目的にあわせた柔軟にデジタル技術を活用
バルセロナ市でICTを活用したスマートシティへの取り組みがどのように行われてきたかについては、バルセロナ市情報局のディレクターを務めるジョルディ・シレラ氏が「持続可能な都市/バルセロナが掲げる新ビジョン」というプログラムで紹介しました。
バルセロナ市情報局ディレクターのジョルディ・シレラ氏。(Photo:主催者より提供)
各市町村へのICTソリューションの提供やアドバイス、状況を分析といった役割を担う情報局では、2011年から19年にかけて様々な取り組みを行っており、2019年には1.4万人いる行政スタッフの2%と全体予算の4.38%にあたる6000万ユーロの資金を活用しています。IoT、センサー、ビッグデータなどが知られていない時代からICTの観点を取り入れたスマートシティを検討しており、データから得た知識を情報として意思決定のプロセスに活用するなどしてきました。
シレラ氏からは情報局の活動が紹介された。(Photo:主催者より提供)
例えば、気温や人の移動などの様々なデータを収集し、活用できるオープンソースな「Sentilo(センティーロ)」という仕組みを開発したり、そこで集められたデータを市民が活用できる「City OS」というプラットフォームを構築し、オープンデータやアプリなどを開発できるオープンAPIを公開するといった先進的な取り組みを次々に行なっています。
現在は2020年から23年にかけての戦略に取り組んでおり、市民を中心に何が都市にとってスマートであるかを見直していると言います。プロジェクトが必要であると理解してもらうためのポイントは何か。戦略のゴールをどう設定するか。実施に必要な新しい技術は何か。そして、最後にそれら全ての位置付けを決めて予算を配分し、スケジュールを決めるところまで作業を進めています。
バルセロナ市のスマートシティが他と違うのは、市が行うのは大きな枠組みやコンセプトをデザインして方向性や目標を明確にすることで、新しいテクノロジーやアイデアをどう使って実現するかという実動的な部分は、ほとんど市民に任せられているという点です。シレラ氏も大事なのは市民自身がスマートになり、市の運営に参加することであり、大きなパラダイムの変化があっても対応できることがスマートなシティになることだと話しています。
明確な課題で最適なアイデアを導く
フォーラムの後半では様々なテーマでパネルディスカッションが行なわれ、その一つ「市民中心のエコロジカルなスマートシティとは~バルセロナと日本の比較~」の中でボイガス氏は、「都市は子どもたちのためにスマートな未来を考えなければいけないが、それは今までに無い答えを出すことで、賢いというよりバカになることではないか」と言います。また「市民の生活は昔からつながっていて、ゼロからではなく今あるものから作るしかないので、完璧さを目指さずいま目の前にあるものをより良いものにするのが大事ではないか」とし、だからこそ市民一人一人が他人任せにせず、一緒に責任を持って都市を作る必要があるとコメントしています。
さらに、「スマートシティは行政だけでも市民だけでも実現できない」と言い、実際に都市生態学庁ではプロジェクトに協力してくれる人材を外部からも受け入れています。パネルディスカッションに参加した東京大学先端科学技術研究センターの吉村有司氏もその一人で、都市生態学庁でデータを活用してモビリティを分析する研究プロジェクト「ICING(アイシング)」を担当し、スーパーブロックプロジェクトにも関わっています。当時は専門外だったという吉村氏が中心的なプロジェクトに参加して力を発揮できたのは、バルセロナ市のスマートシティが目指しているものが明確で、新しいアイデアを柔軟に受け入れる体制があるからだと言えます。
フォーラム後半のパネルディスカッションの様子。(Photo:主催者より提供)
バルセロナ市のスマートシティに話題になるような最先端のテクノロジーが使われているという話はありませんでしたが、必要であれば提案して活用することができるプラットフォームが整えられているのがわかります。快適さや便利さだけを求めるのではなく、市民と行政が一緒に考えてデザインしている点も大きな特徴で、20年近く重ねられてきた様々な経験とあわせて、まだまだいろいろ参考にできることがありそうです。
■関連情報
スマートシティ・インスティテュート
特別シンポジウム 日本・バルセロナ スマートシティフォーラム
https://events.nikkei.co.jp/21606/
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スマートシティ・インスティテュートに関して詳しくはこちら
https://www.sci-japan.or.jp/
文/野々下 裕子
フリーランスのライターとしてデジタル業界を中心に、国内外の展示イベント取材やインタビュー記事を執筆するほか、本の出版(電子書籍含む)企画、編集、執筆などを手掛ける。注目分野はロボティクス、AI、自動運転自動車、デジタルヘルス、ウェアラブルほか多数。https://twitter.com/younos