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缶チューハイ「氷結」のダイヤカット缶を作った東洋製罐が宇宙食プロジェクトに挑む理由

2020.05.14

俳優のトム・クルーズが国際宇宙ステーションで映画撮影を行うことが発表され話題を集めている。宇宙飛行士だけではなく、一般人が仕事や旅行で宇宙に行くような時代が来ると、どのような変化があるのだろうか。

私たちの暮らしに身近な「容器」を製造する、東洋製罐グループホールディングス株式会社で宇宙食プロジェクトに携わっているという、イノベーション推進室 三木逸平さんに話を伺った。

老舗容器メーカーが宇宙食プロジェクトに参画するまで

――まずは、三木さんがイノベーション推進室に配属されるまでの経緯をお聞かせいただけますか。

外資系コンサルティング会社に勤めたあと、海外でMBAを取得し、東洋製罐グループに入社しました。

東洋製罐グループは1917年創業の総合包装容器メーカーです。びん、ペットボトル、パウチをはじめ多くの製品に携わっているので安定はしているのですが、容器市場はやはり人口減少に伴って需要は落ちていくので、新しいことにチャレンジしていく必要があります。

そこで、2019年4月にイノベーション推進室が新たに発足し、立ち上げメンバーとして配属されることとなりました。現在は、ほかの業界とコラボレーションしたり、新規事業を検討したり、そのプロセスを社内に根付かせていく、といった仕事をしています。

新規事業のARアプリを開発する三木さん(左)

――地球と宇宙の食の課題解決に取り組む「SPACE FOODSPHERE」プロジェクトに参画されたきっかけは何だったのでしょうか。

2019年3月に開催された、SPACE FOODSPHEREプロジェクトの前身である「Space Food X」のプロジェクト発足会に一見学者として行ったことです。

Space Food Xは、宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)とリアルテックファンドを中心に50以上の企業や研究機関、メンバーが参画するプロジェクト。2040年代に月面基地に1,000人が居住することを想定し、地球と宇宙の食の課題解決を目指して、研究開発や事業創出を推進しています。

イベント当日は、宇宙食市場の説明や宇宙飛行士の向井千秋さんを迎えたパネルディスカッション、想定される月面ディナーのお披露目などが行われました。

SPACE FOODSPHEREのコンセプトの一つは資源の「循環」です。イベントで「人類は月では資源の50%、火星では100%循環させる必要がある」と聞き、容器に当てはめて考えたときに、どうやって循環させられるのだろうと疑問に感じました。脱プラスチックやゴミ問題には取り組む東洋製罐グループにとっても、循環は大きなテーマ。私たちとSpace Food Xの取り組みは結構似ているのではないかと思いました。

もう一つのコンセプトは「QOLの向上」。極地建築家でSPACE FOODSPHEREの理事を務める村上祐資さんがおっしゃっていた話では、物資が限られている極地では食器の素材や大きさを変えただけでも心の支えになるそうで、目からウロコでした。

現在の宇宙での生活は、震災時のような感覚だと言われています。訓練された宇宙飛行士はレトルトやフリーズドライ食品が続く生活に耐えられていたとしても、SPACE FOODSPHERE が想定する一般市民を含めた1,000人が月面に滞在する2040年代では、ストレスの要因となり得ます。「食」は宇宙空間での生活における重要なファクターで、それを彩る容器も生活のクオリティを左右するのではないでしょうか。

その後、社内で宇宙に興味がある人をメールで募ったところ、すぐに10人が集まり、部活動のような感じで「宇宙分科会」を結成しました。東洋製罐グループで何ができるかディスカッションした内容を資料にまとめ、JAXAの新規事業推進部に提出しました。その結果、ぜひSpace Food Xに参画しませんかとお声がけいただきました。

――東洋製罐グループでの反応はいかがでしたか。

イノベーション推進室は社長直属のプロジェクトなのですが、Space Food Xへの参画を上申するとすぐにOKが出ました。というのも、実は社長を務める大塚は、NASAの技術を応用して、缶チューハイ「氷結」で知られるダイヤカット缶を開発した本人なのです!

――えっ、それは驚きました!

宇宙工学の技術から生まれたダイヤカット缶

――では、ダイヤカット缶を開発されるまでの経緯をお聞かせいただけますか。

当初は、スチール缶をお客様に適切な価格で手に取っていただけるように、なんとか軽くできないかと研究がスタートしました。缶は厚みや重さによって価格が変動します。

そこで、航空宇宙学者の三浦公亮先生がNASAで研究されていた「PCCPシェル(Pseudo-Cylindrical Concave Polyhedral Shell:疑似円柱凹面多面体シェル)」に当社の研究者が目を付けて、ダイヤカット缶を開発しました。


《PCCPシェルとは》円筒状の物体の表面を厚くせずに強度を高められる構造のこと。1960年代に三浦公亮先生による極超音速機の胴体の破壊モデルの研究過程で考案された。


コーヒー缶などに採用いただこうと思っていたのですが、当時は飲料メーカーからのウケはあまり良くなくて。アルミでも試してみたのですが、ビールや炭酸飲料は圧がかかるので、ダイヤの形がはっきりとしなくなってしまうのです。見た目もあまり良くないですし、パッとしなくて、こちらも飲料メーカーからの反応はイマイチ。結局、ダイヤカット缶はお蔵入りになってしまいました。

しかし、サンプルの中身を捨てて廃棄していると、開けるときに「ペコッ」と、ダイヤの形が浮き出てくるのに気が付いたのです! これは面白いなという話になり、担当者にビール会社に営業に行ってもらうことに。そうして採用していただいたのが、キリンホールディングス株式会社が当時新ジャンルとして売り出そうとしていたチューハイ「氷結」です。

缶の形状によってブランドイメージが左右されるので、パッケージを変えるのは飲料メーカーにとっては重要な判断。新商品として大々的に打ち出すタイミングで採用いただけたのは有り難かったです。缶を開けたときの音や見た目が氷結というネーミングにもぴったりで、我々の大ヒット製品の一つだと言えるのではないでしょうか。

宇宙工学の技術をもとに製品を生み出した当社が、巡り巡ってまた宇宙分野に辿り着いたというのは、なんとも感慨深い話ですね。

宇宙環境の厳しい制約がイノベーションを生む

――東洋製罐グループでは、SPACE FOODSPHEREでどのような取り組みをされているのでしょうか。

前述の資源の循環に加えてQOLの向上に着目して、ディスカッションや実験、プロトタイプの作成を進めています。

例えば、この月面を走るローバーで40日間過ごすことにしましょう。簡易的な調理しかできない閉鎖環境では普通、日数分のお弁当を小分けにして積めば良いのですが、このローバーにはお弁当を保管しておくスペースもありません。食器を洗うスペースや水も限られているので、食器やコップは汚れが付きづらくする必要もあります。もちろんごみ箱もない。資源をリサイクルするにも、地球上とは違って、即時に原料になるものを考えなければなりません。

このように宇宙での暮らしを考えてみると、実現されれば地上でも有益なアイデアが浮かんできます。競争や既得権益などで、地球上ではなかなか進まない社会課題の解決も、宇宙をターゲットにすることで同じ方向を向けるのも大きなメリットです。

宇宙や月面の環境を知るところから始めるので大変ではありますが、SPACE FOODSPHEREではJAXAや各分野のプロフェッショナルの見解を聞けるのも大きなメリット。一社単独で行うと難しいことも、共同で行うことで加速させられます。容器メーカーとしても、やる気に燃えてきますね(笑) 

――ほかの参画企業やメンバーから学んだことで印象的なものはありましたか。

株式会社電通のフードテックプロジェクト「OPEN MEALS(オープンミールズ)」が考案した「寿司テレポーテーション」です。これは、職人が握った寿司をデータ化して転送し、フードプリンターを用いてどこででも出力できるというものです。

寿司テレポーテーション(OPEN MEALS)

「ピッ」とボタンを押せば寿司が出てくるフードプリンター。クールだし、実用的ですよね。このようなインターフェースが登場すると、私たちの缶詰やペットボトルは役目を終えてしまう日が来るかも知れません。今までの仕事の中だけでは、デジタライゼーションについて行けなくなってしまうところ、新しい取り組みを行っている人たちと話すとそのリスクに対してどのようなソリューションを出していくべきなのか考える機会になります。

――2040年代に自分が宇宙に行けるかというと、正直なところ年齢や体力的にもわからないのではないかと思います。それでもプロジェクトに取り組まれる三木さんのモチベーションは何なのでしょうか?

SPACE FOODSPHEREのコンセプトの一つは地球と宇宙のデュアル開発です。宇宙開発を地上に還元して、ビジネスにしていくことが重要だと考えています。

地球環境の悪化で宇宙へ移住していない限り、2040年代は地球と宇宙の両方が居住地として選択できる状況ですよね。例えば、地球上のデータや知見を宇宙で利用する一方で、宇宙環境で開発された技術が地上の課題を解決することもあります。さらに、宇宙からの映像を使って、地球にいながら宇宙旅行の擬似体験ができるようになるかも知れません。地球と宇宙のどちらにいても面白く、有意義な体験ができると思います。

私も以前は、宇宙は遠い憧れの存在ように感じていましたが、一般の方も宇宙に携われる時代が迫って来ています。宇宙工学の技術からダイヤカット缶が生まれたように、宇宙は自分の明日の生活やビジネスに繋がる何かを生み出す新しいフィールドです。

――ありがとうございました。地球にいても月面開発の恩恵が受けられる2040年代は少し想像してみるだけでワクワクしますね。今後のご活躍を楽しみにしています。

取材・文/井上榛香

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