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レッド・ツェッペリン「永遠の詩」のマト1を買い続けて気づいたこと

2020.08.09

『永遠の詩(The Song Remains The Same)』/レッド・ツェッペリン

 レッド・ツェッペリンは、僕が一番好きなロックバンドだ。1971年の初来日武道館公演の衝撃は忘れられない。いろいろ語られてはいるが、あまり出てこないエピソードを披露しよう。「移民の歌」で始まったこのライブ、最後の曲(アンコールではない)「胸いっぱいの愛を」になって、聴衆はようやく総立ちになった。アリーナ中央左寄りの席だったので、後方までは正確にはわからないが、おそらく全員がじっと座って驚異のハード・ロックを聴いていたのだ。

 ついでに自慢を一つ。ロバート・プラントがソロで初来日したときに『FMレコパル』の編集者として取材、その時のツー・ショットは永遠の宝物だ(撮影は、あのハービー・山口さん)。

京王プラザホテルのスイートルームにて。

 というわけで当然ながら、最も音がいいとされるレコード=マト1は、すべてのスタジオ・アルバムを所有している。通称ターコイズのUKマト1『Ⅰ』や、RLカットのUSマト1『Ⅱ』(PR工場)もマイ・コレクションだ。だが1976年発表の2枚組ライブ『永遠の詩(The Song Remains The Same)』は持っていなかった。明確な理由はないのだが、『プレゼンス』までのどのアルバムよりも2枚組ながら相場は5000円くらいと安く、いつでも買えると思い込んでいたのだろう。

ロゴの色から、通称ターコイズ。

 だが昨年ジミー・ペイジによるリマスターが出たこともあり、やはり所有せねばと思った。国際的な中古レコード売買サイトDiscogsを見ると、『永遠の詩』のUKマト1はA1B1C1D2=1112だ。つまりside3までは最初のカッティング、side4は最初のカッティングはNGでやり直し、2度目のカッティングでGOとなった。よってDiscogsやオークションサイトebay、あるいはリアル店で1112を探せばいい。簡単に見つかると思いきや、なかなかない。ようやくebayで見つけたが、約16000円もする。それでもいいとは思ったが、説明を読むとside4で針飛びするという。流石に敬遠となった。

 リタイアの特権、暇にまかせてさらにあちこちを探し、Discogsで状態がいいらしいA1B1C1D3が約2300円という格安盤を見つけて購入した。1112がないなら、それに最も近い1113で妥協しよう。だがその説明、“Light vinyl scuffs sleeve light edge wear has do not disturb sticker on ps. 2 black inner sleeves have creases splits. A1B1C1D3”をちゃんと読まなかった僕が悪いのだが、ジャケットには妙なステッカーが貼られ、黒いインナースリーブはボロボロという、わかっていたら安くても絶対に買わないレコードをつかんでしまった。そのエピソードは記事にしたので、ご興味のある方は読まれたい

ジャケットの評価はVG+。僕はVGだと思うが……。

“2 black inner sleeves have creases splits.”とはいえ、ここまでとは!!

 しかし1113の音は、すごくいい。特にドラムが圧巻だ。静かな曲「ノー・クォーター」ではノイズが多いし、「天国への階段」では一瞬針飛びするが、約2300円なら文句は言わない。いや、いい買い物をしたとも言える。とはいえ、こんなジャケットは嫌だ。となればディスクはなんでもいいから、ジャケットとインナースリーブの状態がいいものを手に入れてディスクを入れ替えよう。

 そこでやはりDiscogsで見つけた約3000円の“Great Shape. Plays Very Well. A2B1C2D1”を購入することにした。Greatなジャケットで、音もVery Well。しかしそれより何より、D1とある。『永遠の詩』のside4=Dのマトは2のはず。1ならお宝発掘! と胸が高鳴った。ところが届いてみるとジャケットはひどく、妙なステッカーのついた1113をはるかに下回る。ディスクは指紋がベタベタ、僕のレコード収集史上最悪だ。だが確かにside4にはD1と刻まれている。お宝か? だがその文字は手書きで、1113のような活字ではない。

活字のC1。

手書き文字のC2(D1はうまく撮影できなかった)。

EGカットを示す刻印。

 あれこれ調べると、手書き文字盤はEGカットと呼ばれ、正真正銘UKマト1=活字盤とは別カッティングのようだ。ようだというのは、未だにEGカットとは何なのか、僕にはわからないからだ。ただしプロは承知らしい。というのも、ディスクユニオンのサイトに、“希少枝番なし/EG CUT/”で11000円なる『永遠の詩』があった。他の在庫に比べて、倍近い値段だ。EGカットが希少なのか、枝番なしが希少なのか、そもそも枝番なしとはどういうことなのか? 謎は多いが、それはともかく2回続けて駄目ジャケットを掴むと、何が何でも状態極上ジャケットを手に入れようという闘志(!?)が湧き起こった。

 駄目ジャケ2つのジャケット評価は、どちらもVG+。マトと値段に惹かれてVG+でよしとしてしまったが、Discogsにジャケット評価NM(Near Mint)の出品はないものか? あった! ジャケットもディスクもNMで約4000円、説明は“cover is intact and crisp with two small edge nicks.”でマトに言及はないが、ジャケットさえよければなんでもいい。よし、注文しよう。

 この頃は暇さえあれば(いつも暇だが)1112はないものかと探していたが、やはりない。だがebayで約17000円ながら、ジャケットはEX+、ディスクはNMのA1B1C2D2があった。買いだ! 1113と1122を所有すれば、合わせ技で1112実現、一番いい音のマト1『永遠の詩』が聴ける。

 なんと1ヶ月ほどで、『永遠の詩』を4セットも買ってしまった。いや、実はジミー・ペイジのリマスターも欲しくなり、ヤフオクで未開封の『スーパー・デラックス・ボックス・セット』(2CD+3DVD+4LP+ダウンロードカード)をHMV価格より約1万円安く落札したので5セットだ。

『スーパー・デラックス・ボックス・セット』。中身がこれだけテンコ盛りなら、買うしかない!

 先に届いたのが約4000円盤。ジャケットは綺麗で文句なし。やっと美品に巡り合った。期待せずにマトを見ると、驚きのEGカット枝番なしだ。このディスクで、枝番なしの意味わかった。駄目ジャケ指紋ベタベタ盤は、A2B1C2D1とアルファベットの次に数字がくる。ところがこのディスクのマトはABCDで、数字=枝番がつかないのだ。ディスクユニオンで11000円を約4000円(プラス送料約2000円)で買えた。運が向いてきたか! 

EGカットの枝番なし、A。

EGカットの枝番あり、A2。Aの横に2が薄く刻まれている。

 ところが、困ったことが起きた。約4000円盤は1113のジャケットにするための購入だったが、“希少枝番なし”となればこのまま所有したい。よって、ジャケットの状態がいい『永遠の詩』をさらに手に入れなければならない。

 そう言えばとディスクユニオンのサイトを見ると、マトはA2B4C4D3ながらジャケットはEX+(ディスクはEX)で約6000 円という在庫がある。リアル店で受け取れるので送料はかからない(5000円以上買えば無料だが)し、この目でジャケットの状態を確認できる。お茶の水店に出向き、6セット目を購入。これで1113問題は解決だ。さらに同店の状態がいいUSオリジナル盤2000円強を、これは安いと購入し合計7セットと相成った。

 その後ほどなくして届いた、1122の約17000円盤。これも約4000円盤に負けず劣らず綺麗なジャケットで問題なしだ。合わせ技の1112完成、“これで一件落着”とはならないのが、マト1ワールドの恐ろしいところだ。

 この原稿を書くに当たり、久しぶりにebayで1112を探してみた。やはりない。ところが、ジャケットEX、ディスクNMで、“Label—A3, B2, C and D1 ”という出品を見つけてしまった。『永遠の詩』のマト1は1112のはずなのに、side4=Dが1とは!! しかもdisk2が11だから、所有する1122のdisk1と合体すれば、史上唯一の2枚組1111となる!? 開始価格は約7000円、絶対に落とそうと15000円を入れた。結果は開始価格で落札! 送料を入れても10000円以下だ。やった!

 しかしこうして『永遠の詩』購入記を綴っているうちに、気づいてしまった。これ、もしかしてEGカット? 枝番なしのEGカットは、マト表記するとABCDとなる。枝番ありのEGカットを“Label—A3, B2, C and D1 ”(=A3B2C1D1)と表記しても嘘ではない。でもこの出品の説明には、EGカットとは書かれていない。よってEGカットに非ず? いや僕の買った2セットのEGカットも、説明にはEGカットへの言及はなかった。“Great Shape. Plays Very Well. A2B1C2D1”で犯した過ち再びか?

手書き文字で、D-1-1S。

 浅はかだった。配達されるや即刻開封、ディスクのマトを見る。まずはside1から。活字でA3。やった!  side2は、あれ? 手書き文字でB-2だ。これって? side3も手書き文字、Cで枝番なし。そしてside4は手書き文字で、D-1-1Sと枝番つきまくりのEGカット。そうか、“C and D1”とは“CとDが1”ではなく、“CとD1”という意味か。だったら、“A3,B2,C,D1”と書いてくれ! ここに気づけば、枝番なしのマトがあるからEGカットと見抜けたはず……!?

 やっと、目が覚めました。『永遠の詩』、永遠にもう買いません。

PS:気が抜けて当分トライする気になれないが、いつか“正真正銘マト1vs EGカット希少枝番なし”他、7セットも持っているからこそのマニアックな比較試聴記を書いてみるつもりだ。

文/斎藤好一(元DIME編集長)

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