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【開発秘話】受注数が5万台を突破した、愛知ドビー「バーミキュラ フライパン」

2020.07.29

■連載/ヒット商品開発秘話

 鋳物ホーロー鍋『バーミキュラ』で有名な愛知ドビーの『バーミキュラ フライパン』が、現在飛ぶように売れている。2020年4月21日に発売なったばかりだが、6月30日時点で受注数が5万台を突破した。

『バーミキュラ フライパン』は鋳物フライパンにホーロー加工を施したもの。最大の特徴は、食材の余分な水分を瞬間蒸発させる新開発技術「エナメルサーモテクノロジー」を採用したこと。最薄部は1.5㎜で重さは約1.1kg、鉄製フライパンに欠かせないシーズニングや油返しが不要だ。大きな肉厚ステーキや大人数の炒め物に対応する26㎝(税抜1万5300円。専用フタ別売)と、深めで煮込み料理や揚げ物に便利な24㎝深型(同1万4800円。専用フタ別売)の2タイプをラインアップしている。

大きな肉厚ステーキや大人数の炒め物に対応する26㎝

煮込み料理や揚げ物に便利な24㎝深型

圧倒的な調理性能と使いやすさで焼くことを再定義する

『バーミキュラ フライパン』の開発は、『バーミキュラ』が発売された2010年頃からあった。ただ、当時はコンセプトが固まらず、開発が実行されることはなかった。

 開発が始まったのは2017年頃から。きっかけは、開発を担当した代表取締役副社長の土方智晴氏がたまたまフライパンで料理をつくってみたところ、全然うまくできなかったことにあった。そのときのことを次のように振り返る。

「『バーミキュラ』や炊飯器の『バーミキュラ ライスポット』で料理をつくるのは得意なのですが、フライパンだと美味しい料理ができなかったんです。もやし炒めはベチャベチャになるし、肉を焼いても茹でたように白っぽい感じになったりしました」

愛知ドビー
代表取締役副社長 土方智晴氏

 家庭で使ってもらう以上、女性でも片手で扱える重さにしないと使い物にならない。鋳物で軽くするには薄くつくらないとならないが、そのためには高度な技術が要求される。薄い鋳物にホーロー加工を施した場合、800℃というホーローの焼成温度で歪んでしまうためである。

 また、優れたフライパンの重さは大体1kgと決まっているという。軽すぎると炒め調理中にフライパンが動いてしまったりするし、重すぎると片手で扱えず調理しにくくなるためだ。

 鋳物フライパンで重さ1kg程度に収めるには、肉厚を1.5㎜程度に抑えなければ実現しないことは開発前からわかっていたという。肉厚1.5㎜は『バーミキュラ』の鍋の半分程度しかない。様々な製品の開発過程でどこまで薄くつくることができるかを検証してきたが、2017年頃に肉厚1.5㎜でつくれそうな実感が得られた。

 デザインコンセプトについては、「鋳物とウッドを組み合わせた、カトラリーのようにシームレスにつながるデザインを発想した」と土方氏。このコンセプトを元にデザイナーがおこしたデザインを見て、このフライパンを、焼くことを再定義するような「世界最高のフライパンにしたい」という気持ちが沸き起こった。

 なぜ再定義するようなフライパンをつくりたいと思ったのか? それは、フライパンはコーティングが剥がれたら買い換えるといった使い捨ての傾向が強いことと、優れたフライパンの定義が「絶対にこびりつかないもの」と機能重視で味が重視されていないためであった。そのため『バーミキュラ フライパン』は、圧倒的な調理性能と使いやすさを両立し、なおかつ一生を供にできるものを目指すことにした。

ホーロー加工だけは絶対やりたくなかったが……

 鋳物でつくることは決めていたが、問題は表面処理。『バーミキュラ』ブランドなのでホーロー加工は当たり前のように思うかもしれないが、肉厚の薄い鋳物にホーロー加工を施すと歪むことがわかりきっていたので、ホーロー加工にこだわっていなかった。むしろ、ホーロー加工だけは絶対やりたくなかった。

 表面処理はフッ素コーティング、セラミックス塗装、ホーロー加工、何もせずシーズニングだけなど、あらゆるパターンで検証。その結果、料理が一番美味しかったのは断トツでホーロー加工だった。

 その際、様々な表面処理をした試作品で調理実験を繰り返す中で、「食材から出た余分な水分を、どれだけ短時間で蒸発させることができるかが、フライパンの調理性能」であるとの結論に至った。プロの料理人は高火力の熱源と鍋振りの技術で食材の水分を瞬間的に飛ばして美味しい炒め料理をつくる。ホーロー加工で料理が美味しくできる理由を調べたところ、ホーローには親水性があるため食材の水分が張り付き、その水分が鋳物の高い蓄熱性によって瞬間的に飛ばされるためだとわかった。

一般的なフライパンでもやし炒めをつくると、もやしの水分がなかなか飛ばず、ベチャっとした食感になってしまう

『バーミキュラ フライパン』でもやし炒めをつくると、ホーローに張り付いたもやしの水分がフライパンに蓄えられた熱で瞬間的に飛び、シャキシャキとした食感に仕上がる

 他の表面処理を施したフライパンで同じようにいかないのは、ライデンフロスト現象が発生するため。ライデンフロスト現象とは、熱したフライパンの上で水分が踊るように残り続ける様子のこと。水分とフライパンの間に水蒸気が発生して蓄えられた熱が伝わらず、食材の余分な水分が蒸発するのに時間がかかるというわけだ。

『バーミキュラ フライパン』とアルミにフッ素コートを施したフライパンの水分蒸発時間の比較。『バーミキュラ フライパン』では水分が3秒と瞬間的に飛んだが、アルミにフッ素コートを施したフライパンではライデンフロスト現象により、『バーミキュラ フライパン』と同量の水分が蒸発するまでに312秒かかった

 世界最高のフライパン実現のためにはホーロー加工が避けられなくなった。求められたのは、次の3点だ。

1.これまでのホーローよりもさらに高い蒸発性能
2.焦げ付かないための油なじみの良さ
3.フライパンに使っても問題ない耐久性

 コーティングは少なくとも300パターンはテスト。釉薬の配合見直しのほか、焼成時の昇温・降温といった加工条件も変えながら検証を続けた。

 鋳物が歪んでしまう点については、フライパンを20ほどに分割して歪むところの肉厚をわずかに増やすことで解決。試作をつくりホーロー加工を施しては歪みをチェックし、砂型のつくり直しを何度となく繰り返した。

 こうした積み重ねで、家庭でもプロ級の炒め料理がいとも簡単にできる『バーミキュラ フライパン』は完成したのであった。

フライパンと木製ハンドルの接合部は削って仕上げる

 木製ハンドルは一見すると、何の変哲もなく見えるが、加工が難しい複雑な3次元曲面で構成された上に、緩みにくい十字型の締結構造を採用した。

『バーミキュラ フライパン』に採用された十字型の締結構造

 加工は自社で行なっている。木製鍋敷きの生産を行なっていたので木材の加工には慣れているが、複雑な形状ゆえ3軸同時加工で木を削らないとできないことから、新たに設備を5台ほど導入して工場に生産ラインを新設。低コストで加工できるよう改善を繰り返した。

 木材本来の質感を残しつつ丸洗いを可能にするため、ハンドルには特殊な表面処理を施し、水洗いを繰り返しても腐らないようにした。また鋳物と木材はともに、高精度に加工することが難しく、ハンドルを締結すると段差が生じることから、締結後は接合部分を職人が削って段差を解消している。

丸洗いできるだけでなく木目が生きるよう、木製ハンドルには特殊な処理を施した

鋳物フライパンと木製ハンドルの段差を解消するため、1つずつ手で削り仕上げる

生産能力を上げても4か月待ち

 同社では4月21日の発売までに1万台を用意し、その後は毎月5000台を生産する予定でいた。ところが先行予約を開始した3月26日だけで6000台の予約が入る。先行予約開始から3週間後には1万5000台まで伸び、発売直前には2万台にまで達する。

 想定をはるかに上回る予約が入ったことで、同社では急きょ、増産対応に追われることになる。現在、月1万台にまで生産能力を引き上げたが、それでもまだ注文から4か月待ちの状態だ。

取材からわかった『バーミキュラ フライパン』のヒット要因3

1.消費者が既存のフライパンに満足していなかった

 コーティングが剥がれるとこびりつく、火の通りが満足いくものではなく料理が美味しくできない、など既存のフライパンに満足していなかった人が多かったのではないのだろうか? だから、フライパンとしては高価な1台1万円を超えるものでありながら飛ぶように売れたと考えられる。

2.特別な使い方をしない

 それまで使っていたフライパンと同じ使い方をするだけで、今までより美味しい料理ができる。手軽に使えるのに調理性能が高い点がいち早く使ったユーザーに支持され、その口コミが広く伝わった。

3.消費者とブランドの間に信頼関係が構築できていた

『バーミキュラ』ブランドは2010年に誕生。以後、レシピ情報の発信など楽しんでもらうための努力を積み重ね、消費者とブランドの間に信頼関係ができていた。初のフライパンでも信頼関係があったから、調理性能や使い勝手は確かなものと認められたのであろう。

 いつも通りに使っただけなのに、料理の腕前が上がったように錯覚する。きっと調理が楽しく感じられるはずである。「真価を一番発揮する料理はもやし炒め」(土方氏)とのことなので、買ったらまず、プロがつくったみたいな味が堪能できるもやし炒めをつくってみてはいかがだろうか?

製品情報
https://www.vermicular.jp/products/fryingpan/

文/大沢裕司

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