日本が6Gで主導権を握るためには
房野氏:総務省では、すでに6Gの検討を始めていますね。
石川氏:あれってセンスがないなと思いました。総務省で話し合ったところで、日本が6Gで主導権を取れるものでもない。あんな無駄なこと、本当に意味がないなと。今から10年後、どう活用されるべきなんて誰も分かっていないし、5Gですらまともに活用事例ができていない中で、あんな素人が会議しても無駄だと思うんです。
日本が6Gで技術的に主導権を握る、特許を取りまくれる状況になるには、日本メーカーの端末がばんばん売れないとだめだし、キャリアは儲かって、儲かりすぎて、研究開発費を横須賀リサーチパーク(YRP)にバンバン投入するくらいじゃないとだめです。販売規制をするとか割引に規制をかけるという総務省の今のやり方では、日本の通信業界はいつまでたっても盛り上がらないですし、6Gでも負け続けるんじゃないかと思っています。
法林氏:この新型コロナウイルス感染拡大の一件をはじめ、ここ数年の政府の動向で見えてきたけど、政府のIT化は滅茶苦茶遅れている。今回、GMOが印鑑を廃止する件で「民間のやることだから勝手にやってくれ」みたいなことを言ってしまうとか、パソコンを使えないのにIT担当大臣ってどうなっているんだと。まともにパソコンを使えない国会議員が多いけど、やっぱりそれはどうなのって最近すごく感じる。スマホくらいは使っている人が一定数いるだろうけど。コードは書けなくてもいいから、もうちょっとコンピュータのことを理解できる人を入れませんか、という状況になってくれないと困る。
石野氏:通信機器を買わないといけないんでね。
法林氏:もっとITに強い政府にならない限り、6Gを語るのはおこがましいにもほどがある。だいたい、あんな検討会で学校の先生にお金を払って、それこそ無駄だわと思った。
石野氏:あそこで話しても標準化の際に採用されないとまったく意味がない。海外ベンダーがついてこなければ意味がないわけで、単独でやる必要はまったくないですよね。
法林氏:30数年前にPDC(日本が採用していた第2世代携帯電話の通信方式)で懲りているはずなのに。日本だけPDCをやって、海外に売り込みに行ったけれど誰もうんと言ってくれなくて、諸外国はGSMになってしまった。こんなことになっては意味がないので、そうじゃないところにもっとお金をかけなきゃいけない。もっとスペシャリストになってくれないと無理ですよ。
石川氏:世界でデファクトスタンダードを取ろうと思ったらお金が必要。ちゃんとお金が潤う状況にならないといけないんじゃないかなって気がする。現状、4G、5Gで強いのはファーウェイだし、ファーウェイは世界中で基地局を売っているからこそ、あれだけのお金があったりするわけで。端末で存在感があるサムスンもそうだし、チップセットを売りまくっているクアルコムもそうだし。世界中で売ってお金があるからこそ次に回せる。もっとシャープなりソニーなりが儲かるような状況にしなきゃいけないし、キャリアが儲けすぎてけしからんと言っているようじゃダメというか、キャリアが儲かったら「その分、研究開発に投資しなさい」というような環境にしなければいけないと思います。その辺のセンスがあまりにもない。6Gに関してはもう、なんか、猛烈に腹立たしいって感じですね。
法林氏:ファーウェイはどちらかというと、政治と距離を置いている企業。それは1年以上前からいわれているのに、未だに判別できないメディアがいるのが馬鹿馬鹿しいと言ったら申し訳ないけど、ちょっとどうなの? って思うよね。それはそれとして、いろんな意味でファーウェイが置かれている環境は厳しいと思いますけどね。
石川氏:ファーウェイが失速しそうなので、その代わりがどこになるかというところは面白いポイントかもしれない。
PHS停波延期の影響は?
房野氏:PHSの停波を、もともと予定されていた2020年7月31日から半年後ろ倒しして、2021年1月31日にするという発表がソフトバンクからありました。5Gの展開に何か影響があったりするでしょうか。
石川氏:テレメタリング以外は今年の7月末でサービスをやめる予定だったんですが、PHSは医療機関に導入されていることがあって、現状では乗り換えできない、代替手段がないということで、とりあえず2021年の1月末までサービス提供するという話になっています。正直、来年まで引っ張ったとしても、停波の実行は厳しいのではないかと思っています。本来であれば、PHSを停波することで1.9GHz帯が空くので、そこに「sXGP」方式を導入して速度を上げることが考えられていて、今年はsXGPが盛り上がる年だと言われていたんです。でもPHSの停波が延びたことで、恐らく頓挫してしまう状況なのかなというところ。新型コロナウィルス感染拡大の影響が、通信の規格にも関わり始めていることが注目だと思っています。
法林氏:PHSの需要は、石川君が言った医療関係以外に、会社内の電話システムがある。
石川氏:内線代わりに使う。
法林氏:その需要が実は結構残っている。変えるとなると、会社のシステムごと全部ひっくり返さないといけないんですよ。それの代わりとしてWi-Fiを使ったPBX、構内交換機があったんですけど、これがWi-Fiなので、はっきり言って全然ダメなんですよ。Wi-FiのPBXを導入したけれど、通信状況があまりにも悪いので有線に変えたところもあった。その解決策として、PHSと同じ1.9GHz帯に混在して電波を出せるsXGPという規格がある。もともとウィルコムがやっていたXGPの拡張版で、中身はTD-LTEとほぼ同等の仕組みらしい。それを入れたいという話があって、2年ちょっとくらい、いろんなところに営業をかけていたのを見てきたんですけど、会社のシステムの入れ替えは、やっぱりすぐにはできない。ああいうものは数年かかるので、どうするのかという話がある。そして新型コロナウイルス感染拡大の影響。解約はショップですることになっているので、解約もできない状態。じゃあ延長しますってこと。
石川氏:sXGPはiPhoneで使えるし、「AQUOS sense3 plus」のSIMフリー版がデュアルSIM対応になっているのは、sXGPの利用を見込んだもの。端末は揃い始めたんだけど、PHSの停波が延期されたので、電波的に先送りになってしまったところが不運です。この先、どう巻き返すのかってところですね。
法林氏:スマホやケータイは今、4、5年使う人が増えているけれど、会社はシステムの償却期間があるので、普通に5、6年は使う。そんなに簡単に変えるわけにはいかない。家庭用のコードレスフォンはようやく新製品がDECT方式(欧州で標準化され、国内では2011年から採用されたデジタルコードレス電話の標準規格)だけになってきたくらい。でも、使われているのは昔の古い2.4GHzコードレスだったりすることもある。なかなか置き換わっていかない。身にならないかもしれない6Gにお金を注ぎ込むんだったら、それらの買い換えにポイントを付けてあげるとか、会社がシステムを入れるなら、3割は政府の補助金で負担するとかやっていけばいいんだけど、それができないところが、総務省の限界かって感じがしますね。
房野氏:PHSを残しているのはソフトバンクだけですか?
法林氏:そう、もう元ウィルコムだけ。僕はまだ回線を持っていて、お金も払っている。
石川氏:それはすごいですね……
……続く!
次回は、続々登場する最新の「5Gスマホ」について話し合う予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘