株式会社ポケモンは、6月24日に中国最大のゲーム企業テンセントと共同開発中の『Pokémon UNITE(ポケモンユナイト)』を発表した。プレイヤーが5対5のチームに分かれて対戦するポケモン初となるチーム戦略バトルで、中国で人気のゲームジャンルMOBA(マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ)タイプに近いと言われている。ゲームでは、味方と協力して野生のポケモンを捕まえたり相手のポケモンを倒したりしながら、制限時間内に相手チームより多くの得点を獲得すれば勝利。チームワークと戦略が試される、シンプルながら奥が深いゲームだ。今回は『ポケモンユナイト』の展開を中心に中国市場とポケモンについて3人のキーマンにインタビューした。
『ポケモンユナイト』
価格:基本プレイ無料(一部ゲーム内課金あり)
ジャンル:チーム戦略バトル(オンラインゲーム)
配信時期:未定
対応機種:Nintendo Switch/スマートフォン(iOS/Android)
(クロスプラットフォームで展開予定)
中国でのピカチュウの認知度は83パーセント
――『ポケモンユナイト』はポケモンがチームで戦うゲームで、プレイする時はポケモンの特徴を知っている方が有利になりそうですね。テンセントと共同開発で中国市場でも注目を集めそうですが、中国の方はそういった種類や特性のようなものも理解しているのでしょうか?
星野正昭さん(以下、敬称略):中国では、2019年にハリウッド実写映画『名探偵ピカチュウ』を上映して大ヒットしました。いま現地ではどんどんポケモン人気が上がっている状況です。種類の多いポケモンの中で知らないポケモンがいる方はもちろんいらっしゃると思いますが、それは日本でも世界でも一緒だと思います。『ポケモンユナイト』は少しプレイすればすぐにわかる簡単なルールなので、プレイしていただき、ご自分の好きなポケモンを見つけていただきたいです。
株式会社ポケモン
中国事業本部 中国事業部テクニカルディレクター
星野正昭さん
『ポケモンユナイト』の制作プロデューサー。以前にはポケモンアクションバトル『ポッ拳』の開発にも参加。
末永康典さん(以下、敬称略):ポケモンは中国ではアニメなど映像系の展開が進んでいますが、中国以外の地域と比較すると人気のポケモンやメジャーなポケモンにかなり違いがあります。一方、ゲームジャンルとしてのMOBAはすごい人気です。その意味ではチームで対戦するゲームのリテラシーは、中国の方がかなり高いです。ゲームを通じてポケモンに親しんでいただくきっかけになればと思っています。
株式会社ポケモン
執行役員 中国事業本部中国事業部担当
末永康典さん
ポケモンの中国事業の責任者。
伊藤憲二郎さん(以下、敬称略):ポケモンは全世界で高い認知度を獲得していますが、中国進出は映像に限られていました。アジア戦略を立てるにあたり、やはり中国なしにアジアを語れないので、3年前くらいから中国進出を戦略的に進めてきました。現地におけるピカチュウの認知度は直近の調査で83パーセントと非常に高く、『名探偵ピカチュウ』の劇場公開では1800万人以上の方が観てくださいました。「ポケモン」という名前はほぼ全土で認知されていると思います。『ポケモンユナイト』の発売時期はまだわかりませんが、それまでには株式会社ポケモンの拠点を中国に作ったりし、現地のライセンスや商品化によって、キャラクターの特徴をどんどん伝えていかないといけないと思います。
株式会社ポケモン
最高ビジネス責任者 中国事業本部長
伊藤憲二郎さん
ポケモンの全アジア地域ビジネスの総責任者。
――ちなみに拠点というのはポケモンセンターのようなショップなのでしょうか?
伊藤:ショップに限らず、会社や事務所を作ることも考えています。いまは現地に行けない状況なので拠点進出も考えにくいのですが……。現地の会社ともお付き合いしていきます。『ポケモンユナイト』はテンセントさんとがっちり組んでやっている状況ですが、ほかのゲーム会社さんやライセンスエージェントさんともすでに何年もお付き合いしていますし、各社さんと仲良くやっていければと思っています。
――『ポケモンユナイト』とポケモンの世界観についてはどんな形になるのでしょうか?
星野:『ポケモンユナイト』でも世界観を踏襲していますので、ポケモンファンが「あれ?」と思うようなことはないはずです。ポケモンの世界観は非常に大切にしています。
ポケモンの世界観を大切にしつつ、MOBAの面白さも兼ね備えるゲームシステムになりそうだ。
――『ポケモンユナイト』の目標もしくは成功については?
星野:具体的な数字ではありませんが、世界中の多くの人が楽しんで、人々がゲームを通じて「ユナイト」できる状況を作ることができれば成功かなと思います。
――タイトル名の「ユナイト」については由来か何かありますか?
星野:いくつかの名称の候補はありましたが、今回は社長の石原が「ユナイト」するという意図を込めて名付けました。
伊藤:ネーミングについては、すべての商品で苦労しています(笑)。
末永:100本ノックみたいになりがちなんですが、『ポケモンユナイト』は割とすぐに決まったよね。みんな「そうだね」って(笑)。
――配信方法については、日本や欧米などでは通常のゲームアプリと一緒だと思いますが、中国での配信についてはどうなりますか?
末永:一般的な話ですが、iOSは全世界で同じですよね。Nintendo Switchの場合、中国以外は任天堂さんで中国はテンセントさんが担当されているかと思います。Androidに関しては、テンセント系や独立系のショップでアプリを配信する形になります。
なぜテンセントとの協業を決めたのか?
――テンセントさんと組んでゲームを作ることになった経緯について教えてください。
伊藤:まず、中国市場のすべての案件でテンセントさんと組んでいるわけではありません。別の案件では他の会社と組んでやっています。それぞれの会社さんは得意な分野をお持ちだし、彼らが作りたいものと我々が作りたいものが一致した先が、本件に関して言えばテンセントさんでした。当然、『ポケモンユナイト』で組むならテンセントさんというのはあったと思います。
――テンセントさんは任天堂さんとも中国市場で協業しています。実際に組んでみた印象はどうでしょうか?
伊藤:当初、テンセントさんはすごくビジネスライクな会社という印象でした。最初に接した時は我々もかなり構えていて、契約に至るまではそれで苦労したという感覚はありました。ただ、こちらがキャラクターとブランドを大事にしている気持ちはずっと伝えていて、会話していると、開発陣やトップの方たちも案外それをよくわかっていらっしゃる会社さんだったという印象に変わりました。もちろん運営するにあたって、いくら予算をかけていくら売り上げたいというお気持ちはあるとは思いますが、ブランドについてはかなり理解して作ってくださっていると思っています。
末永:すでに発表していますが、中国第2位のゲーム企業NetEaseさんとは『ポケモンクエスト』の中国展開で組んでいます。中国のライセンスビジネスでは、アリババさんに入っていただいています。それぞれの会社さんといいお付き合いをさせていただいています。「テンセントさんはどうですか?」と聞かれると、一緒に仕事をしていてやっぱり勉強になりますね。
星野:日本の開発と大きく違い、アジャイル開発が進んでいて、PDCAサイクルがものすごく速い印象です。開発スピードも速くて、1年ちょっとでみなさんにお見せできる今の状況になりました。最初に作ったものから実は大きく形が変わっていたりするのですが、そのスクラップ&ビルドのスピードも大きく違うと感じます。そして、ポケモンというものをすごくリスペクトしてくれていて、そこは非常に感謝しています。我々も彼らの開発力・開発スタイルをリスペクトして、お互いに綿密なやりとりしながら作っています。
*アジャイル開発=システムやソフトウェアの開発手法の一つ。
*PDCAサイクル=ビジネスメソッドの一つ。Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)を繰り返すことで継続的に改善していく。
――ポケモンさんとテンセントさんのこだわりの違いなどはありましたか?
星野:当然、いろいろな面でこだわりのベクトルは違ったりします(笑)。我々としてはテンセントさんが出してくる従来のMOBAに基づいた知識から浮かぶアイデアを、どうやってポケモンの世界に落とし込んでいくか、お互いにいいところを出し合っている感じです。
末永:テンセントさんはどんどん足したがるんですよ。僕らはもっと引いた方がいいんじゃないかなと考えるみたいなところですね。そこはイズムの違いがあるのですが、逆にバランスがとれていい方向に落ち着くのではないかなと考えています。
テンセントの開発力でゲーム制作のスピードもかなり早まっているようだ。「テンセントさんとの共同開発によって、1+1を2以上にできるという相乗効果があると思います」(星野さん)
焦らずにじっくり攻める、ポケモンの中国戦略
――株式会社ポケモンとして中国市場をどのようにとらえていますか?
伊藤:人口を考えると当然なのですが、米国や日本よりもゲームやキャラクターの市場は大きいかもしれない。十分な市場とそれを受け入れるキャパシティを持っていると思います。今後は、米国、欧州、日本、中国、その他アジアの市場での売り上げ比率をすべて同等くらいに持っていきたいと考えています。
中国にはテンセントさんやNetEaseさんを含めた巨大な中国市場を知っている企業がありますが、パートナーになってくれそうな会社があるかどうかをこの3年間でずっと見てきました。我々が語りかけることによってポケモンのことを理解してリスペクトしてくれたことも含めて、中国市場は今後大きな可能性を秘めていると考えています。
――今まではポケモン全体では中国でどのような展開をしているのでしょうか?
伊藤:現段階ではテレビアニメなどの映像配信、『名探偵ピカチュウ』の劇場公開、商品化のライセンスなどをやってきています。日本で劇場公開しているアニメシリーズの映画も中国で上映しています。下地を作っておかないとマーケティングに苦労するというのがあるので、どちらかと言えば映像の配信から始まっています。
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© 2019 Pokémon.
『名探偵ピカチュウ』は2019年5月に中国で劇場公開され、大ヒットを記録。ポケモンの認知度を広げた。
――中国にはIT関連などで特殊な事情も多いですが、中国市場の難しさについてはどう考えますか?
伊藤:それぞれの文化の違いについて苦労することはあると思いますが、現地の人や我々の社内にも30人ぐらい中国語のネイティブスピーカーが在籍している状況で、話をしてみると仕事観であるとかポケモンの世界観についてはすぐに理解してもらえたし、そういう意味での苦労を感じることはないですね。ビジネスの仕方が違うし、いろいろなことがあるとは思いますが、そこは手続きを覚えてしまえば大きな苦労にはならないですね。
――中国市場について今後のポケモンの展開についてはどうでしょうか?
伊藤:個人的な希望としてはポケモンセンターを出店したいです。ただ中国での販売の仕方がポケモンセンターというリアル店舗というかアナログな拠点が向いているかどうかにもよると思います。アリババグループのインターネットショッピングモール「Tモール(T-mall)」で売れているものが一番大きかったりする状況もありますし国土も広いので。旗艦店みたいなものがあったらいいなあという考え方はあります。ただ、ここに作ろうとかいう具体的な構想はまだないです。
ポケモンは一時的にキャラクターをどんと盛り上げてお金を稼ごうという発想がないので、中国市場に関しては全く焦りはないです。
――最後に日本のファンに向けて『ポケモンユナイト』に関して一言お願いします。
星野:『ポケモンユナイト』はポケモンファンなら誰でも楽しんでいただけるものを目指していますので、ご期待ください。
末永:ポケモンファンじゃない人も、「これいいじゃん!」とポケモンファンになってもらいたいです。色々なゲームの関わり方があるのですが、ポケモンファンだけが楽しめるゲームを作る気はないので、MOBAは面白そうだけど敷居が高そうだから諦めていた人が『ポケモンユナイト』で入ってきたら嬉しいです。
星野:FPS(ファーストパーソンシューティング)やバトル型対戦ゲームが苦手な方にも楽しんでいただけるように作っていて、その部分は自信があります。こういうゲームが苦手だなと思う方も、基本プレイ無料なのでぜひダウンロードしていただければと思います。
伊藤:ポケモンも実はそういうところがありますが、我々がゲームをプレイして、「これ以上無理!」となることもあります。そうすると皆さんが最初からゲームに入ってこなかったりしますが、そういうことを一切排除したゲームにはなっていると思います。本当にどなたでも気軽にプレイできて、十分に楽しめます。
中国では大人気のMOBAが『ポケモンユナイト』でブレークする可能性はありそうだ。
※画面は開発中のものです。
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(c)2020 Tencent.
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Nintendo Switchのロゴ・Nintendo Switchは任天堂の商標です。
取材・文/久村竜二 撮影/篠田麦也