企業内には様々なプロジェクトが存在する。
そのプロジェクトの意思を決定し、品質やコスト、納期などに責任を持ち、前提・制約の中で成功に導く役割を果たすのがプロジェクトマネジャー(PM)だ。
今回、そんな「PM」に関するアンケート調査がプロジェクト制度のある企業で働くビジネスパーソン1200名を対象に行われたので、その結果を紹介していきたい。
なお本調査は、総合マーケティング支援を行なうネオマーケティングにより実施された。
プロジェクトマネジャー(PM)が原因で、プロジェクトが迷走・炎上?3人に1人が経験
そのPMが原因でプロジェクトが迷走したり、炎上したりした経験があるかをプロジェクトメンバーに尋ねる調査が行われた。その結果、38.0%が「経験したことがある」と回答。3人に1人以上が、PMが原因と考えられる理由で、プロジェクトが迷走したり、炎上したりした経験があるようだ。
Q1. プロジェクトマネジャー(PM)が原因でプロジェクトが迷走したり炎上したりした経験がありますか。(単数回答)【n=700】
プロジェクトが迷走したり、炎上したりした原因だと思うものを尋ねる調査が行われたところ、最も多い回答は「プロジェクトに関わる人達の合意形成ができていなかったから」となり48.9%が回答した。
次いで「プロジェクトの進捗を見える化をしなかったから」41.7%、「プロジェクトの計画・目標設定能力が足りなかったから」39.8%と続いた。プロジェクトマネジャー(PM)のスキル不足が原因でプロジェクトが迷走・炎上したと感じているようだ。
また、「はっきりとした指示をしなかったから」、「コミュニケーション力が足りなかったから」など、PMのマインドに対する不満の声も多く集まった。
Q2. プロジェクトが迷走・炎上したのはプロジェクトマネジャー(PM)の何が原因だと思いますか。(複数回答)【n=266】
プロジェクトメンバーを対象に、PMのスキルについて尋ねる調査が行われたところ、合計67.6%が「スキル不足のPMが多い」と感じていることがわかった。
Q3. あなたが今までに経験したプロジェクトでのプロジェクトマネジャー(PM)のスキルについて当てはまるものをお答えください。(単数回答)【n=700】
自社のプロジェクトマネジャー(PM)は、「プロジェクトマネジャー」という役職名がついているだけで仕事のできない『名ばかりPM』だと思うと回答したプロジェクトメンバーは17.4%、「やや思う」と回答したのは47.4%で、合計64.9%が自社のPMが『名ばかりPM』だと思っているようだ。
Q4. あなたは、自社のプロジェクトマネジャー(PM)は、PMとしての仕事ができない『名ばかりPM』だと思いますか。(単数回答)【n=700】
PMが社内の人間関係にも影響を!?「人間関係悪化した」55.9%
プロジェクトマネジャー(PM)の進行によって、社内の人間関係が悪くなった経験があるかプロジェクトメンバーに尋ねる調査が行われたところ、55.9%と半数以上がその経験があることがわかった。
PMの進行によりプロジェクトがうまく推進せず、社内の人間関係にも悪影響を及ぼしてしまっているようだ。
Q5. あなたは、プロジェクトマネジャー(PM)の進行によって社内の人間関係が悪くなったと感じた経験はありますか。(単数回答)【n=700】
次いでプロジェクトマネジャー(PM)によって、プロジェクトメンバーとの人間関係が悪くなってしまったと思う理由を尋ねる調査が行われた。
その結果、「PMの仕切りが悪かったから」56.8%、「PMが無駄な作業を生み出したから」42.7%、「PMの技術的知識、プロジェクト経験が乏しかったから」35.8%がTOP3となった。
Q6. あなたがプロジェクトマネジャー(PM)によって、プロジェクトメンバーとの人間関係が悪くなったと思う理由をお答えください。(複数回答)【n=391】
70.3%のPMが、プロジェクトがうまくいかなかった自覚アリ!
次いで、プロジェクトマネジャー(PM)経験者に対し、携わった案件でうまくいかなかった経験を尋ねる調査が行われたところ、70.3%が「ある」と回答した。プロジェクトメンバーだけではなく、PM自身もプロジェクトがうまく進行していないことを自覚しているようだ。
Q7. あなたがプロジェクトマネジャー(PM)として携わった案件で、プロジェクトがうまくいかなかった経験はありますか。(単数回答)【n=300】
プロジェクトがうまくいかなかった理由を尋ねる調査が行われたところ、最も多い回答は「プロジェクトマネジャー(PM)としてスキル不足だったから」となり、37.0%が回答している。
また、第3位には「上司に相談したが、具体的なアクションまでサポートしてくれなかったから」がランクインし、企業のプロジェクトに対する意識や体制の問題が垣間見える結果となっている。
Q8. プロジェクトがうまくいかなかった理由をお答えください。(複数回答)【n=211】
プロジェクトマネジャー(PM)が上司や会社に対しての不満を感じたこととしては、「PMにすべてを任せすぎている」37.0%、「PMへの教育が足りない」33.0%と回答した方が多い結果となっている。
スキルが足りないと自覚しているPMが存在するのに対し、サポートや教育が足りないという企業の問題がありそうだ。
Q9. プロジェクトマネジャー(PM)をしていた際に上司や会社に対し不満を感じたことをお答えください。(複数回答)【n=300】
PMを経験して「会社を辞めたい」と思った人は57.0%!
多くのプロジェクトマネジャー(PM)が不満を感じていることが調査から判明したが、さらに、PMを辞めたいと思った経験があると答えたのは計70.3%にも上った。
会社を辞めたいと思った経験も計57.0%と半数を超える結果となり、PMには大きなストレスが掛かっていることがわかる。
Q10. あなたは、プロジェクトマネジャー(PM)を経験し、PMを辞めたい、会社を辞めたいと思った経験はありますか。(単数回答)【n=300】
次いで、プロジェクトマネジャー(PM)を任命した経験のある役職者に対し、PMに対する不満について尋ねる調査が行われた。最も多い回答は「スキルが不足している」26.5%となり、次いで「無駄な工数が多い」23.0%、「プロジェクト成功に向けたマインド不足」20.0%となった。企業の役員クラスでもPMのスキル不足を感じているようだ。
Q11. プロジェクトマネジャー(PM)に対する不満をお答えください。(複数回答)【n=200】
企業はプロジェクトマネジャー(PM)の教育の重要性を意識し教育しているかについて尋ねる調査が行われた。その結果、意識している計、教育している計ともに、役職クラスとプロジェクトメンバー、PMで大きな差がある結果となっている。プロジェクトメンバー、PMは半数以上が「教育していない」と感じているのに対し、役員クラスは38.5%のみとなっている。この意識のズレを修正するには企業全体での取り組みが必要なのかもしれない。
Q12. あなたがお勤めの企業ではプロジェクトマネジャー(PM)の教育の重要性を認識し教育していますか。(単数回答)【n=1200】
「名ばかりPM」問題 解決にはPMOが成否のカギ
本アンケートの結果をもとにした、プロジェクトマネジメント支援のプロフェッショナル、MSOL(エムソル)の高橋信也CEOによる解説を以下にて紹介していく。
<プロジェクトはなぜ炎上し、迷走するのか。「名ばかりPM」が増加する要因とは?>
PMはプロジェクトマネジメントのプロフェッショナルでなければいけません。多くの日本企業では、ジョブローテーションの結果、PMに着任するケースが多く見受けられます。PMの仕事は、経験のない人が着任してすぐにできるような簡単な仕事ではありません。
経験のないPMがプロジェクトにアサインされた結果、管理不足と可視化不足で状況が把握できず、さらには全体を統括できずにプロジェクトが炎上することがあります。
<そもそもはマネジメントの問題。PMは教育されているのか?>
PMには、プロジェクトを統括し、計画通りに完遂させるためのプロフェッショナルスキルが必要です。現状、多くのプロジェクトでそのようなスキルを持たないPMが散見されます。これは、個人として学ぶ姿勢や経験が重要ですし、さらにプロジェクトを成功に導く強いマインドも必要です。
昨今は多くのコミュニケーションツールが開発されていますが、生産性を向上させるためのツールにも問題があります。使いやすいだけではなく過去の失敗や教訓を生かしながらPMを教育し、プロジェクトを成功に導くプロジェクトマネジメントツールが期待されます。企業がPMを教育できているのか、教育できるのかを考えたとき、企業側に教育ノウハウがない場合が多く、正直心許ない状況です。
<欧米ではMBA、弁護士、会計士と同等の価値があるPMのプロフェッショナル>
日本ではPMのプロフェッショナルを指す、PMP(プロジェクトマネジメントプロフェッショナル)という資格はあまり認知度が高くなく、国内のPMP取得者は約4万人です。
一方、米国では約33万人のPMP取得者が存在しており、中国でもここ数年急増し、約30万人もの取得者がいるのに対して、日本ではあまり増えていません。プロジェクトには、プロフェッショナルスキルを持ったPMあるいはそれに準ずる人材がいるべきですし、もっと増やしていく必要があると思います。
<PMはスキルだけでは不十分。PMを支えるPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)の価値>
「名ばかりPM」問題を解決するには、スキルの取得、向上だけでは不十分です。PMにはプロジェクトを成功に導く強い信念、リーダーシップと言った人間力がさらに必要となります。
そのため、今のプロジェクトの現場では、プロフェッショナルスキルを持ったPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)という人、組織が活躍し、大きなプロジェクトのPMを支えているのが現状です。これからのプロジェクトは、PMOと優れたプロジェクトマネジメントツールが成否のカギを握っているといっても過言ではないでしょう。
■調査分析
株式会社マネジメントソリューションズ(MSOL:エムソル)代表取締役兼CEO 高橋 信也(たかはし しんや)氏
福岡県出身。上智大学経済学部卒。大学卒業後、アンダーセン コンサルティング(現アクセンチュア)入社。 コンサルタントとしての外部の目からだけではなく、内部の目でマネジメントを経験したいとの思いから、SONY Global Solutionsへ入社。グローバルシステム開発プロジェクトのPMOリーダーとして活躍。 2005年 株式会社マネジメントソリューションズを設立し、現在に至る。
<調査概要>
調査の方法:株式会社ネオマーケティングが運営するアンケートサイト「アイリサーチ」のシステムを利用したWEBアンケート方式で実施
調査の対象:アイリサーチ登録モニターのうち、全国の25~59歳でプロジェクト制度がある企業にお勤めのビジネスパーソンを対象に実施
有効回答数:1200名(プロジェクトメンバー経験者:700名、プロジェクトマネジャー経験者300名、会社役員200名)
調査実施日:2020年1月17日(金)~2020年1月20日(月)
出典元:株式会社ネオマーケティング
https://www.neo-m.jp/
構成/こじへい