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台風には一つ一つ名前が付けられていて、日本が名付けた台風もあります。厳格なルールに基づいて命名されますが、興味をそそられるユニークな名前も少なくありません。アメリカのハリケーンとは発生場所だけでなく、命名のルールも異なります。
台風の名前は誰がどのように付ける?
台風は『台風7号』のように、番号で認識するイメージがありますが、実は番号以外にルールに基づいた名前が付けられています。2020年5月に発生した台風1号は黄蜂(きばち)を意味する『ヴォンフォン』と、2024年8月に発生した台風10号は、香港が考案した、少女の名前が由来の『サンサン』という名前がつけられています。
台風委員会が名前を付ける
台風の名前はかつて、アメリカによって付けられていました。英語の人名に限られていたのも大きな特徴です。
2000年以降は、北西太平洋または南シナ海の領域で発生した台風に限り、アジア名が付けられるようになりました。台風の名前を付けているのは、台風委員会に加盟している国などです。
台風委員会は、『ESCAP(アジア太平洋経済社会委員会、前・ECAFE)』および『WMO(世界気象機関)』によって設立されました。加盟国の領域における台風被害を軽減するために、情報の共有・研究・研修などの活動をしています。加盟しているのは日本を含む14カ国などです。
140個の名前を順に使用する
台風が発生するたびに名前を考えて付けているわけではありません。台風委員会の加盟国などが持ち寄った140個の名前を1~140番のリストにして、順番にローテーションするというルールがあります。先頭は2000年の台風第1号の『ダムレイ』です。
台風が発生したらダムレイから順に2番『ハイクイ』、3番『キロギー』、4番『インニョン』と続き、140番の『サオラー』の後は先頭のダムレイに戻ります。台風の年間発生回数は平年25.6個のため、約5年をかけて140個の名前が一巡する計算です。
アジアに関する名前を付けるのはなぜ?目的がある?
台風委員会が台風の名前に共通のアジア名を付けているのには、いくつかの目的があります。一つは、アジア各国・地域との連携を強化することです。国や地域の固有の言葉を採用することは、お互いの文化を尊重し、理解を深めることにもつながります。
アジア圏の人々にとって、なじみのある名前であることもポイントです。慣れ親しんだ名前を付けることで関心を持ってもらい、防災意識を高めようとする狙いがあります。
意味が分かると面白い!日本や各加盟国で付けられた名前一覧
台風の名前の中には、日本が提案したものも採用されています。多くが外国語ですが、意味が分かると面白い名前も少なくありません。その一部を見てみましょう。
日本は星座の名前から10個
用意されている140個の名前のうち、10個は日本が提供したものです。『コイヌ』『ヤギ』『ウサギ』『カジキ』『カンムリ』『クジラ』『コグマ』『コンパス』『トカゲ』『ヤマネコ』と、どれも星座の名前から来ています。
星座の名前を選んだのは、特定の個人・法人・地名などではなく、利害関係が生まれにくいためです。台風と同じ『天空』にあり、多くの人にとって身近な存在であることも理由に挙げられます。
数ある星座の中でも、アルファベット9文字以内で発音が難しくないなど、所定の条件をクリアしたものが選ばれているのもポイントです。
植物や動物の名前
台風の名前には、なじみのある植物や動物の名前も多数採用されています。名前リストの先頭にある『ダムレイ』は、カンボジアを代表する動物である「象」が由来です。
韓国は『ケーミー(蟻)』『チェービー(ツバメ)』『ノグリー(タヌキ)』『コーニー(白鳥)』『トクスリ(ワシ)』など、生き物の名前を中心に提案しています。
植物の名前もバラエティ豊かで、中国の『ドゥージェン(ツツジ)』、タイの『チャバ(ハイビスカス)』、マレーシアの『マーワー(バラ)』、マカオの『ムイファー(梅の花)』などがあります。
神話や伝説などに登場する名前
神話・伝説・小説などに登場する『神様』や『人物』の名前も多いです。
ミクロネシアの『シンラコウ(女神)』『イーウィニャ(嵐の神)』、中国の『フンシェン(風神)』『ハイシェン(海神)』など、アジア諸国の神様がズラリと並んでいます。
中国が提案した『ウーコン』は、明時代の小説・西遊記の主人公「(孫)悟空」として日本でも有名です。ミクロネシアからは、伝説上の『ソウデル(首長の護衛兵)』、カンボジアから『コンレイ(伝説の少女の名前)』などが提案されています。
ちょっと面白い名前
マカオの『バビンカ』は、日本人にとっても身近な存在である『プリン』のことです。マカオでは伝統的な製法でつくられる牛乳プリンが有名で、地元の人から観光客まで広く愛されています。
タイの『ブアローイ』もスイーツを意味する名前です。ココナッツミルクの中に白玉団子が入ったもので、日本のおしるこに似ています。
アメリカが提案した『徘徊』を意味する『オーマイス』もユニークです。台風は予想進路が変わることも珍しくないことから、ぴったりな名前といえるでしょう。
名前が変更になることもある?
常に140個の名前が用意されていますが、要請を受けて新しい名前にバトンタッチするケースも珍しくありません。日本が提案した名前も変更されたことがあり、1度限りで引退した名前もあります。
甚大な災害をもたらした台風の場合
通常は台風委員会が決めた140個の名前を繰り返し使用しますが、名前が変更される場合もあります。たくさんの人を危険にさらすような大規模な災害を招いた台風の名前は、台風委員会の加盟国や地域の要請を受けて、使えないようになることがあるのです。
しかし、名前が使えなくなったからといって、用意されている140個の名前が139個に減るわけではありません。新しい名前を提案して、140個の名前候補をキープすることになっています。
これまでに使用できなくなった名前
2000年以降、変更された名前は40個以上もあります。年2~3個のペースで名前が変わっている計算です。日本が提案した名前もいくつか変更になっています。以前は『ワシ』という名前がありましたが、フィリピンに甚大な被害をもたらしたことから『ハト』に変更されました。
しかし、ハトの名前が使われたのは1度限りです。17年8月に香港に上陸して139人が亡くなったことを受けて、さらに『ヤマネコ』に変更されました。同年12月に発生した『テンビン』も被害が大きく、『コイヌ』が後任になっています。