NTTドコモは、みずほ銀行及びユーシーカードと業務連携に関する合意書を3月27日に締結(プレスリリース)した。
NTTドコモが提供している金融サービスのうち、クレジットカード「dカード」運営の連携強化と電子マネー「iD」の連携強化を合意している。
またNTTドコモが保有していたユーシーカードの株式を、みずほ銀行が全て買い取った。ドコモの持分は、26.1%だったものが0%となり、資本関係が解消した。ちなみに26.1%の持分があれば、株主総会での特別決議が否決できる。特別決議には例えば、会社合併や事業譲渡の承認などがある。
プレスリリースの見出しには業務連携と書かれているが、重要なのは資本関係が解消したことの方ではないだろうか。その理由には、キャッシュレス化社会での、NTTドコモと金融機関との力関係が関係していそうだ。
そもそもNTTドコモの金融サービスは三井住友カードとの取り組みが多い
まずプレスリリース中に登場しているdカードとiDの特徴をまとめておこう。
■クレジットカード「dカード」
NTTドコモが発行しているクレジットカードで、2015年11月までは「DCMX」という名称だった。日本で初めてVISAカードを発行した三井住友カードが裏方についており、顧客の審査業務などを行っている。
dカードの一覧。一般カードとGOLDカードの2種類を中心に、事前に入金した分だけ決済に利用できるプリペイドタイプもある。VISAブランドが付いている。また利用額に応じてNTTドコモが発行する「dポイント」がたまる。
引用元:dカード一覧/NTTドコモ
■電子マネー「iD」
NTTドコモが提供している電子マネーサービスとそのブランド名。Suicaのような交通系の電子マネーと同じく、iDに対応しているカードやスマートフォンを店舗の端末にタッチすると決済できる。上で説明したdカードもiDに対応している。iDに対応したサービスをはじめて提供したのも三井住友カードである。
2019年12月現在で約106.4万の店舗で利用できる。
引用元:使えるお店を探す|電子マネー「iD」/NTTドコモ
いずれの金融サービスも三井住友カードが一番深く関わっているものの三井住友カードが独占しているわけではない。
dカードはNTTドコモ以外が提携して発行しているものはないが、iDはユーシーカードが発行しているクレジットカードの他、ライフカードやゆうちょ銀行が発行するクレジットカードなどでも利用できる。
NTTドコモは三井住友カードとの資本関係を2018年に解消していた
NTTドコモは2005年のDCMX発行開始時に、三井住友カードの株式を34%取得して資本提携を行っていたが、2018年に提携を解消し持分を0%にしている。提携解消時に発表したプレスリリースの内容は、今回発表したユーシーカードとの合意内容とほぼ同じ。
強いて言えば三井住友カードの方には「システム開発」というキーワードが含まれていた。dカード発行に必要なシステムは、三井住友カードが担当するということだろう。
キャッシュレス化が進むにつれカード会社よりNTTドコモの方が強くなっていく
DCMX発行開始時には、三井住友カードのほうが強い力をもっていたのだろう。金融サービスを立ち上げようとするNTTドコモにはない顧客管理や与信管理を行うノウハウやシステムが充実していたからだ。
しかしスマートフォンを使った決済サービスが台頭するようになった2020年現在では、力関係が逆転して、金融機関よりも携帯キャリアの方が消費者に近い分だけ、需要を先取りできるので力が強くなった。
逆に言えば金融機関はお金に関する需要を、他社と協業して獲得していかなければならなくなった。
銀行振込やクレジットカードの明細確認といったサービスは全てスマーフォンがあればできる時代に、そのスマートフォンの通信契約を提供するNTTドコモは、一番初めに消費者と接点を持てるのである。
そのためNTTドコモが獲得した顧客基盤に対して、金融需要の獲得を目論む金融機関は少なくないはず。特定の金融機関に対して、NTTドコモがへりくだって資本提携をお願いし、協業する必要がないのであろう。
そして銀行口座やクレジットカードが不要で利用できる「ドコモ口座」のように金融機関が不要で送金や決済ができるサービスが登場してきている。金融機関にとって脅威である。
ドコモ口座は事前に入金して、送金や決済ができるサービス
引用元:ドコモ口座/NTTドコモ
業務連携を強化し、資本提携を解除した。ドコモが金融サービスを強化していく意気込みの現われでもあるだろう。
文/久我吉史