会社は、性格の異なる社員たちのぶつかり合いの場。職場の人間関係の軋轢も、「人間力を高める研鑽の機会」と割り切ってしまえば案外楽しいもの。
……と割り切れるのならいいが、なかなかそうはいかないものだ。転職希望者が、転職したい理由に挙げる1位がいつも「職場の人間関係」なのも、わかる。
特に最近、職場で増えているのが、「行動や発言が全く理解できない存在」。時として「甚大な被害を与えてくる」上司・部下・同僚をして「オフィス宇宙人」と呼ぶのは、先般『同僚は宇宙人』(小学館)を上梓した野澤幸司さんだ。
80タイプもいる「オフィス宇宙人」
コピーライターという職業のせいなのか、そういう人種を引き寄せやすい体質なのか不明だが、野澤さんは「オフィス宇宙人」との遭遇に恵まれているようだ。本書で取り上げられている「オフィス宇宙人」は全80タイプ。聞き書きも含まれるにしても、バラエティーに富み過ぎだ。
野澤さんに、そのあたりについてうかがうと「自分がとくべつ宇宙人に囲まれているというわけではなく、オフィスで働くほとんどの人の周辺に宇宙人はたくさんいると思います」とのご回答。
そこで、あなたの職場にもいそうな「オフィス宇宙人」を、本書から何例か紹介しよう。
取り扱い厳重注意の「怒られたら辞めちゃう星人」
名称のとおり、上司から注意・叱責されると、しんどさのあまり退社してしまう。若手社員によく見られるのが、この「怒られたら辞めちゃう星人」だ。
本書には攻略難易度が★★★★★とあり、最も対処に難儀する人たちだ。
では、努めて怒らないようにすればいいか、と言えばそれもダメだそう。対処法としては「怒ったあと、何がダメなのか、どうすれば改善されるのか、手取り足取り丁寧に教えてあげなければならない」のが最善の策。
野澤さんも、この宇宙人と接近遭遇したことがある一人だ。
「自分も若い時は、すぐ辞めてやる! とか思ったりしましたが、本当に辞めることはなかったですね。いまは割と本当に辞めてしまいますね。ある種、有言実行ですね」
そして、この路線に連なる別の宇宙人が「メールで退職願星人」。退職の意向は、まず直属の上司と相談。しかる後、退職願を肉筆で書いて封筒に入れて上司に出すもの、という暗黙のルールもなんのその。いきなり、メールで退職願いを出してしまう若手社員だ。
ただ、当人からすれば「自分が畏まることで相手に気をつかわせたくない」という忖度の念がはたらいており、ほぼ悪意はない。それをメールで受け取ってしまったあなたは、広い心で当人のピュアで優しい心を受け止める必要がある。
行間は読めず「文面通り受け取る星人」
上司と部下の同行営業で、部下の軽はずみな発言から、得意先のひんしゅくを買ってしまった部下。しかし、部下はどうもそのことに気づいていない。
こんなことがたびたびあるため、上司はこの部下に対し「明日の商談、もう来なくていいよ」「今後あの得意先には行かなくていいよ」と最後通牒のメールを突き付ける。厳しくあたることで、部下の心に響くことを半分期待しつつ。
それを文面通り受け止め、むしろラッキーなことだと考えてしまう部下。これが最近多い「文面通り受け取る星人」だ。
こんな部下に対し、発言の機微というか行間を読ませることを好む「行間読めよ星人」が上司だったら、もはや両者のコミュニケーションは、まったく異なる国の人同士のものと考えていい。職場に彼らの言葉を「翻訳」してくれる奇特な人がいればいいが、いないといつか惨事を招きかねない。
野澤さんは自身の体験をふまえ、次のようにアドバイスする。
「日本人の美徳とも言われる、察するという概念は、もう全世代に通用するものではないと心に刻むしかないな、と。言いたいことが10あったら10言う。いや、12くらい言う、くらいの発信をしないと、わかりあえないような気がしています」
「若い頃やんちゃ自慢星人」
オフィス宇宙人はなにも、若い世代の社員とは限らない。バブル世代の、平成初期の残り香を漂わせたベテラン社員にもいくらでもいる。
その1例が「若い頃やんちゃ自慢星人」。働き方改革で過去のものとなりつつある(?)激務にまつわるエピソードとか「武勇伝」をとうとうと語り出すと、もう止まらない。アルコールが入ると「その悪癖はさらに覚醒する」という困り者だ。
野澤さんも、酒席でしばしば「若い頃やんちゃ自慢星人」につかまるという。もっとも、対処はそれほど大変ではない。本書でも説明があるが、野澤さんは次のように対応してやりすごすという。
「これはもう、一部のおじさんの健全な姿だと思います。自分は下の世代にしてはいけないな、と反面教師として向き合うようにするべきだと思います」
本書を読むと、大半のオフィス宇宙人=敵ではなく、ただ、ちょっと癖が強いだけの人たちであることがわかる。書かれている対処法を参考に、良識あるレスポンスに努めることで、オフィス宇宙人ともうまくやっていくことは可能だ。そのための手引きとして、一読されるとよいだろう。
野澤幸司さん プロフィール
茨城県牛久市生まれ。青山学院大学法学部卒業。ハガキ職人を経てコピーライターに。 普段はいろいろな広告のコピーやCMを考える仕事をしている。近著にして初の著書『妄想国語辞典』(扶桑社)が2万部のスマッシュヒットに。本人は「人の目を見て話せない星人」でもある。
本書内イラスト:川嶋ななえ
文/鈴木拓也(フリーライター兼ボードゲーム制作者)