マンガワンで連載が開始されるや、圧倒的な迫力とストーリーテリングで話題を集める『寿エンパイア』。江戸前寿司の世界を描く理由、主人公・湧吾の今後などについて作者・せきや てつじ氏に話を伺ってきた。さらに次ページからは『寿エンパイア』本編の厳選エピソード2話分が無料で読めますのでこちらもお楽しみに!
裏少年サンデーコミックス
『寿エンパイア』せきやてつじ
第➀巻好評発売・配信中
https://www.shogakukan.co.jp/books/09850048
東京湾の豊かさ、江戸前の魚のおいしさを伝えたい
——イタリアンレストランの世界を描いた『バンビ〜ノ!』から約7年、今作『寿エンパイア』では寿司の世界を描かれています。もっと別の視点から食の世界を描きたい! そんな衝動があったのでしょうか?
せきや ははは、ぶっちゃけ、これしか企画が通らなかったから(笑)。というのは半分冗談で、描きたいテーマが“東京湾”だったんです。
高度経済成長期に港湾に排出された工業用水で水が汚れ、生物は減少し、東京湾は里海としての機能を壊されてしまった。でもね。もうそんな時代じゃないと思うんですよ。人と自然が共生する在り方を模索しなければなりません。活動家の方々の努力のかいあって、東京湾にはかつてのような自然が戻ってきています。アジ、サバ、タイ、アナゴ、ヒラメ、ノドグロ。あまり知られていませんが多種多様な生物がいます。東京湾をふくめ、里海を愛する心を呼び覚ます一助に、この漫画がなってくれればと願っています。
——東京湾の素晴らしさだけであれば、和食がテーマもありえた気もしますが。
せきや 初めは和食料理人の漫画を描くつもりだったんですよ。日本中の和食料理店を巡って取材をして来ましたが、題材として和食は渋すぎる。そう判断して、寿司職人の漫画に変えたんです。
——派手にしたい、それで主人公の湧吾はハワイ出身なんですか?
せきや バーフバリ(2015「伝説誕生」 2017「王の凱旋」)と言うインド映画にインスパイアされてます。正統な王族の後継者が、本人はそれと知らず、王国から離れた場所にいるのだけれど、王国の危機を救うため帰還して、王位を継承すると言う映画です。貴種流離譚ですね。それを寿司の世界でやりたいと思ったんです。そうすると、湧吾が日本国内の離島に住んでいてはちょっと近すぎてロマンがない(笑) 海を越えて帰ってくるとなるとハワイくらい距離がないと。ハワイと言う日本とはかけ離れた世界に、江戸前寿司の優秀なDNAが保管されてて、王国の危機に帰還して、混乱している秩序を正し、皆が忘れている事を思い出させます。
——忘れていること?
せきや 裏テーマでもあるんですけど、豊洲で高いお金を払って引っ張ってくるのが魚じゃないっていうのがあって。要は、魚っていうのは海の中を泳いでいるんだぞ、自然のものなんだぞっていうことも描いて、みんなに思い出してもらいたいんですよ。それを伝える湧吾は、“エコヒーロー”という感じですね。
——エコを伝えるヒーローで、エコヒーロー。今の時代の主人公にふさわしい言葉ですね! それにしても魚を捕る労力、努力を忘れているわけではないですが、改めて言われるとハッとします。
せきや 自然の豊かさ、魚の美味しさを伝えながらやがて、湧吾が正当な江戸前寿司を復活させる…そんなストーリーを目指しているんですよ。
描きたいのは冒険者たち
——湧吾がシュルルルッという独特の動きでシャリを握るのも、かつての江戸前の手法だったりするんでしょうか?
せきや さすがにあれは漫画ならではのフィクションです(笑)。とはいえ、この先、あの握りの秘密も明かされていくと思いますよ。他に江戸前寿司の盛り付けにも思うところがあって、江戸前とは違う寿司の盛り付け方も提案していくつもりです。それから、江戸前寿司とは関係ないけど、湧吾の出生の闇も描く予定だし……。
——そ、そんなにタネ明かしをして大丈夫ですか?
せきや 物語を構成する要素のほんの一部でしかないですから。
私がデビュー以来一貫して描き続けて来たのは「冒険者」です。冒険者は前人未到の地を目指して船に乗ったり、登攀したり、深海に潜ったりするでしょう? 私は料理人に、現代の「冒険者」の姿を見ているのです。珍しい食材を求めて旅をして、手に入れる。刻み、加熱し、冷やすと実験を繰り返す。時に敢えて危険な領域に踏み込みつつ前人未到の手法を発見して、みんなを喜ばせる。冒険者そのものですよ。だから私は料理人を描き続けているのです。
——そこに仲間やライバルも出てきて。
せきや そうですね。群像劇にしたいので、“エコヒーロー”的な湧吾を中心にいろんなキャラが出てきて、裏切り、協力、成長…寿司に青春を燃やすたくさんの“しのぎを削る”も描きたいですね。
——湧吾の活躍だけじゃなく、東京湾の、東京湾に生きる魚たちの、そして江戸前寿司の魅力も伝えてくれる…それが『寿エンパイア』なんですね。最後の読者の方にメッセージをお願いします。
せきや この作品はマンガワンの中でも体温や匂いなんかを感じさせるゴリゴリしたマンガだと思っています。そのゴリゴリ感を落とすことなく、読んだ人が「自分も湧吾みたいに生きよう」と憧れてくれるようなマンガを描いていくので、応援よろしくお願いします。
作業部屋には寿司、和食といった料理の本が資料として積み重ねられている。ちなみに自身が好きな寿司店は西荻窪の『T』。ネタは超一流じゃないかもしれない。でも、つまみから握りまで何を食べて美味しい。はっきり言って銀座の寿司以上です」とのこと。
せきや てつじ氏
1969年生まれ、福岡県出身。2000年『ジャンゴ』(原案・木葉功一/モーニング)でデビュー。2005年から連載開始した『バンビ〜ノ!』(ビッグコミックスピリッツ)はドラマ化されるなど大ヒット。現在マンガアプリ『マンガワン』で、江戸前寿司の世界をテーマにした『寿エンパイア』を執筆中。
裏少年サンデーコミックス
『寿エンパイア』せきやてつじ
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