緊急事態宣言が5月25日にようやく『全面解除』された。だからと言って、コロナ対策を怠ってはならない。同時に今後は、“コロナショック”によって傷んでしまった日本経済をどのように再興していくかも焦点となる。
政府・与党も、経済・雇用の下支えと需要喚起のための景気対策に注力し続けることを宣言している。
もう忘れられているかもしれないが、コロナ禍が始まる直前の今年1月末、歳出総額約4.5兆円の経済対策が成立した。
具体的には、①昨秋に関東を直撃した台風15号・19号など自然災害からの復旧・復興や防災・減災、国土強靱化対策として約2.3兆円、②海外発の経済下振れリスク対策として約0.9兆円、③東京五輪後を見据えた経済対策として約1.1兆円など。
要するに、公共投資の積み増しである。では、今後動き出そうとしているコロナ出口戦略としての経済・雇用対策 ―― withコロナ対策 ―― について、エネルギー分野で考えると、どのような公共投資が考えられるだろうか?
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景気対策としての電力インフラ投資を
5月21日に自民党が政府に提示した経済対策案では、コロナに関する検査体制の整備や医療資材の確保、治療薬・ワクチンの開発などが提起されている。
それをエネルギー分野で考えてみると、①原子力・火力・水力発電所、②送配電網、③石油・ガス施設、④顧客への対応に従事するエッセンシャルワーカー(生活必須職従事者)への優先的な検査体制を敷くことが考えられる。
電力・ガスなどの公共インフラを運営する現場職員を守ることが先決であろう。これは、水道、鉄道、航空、バス、タクシー、通信など別の分野にも当てはまることだ。インフラ維持の目的ではあるが、ヒトに対する公共投資でもある。
筆者も参考人として意見陳述した5月20日の衆議院・経済産業委員会では、災害時の連携強化や送配電網の強靭化、災害に強い分散型電力システムの構築を旨とした「エネルギー供給強靭化法案」がテーマ。
この法案では、送配電事業者に既存設備の計画的更新を義務付けることも規定されているが、私としては「withコロナ」に係る雇用対策として、人材確保と技術力の維持向上を図りながら既存設備更新を前倒しするための財政支援を行うことを提言した。電力インフラ投資は、従来から大型の景気対策としてしばしば実施されてきた。
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は4月7日、withコロナ対策として、①多くの雇用を創出するとともにエネルギー貧困地域への医療サービス提供を可能とする分散型再生可能エネルギーの導入、②再エネの導入拡大を目的とした柔軟性の高い電力網等の将来インフラの構築、③輸送分野、冷暖房等の技術改良やエネルギー貯蔵、グリーン水素の技術革新などに対して、政策面・資金面での支援の必要性を示した。
上述のエネルギー強靭化法案では、いわゆるレジリエンス(災害復旧力)強化のための分散型電源促進に向けた制度改正案も散りばめられている。IRENAの提起は、これに通じるものもある。そこで、近未来を見据えた公共投資の在り方としては、ハイスペックな『発電+蓄電』の分散型電源を設置する者に対して財政支援を行うことがあり得る。我が国の住宅用太陽光発電搭載率は1割未満であることを慮れば、一般家庭向けの太陽光発電設備・蓄電設備の併設を公共投資の対象としていくのも有力だろう。
電力分野でのwithコロナへの貢献
最後に、コロナショックによる原油市況の暴落にも拘らず、我が国としては、安全保障やCO2の観点から“脱化石燃料”路線は不変であろう。国際エネルギー機関(IEA)は、2020年の世界のCO2排出量が前年比8%減と推計しているが、化石燃料の利用を促進するような逆行には至らないと思われる。
我が国で再エネ主力電源化が実現するまでには、まだまだかなりの
出典:資源エネルギー庁「日本のエネルギー2019」
※編集部注…固定価格買取制度:再エネで発電した電気を、電力会社が固定価格で一定期間買い取る制度。このため再エネの買取費用は、電力会社が利用者から賦課金という形で回収している。2012年の固定価格買取制度の導入以降、再エネの設備容量は急速に伸びている一方、買取費用は3.6兆円(2019年度)に達している。
そういう点からも、電力分野でのwithコロナの貢献は、再エネ導入促進だけではとても無理。再エネは、費用・可採資源量・安定供給性の面で、原子力や化石燃料にまだまだ勝てない。
脱化石燃料・大量雇用創出のためにも、原子力規制運用を改善し、原子力発電を期間限定で再開すべきだ。これは、自動車、電機、鉄鋼など電力多消費型の基幹産業への電力の安価安定供給に資するなど、カネのかからない大規模経済対策になる。国内の全ての原発は、東日本大震災直後の一斉点検により安全確認済みで、震災前後で一定の安全水準を充たしている。
原子力発電によって捻出される財源で、再エネ関連投資に充当するのも合理的である。これは、東日本大震災以降、外国に払っている追加化石燃料費(年間数兆円)を国内の再エネ投資に利用するという話。消費税率1%の税収(年間2.6〜2.8兆円)分を超える国民負担が軽減される計算になる。
afterコロナ時代が『原子力・再エネ協調時代』になれるかどうかは、今後当面続くであろうwithコロナ期間にかかっている。
文/石川和男(政策アナリスト)
政策アナリスト/社会保障経済研究所代表/算数脳育研究会代表理事/一般社団法人NTSセーフティ家計総合研究所運営委員/霞が関政策総研主宰