【Sponsored:電気事業連合会】
第2回 エネルギーと経済 ~コロナウィルスはエネルギー経済に何を残したのか~
エネルギーはあらゆる産業活動において「媒介者」として機能しています。物資や人を輸送し、製品として加工すること、また、テレビ、携帯電話など様々な通信媒体で情報を伝達することは、電気、石油、ガスなどエネルギーのなせる技です。コロナの影響はこれらエネルギーを通じて産業活動や我々の日常生活に大きな変化を及ぼします。
【関連記事】
コロナウィルスで顕在化した日本のエネルギー経済が抱える無意識のリスク
1 始まりはリーマンショック
住宅融資の焦げ付きなどに端を発したバブル経済の崩壊は2008年9月リーマン・ブラザーズという巨大銀行を破綻させました。なんと64兆円!という巨額の負債総額は全世界に連鎖倒産を引き起こしました。
コロナウィルスの経済への影響について「リーマンショック」時との比較が行われることが多いのですが、それは、第二次世界大戦以降これほど急激な世界経済の落ち込みが無かったためでもあります。
さて、リーマンショックでは海外の金融や製造業が非常に大きな影響を受け、日本の輸出型産業にも強く影響がでたと言われます。そして、その後の全世界のエネルギー事業に非常に大きな変革をもたらしました。リーマンショックというのは、エネルギーのコロナショックの前哨戦だったのです。
2 エネルギーは国家戦略
エネルギー資源は生産できません。だからこそ、奪い合い・紛争の原因となり得るのです。資源というものはマスクと違い、無いからと言って自国生産に切り替えると言うわけにはいかないのです。
なので、みなさんもよくご存じの通り、原油や天然ガスが採掘される国や地域は国家間の紛争が起きやすい地域でもあります。
エネルギー資源の確保は世界各国の共通した課題であり、国家戦略でもあります。長年にわたり中東の油田地帯で戦争や紛争が繰り返されてきたことも、そこが「石油経済」とも言われる世界経済の鍵を握っているからに他なりません。
さて、一見コロナショックとは無縁なように見えるリーマンショックや石油、エネルギー。実は意外と深いつながりがあるのです。
3 エネルギーのコロナショック
リーマンショックにより投資家の巨額マネーは住宅ローンなど高金利の低格付け債(サブプライムローンとも言います)から需要が確実なエネルギーへと逃げました。
アメリカではその少し前2005年8月に史上最大のハリケーン「カトリーナ」がメキシコ湾岸を襲い、石油関連基地が壊滅的な被害を受けたことで他国に頼らないエネルギーの自給が国家的な重要課題となっていた矢先の出来事でした。
それまでアメリカはエネルギー資源輸入国でしたし、その貿易赤字の大半は石油代金の支払いによるものでした。それゆえ、自国のエネルギー資源の開発は貿易赤字解消の意味からも重要なプロジェクトとされ「シェール革命」と世界に宣伝したのです。
この様にリーマンショックによって行き場を失った巨額マネーは中小の資源開発会社へも巨額の融資を行い、シェール開発を進めました。
しかし、コロナによる石油・ガスの急激な需要低下により、アメリカの代表的な銀行「バンク・オブ・アメリカ」ではコロナの感染拡大が始まった3月の初旬の1週間でエネルギー関連の資金が112億ドル流出した、と報じられました。
4 エネルギー価格のマジック
エネルギーの急激な需要低下は原油・天然ガス価格の暴落を引き起こし、ニューヨークでの原油取引(WTI先物市場)で4月20日、価格がマイナスとなったと大きく報じられました。価格がマイナスと言うことは原油を受け取り、さらにお金がもらえるということです。史上初の出来事でした。
原油もLNGもエネルギーは貯蔵しなければなりません。なので、需要が下がって、受渡場所のタンクが満杯であれば受け取ることが出来ません。先物を買った人々は買い手が現れない限り自分が受け取らなければならないのです。
これら投資家の方々の多くは帳面上の取引を行っているので、到着した原油を受け取ることが出来ないため、お金を払って「引き取ってもらう」こととなったわけです。
さて、原子力発電所が停止した2011年以降、日本ではLNG(液化天然ガス)による発電を拡大してきました。このLNGも原油と類似の取引構造を持っています。しかも、マイナス162℃という極低温で輸入されるLNGは、
「日本の化石燃料輸入先」(出典:資源エネルギー庁「日本のエネルギー2019」)
今回のコロナショックでこれら輸入のエネルギーに依存してきた日本では何が起きたでしょうか。LNG価格が暴落して経済にメリットは生じたのでしょうか?
実は、長期で契約しているLNGは発電や都市ガス供給以外に用途が無いため余っても売り先が無いのです。売り先を見つけたとしても市場が暴落しており、大きな逆ざやが発生し、発電コストなどを押し上げてしまう要因となり得るのです。
取材・文/金田武司 (株式会社ユニバーサルエネルギー研究所代表取締役社長)
東京工業大学大学院総合理工学研究科エネルギー科学専攻博士課程修了、工学博士。1990年三菱総合研究所入社。同社エネルギー技術研究部先進エネルギー研究チームリーダー兼次世代エネルギー事業推進室長プロジェクトマネージャーなどを務めた。2004年ユニバーサルエネルギー研究所を設立。国内学会や政府、自治体の委員など公職を歴任する。