ビジネスにおいて、時に、“お願いしにくいことをお願いしなければならない”ときがある。しかし、そういうシーンがどうも苦手と感じる人もいるのではないだろうか。実は、お願いの仕方によって、相手は快く受け入れてくれるのだ。
そんな“お願いしにくいことをお願いする”ための必殺ワードとテクニックを、伝わる話し方講師として研修やセミナーなどを行う廣瀬由美さんに聞いた。
お願いしにくいことをお願いするための必殺ワード&テクニック5選
1.「○○さん。おりいってご相談があるのですが」
「“おりいって”とは、信頼できる人に対して、通常と異なる特別なお願いごとや相談ごとをするときに使います。この言葉を言われると『お、何かあったのかな』『特別なことなのかな』など“何か事情があるのだな”と想像してもらうことができます。
取引先や上司に、こちらの都合で期日を変更してもらいたいときなどに活用できます。『おりいって』の後に、相手のメリットを添えることで『同じ方向を向いている』という姿勢を伝え、そのためのお願い事項であるということを理解してもらい、協力を促します」
●使用例
「○○さん。おりいってご相談があるのですが、先日お願いした資料の期日を、2日ほど早めていただけないでしょうか。社内での検討会議の日程が早まったので、御社の提案をどうしても間に合わせたいんです。」
2.「○○さん。急きょご相談したいことがあり、5分ほどお時間いただけますか?」
「忙しい上司にお願いごとがあるとき、始めに5分という短く分かりやすい時間を伝えることで『それくらいなら』『5分取れない、っていうのも言いにくいな』という気持ちもわき、耳を傾けようという気持ちになります。相手の中の対応優先順位を入れ替えてもらうときに有効です。
また、『急きょ』を入れることで『何かあったな』と相手に事前に心構えを持ってもらうことが可能です。トラブル発生時の同行や対応依頼の際に効果的です。まず何をしてほしいかを伝え、そのあとに具体的な内容を伝えるとさらにスムーズです」
●使用例
「○○さん。急きょご相談したいことがあり、5分ほどお時間いただけますか?
昨日の案件でトラブルが発生し、謝罪に同行していただきたいんです。具体的な内容は・・・・」
3.「迷っているのですがご相談に乗っていただけますか? A案(捨て案)とB案(本命案)どちらがいいと思われますか?」
「あえて質問形式にして、相手に選択肢を与える方法です。つまり、B案が相手に“お願いしたいこと”になります。ここでのポイントは2つあります。
一つ目は『お願い』と言わずに『相談』と表現すること。二つめは、お願い事項は後に言うこと。
人は無意識で損得勘定を推し量るので、はじめに『お願い』という言葉に反応し“お願いされないための視点”を持ちながら話しを聞くため、客観的に話を聞き入れてもらえなくなる傾向があります。
話す順番を後にするというのは、現実的ではなくとも“こうすればできる”というA案を先に提示することで、『やりたくないのではなく、できる方法を考えた』ことが伝わります。そのうえでB案を提示し比較検討し、納得や共感を持って選択してもらう、という点がポイントです。
人は、自ら選択した結果は受け入れやすいため、『いたしかたない』という気持ちへスライドしやすくなります。
特に社内資料作成や案件対応など、対応事項が重なり、協力もしくは他者に振り直してもらいたい場合は『じゃあひとつは自分か、誰か別の担当者で』といった答えを、相手の口から引き出すことができます」
●使用例
「○○さん。迷っているのですがご相談に乗っていただけますか? 先ほどご依頼いただいた資料作成の進め方としてA案とB案の2案、考えました。今、昨日ご依頼いただいた資料作成と合わせて2件が手元にあります。A案は、私一人で同時進行し対応します。その場合、それぞれあと1週間ほど猶予をいただければ対応が可能です。B案は、どちらを優先するかを決めていただき、いずれかを期日に間に合わせます。どちらが良いと思われますか?」
4.「○○さん。いま、お忙しいですよね? 実は、とても困っていて、・・・・(事情説明)。お手伝いいただくことは可能でしょうか?」
「これは、対応事項が重なったために依頼された相手に案件を差し戻すときや、別の担当者に業務協力をする場合など、結果として『相手が手を動かすことになる』場合に活用します。
ここでお願いする相手は、お願いしたときに『確かにあちらを優先しなくてはしかたがないな』と共感を得ることができる相手、もしくは状況を説明でき、手伝うことがある程度可能であるという見立てがある相手です。
そのうえで、『暇そうだからおねがいするわけではない(そう見えたとしても)が、困っている』から相談させてほしい、という状況を説明します。相手の中に『しかたがないな』『どうしたんだろう』という共感の意識が芽生えてから協力を打診します」
●使用例
「○○さん。いま、お忙しいですよね? 実は、とても困っていて。クライアントから提案日の前倒しの依頼があったんです。でも、いま○○さん(相談相手)からご依頼された提案書の締め切りと同じ日なんです。どうしても間に合いそうになくて…。お手伝いいただくことは可能でしょうか?」
5.「○○さんなら、ご理解いただけると思うのですが」
「はじめに『あなたは理解のある人だ』と伝えることで、これからの話に対して無意識のうちに理解しようと努める姿勢で耳を傾けます。人は自分に対する肯定的前提を受け入れやすい、受け入れたくなるもの。こういわれると『信じています』と言われると裏切りにくくなるのと同じです。
社内フローやよくある変更など、こちらの事情をある程度把握している相手に対し、お願いするときに活用できます。『ああ、この案件はいつものことだよね。大変だよね』など、個人ではどうしようもない状況であることを理解してもらい、その後で相手の立場や業務上、理解してもらいやすい状況を伝え、共感を促します」
●使用例
「○○さんなら、ご理解いただけると思うのですが、A社様からまた大幅な修正依頼があって…。一人ではどうしても間に合わないので、手伝っていただけませんか?」