まずは日本盤とUK盤で比較する。日本盤は僕の抱いていた印象よりは音がいい。だがイエス・サウンドの特徴と言えるベースのゴリゴリ音が物足りず3.5だ。UK盤は逆に、僕の印象ほど音がいいとは思えなかった。ちょっと、ガッカリ。とはいえ音の伸びや躍動感は日本盤を上回り4とする。
次はUS市販盤とUSプロモ盤対決。どちらもマト1(正確にはマトA)、しかもラベル外側のランアウトに刻まれた文字もまったく同じ(ST-A-712367-A AT/GP PR PORKY)なので、論理的には同じ音となるはずだ。先に市販盤から。音の輝きやベースのゴリゴリ感はUK盤より明らかに上だ。一般にイエスやレッド・ツェペリンのような、UKもUSもマト1は音がいいとされるバンドの音は、USはパワフルで輝きがあり、UKは落ち着きがあるとされるが、まさにそういう印象だ。僕はパワー派なので、US市販盤をUK盤の4より上の4.5とする。
だがUSプロモ盤を聴いてぶっ飛んだ。音がフレッシュで鮮烈、市販盤よりさらにパワフルで文句なしの5をつける。前回の比較試聴では、ここまでの差は感じなかった。「スペース・オプティマイゼーション」、恐るべし。思うにこの差は市販盤かプロモ盤かで生じるのではなく、50年弱の間の再生回数の差=コンディションの差によるのではないだろうか。
モービル・フィデリティ盤。この片面ほとんどの溝が「ラウンドアバウト」だから、“側”としてはモービル・フィデリティ盤が有利なはずだ。
最後に4種類中最優良録音のUSプロモ盤とモービル・フィデリティ盤を比較する。モービル・フィデリティ盤は新品未試聴、しかも2枚組45回転なので“側”としては有利だ。核心は溝に刻まれた“信号”だが……。結果は驚くというより残念なことに、あまりにも差があった。音圧、アコースティックギターの音の粒立ち、歯切れの良さetc.、モービル・フィデリティ盤はUSプロモ盤の8がけほどで評価は4だ。といっても、モービル・フィデリティ盤の音がよくないわけではない。USプロモ盤が、あまりにもよすぎるのだ。
僕が2か月に1回、1980年代の『FMレコパル』編集部在籍時以来のロックとオーディオの師匠、音楽プロデューサーの岩田由記夫さんと開催しているイベント「レコードの達人」で、この『こわれもの』5種類の聴き比べをする。日時は2月15日(土)13時半~、場所は東京・大岡山のライブハウス「グッドストックトーキョー」だ。
いしだあゆみ&ティン・パン・アレイ・ファミリー/『アワー・コネクション』、1977年盤。
いしだあゆみ&ティン・パン・アレイ・ファミリー/『アワー・コネクション』、2020年盤。帯の淵が若干違う。
この日はもう1作品、話題のアルバムの新旧比較試聴をする。いしだあゆみ&ティン・パン・アレイ・ファミリーの『アワー・コネクション』だ。1977年に発売された、シティーポップの金字塔といわれる作品で、橋本淳プロデュース、ティン・パン・アレイ(細野晴臣、林立夫、鈴木茂)が バックを務め、佐藤博、矢野顕子、羽田健太郎、そしてコーラスには山下達郎、吉田美奈子までが参加している。やはりこの1月にアナログが復刻され、すでに在庫僅少だ。この復刻盤と77年のオリジナル盤を聴き比べる。僕が持つオリジナル盤の中古購入価格は約13000円、復刻版は4290円と約3分の1。その音の優劣は、イベントにてご自身の耳で判断を。
ということで、ご来場、お待ちしております。
文/斎藤好一(元DIME編集長)