種類以上の異名があります。前述の『時鳥』のように農耕に関連するものでは、『勧農鳥(かんのうちょう)』や『早苗鳥(さなえどり)』が挙げられるでしょう。
そのほか、『霍公鳥』『蜀魂』『無常鳥』『杜宇』『しでの田長』『田鵑』『夕影鳥』『黄昏鳥』『菖蒲鳥』『橘鳥』『卯月鳥』『妹背鳥』『魂迎鳥』『沓手鳥』『杜鵑』などが知られています。
構成/編集部