快楽へと誘う魅惑のフィンガーテク
そのマッサージ機には『快王』という商品名が記されていた。“快”ときて“王”! なかなか期待させるネーミングである。料金は、予想通りの10分200円。
横にはポスターや説明書みたいなのが貼ってあって、
『プロの技を体感する。快王』
なんて書いてある。お~ップロの技かァ~、これは大枚200円払う価値があるぞと、満を持してその革張りのイスに座り、100円玉を2枚投入する。操作リモコンには全身をくまなく揉んでくれると思われる“自動コース”と、気になった部分を集中的に攻めてくれるだろう“手動コース”というか手動のメニューがあったが、最初は自動コースで行くことにする。
自動コースも『リラックスコース』『美脚コース』『リフレッシュコース』と3コースある中、横に貼ってある説明書にも“ハードな疲れ最適”とあるリフレッシュコース! リクライニングも一番効きそうなフラットに近い位置にして、いざマッサージがはじまった。
ブルブルとした叩きとグイグイとくる揉みが複合された動きが背中を刺激する。これは確かに気持ちいい! 時々、背骨を伸ばすようなローリングも組み合わさってくる。背骨の両脇のコった筋肉がどんどんほぐされている気がして、時々、
「アンッ」
なんていうセクシーな声が思わず出る。さすが快王! そう思うと“快王”ってネーミングもどこかエロく感じられてくる。赤マムシ系の精力剤にでもありそうな名前だ。
そうこうしてるウチに10分が終わってしまった。いや~気持ちいいからか、アッという間だった。そして思った。
「あと10分やっちゃう?」
もうこの発想は、オレにとってはそうとうな贅沢よ! キャバクラ行ってフルーツ盛り合わせ頼むようなことよ、きっと。だけど実は、この前に自販機でビールも買ってたんで小銭が底をついてまして、急いでフロントまで行って両替してもらって、再度200円を「持ってけドロボー!」的勢いで 投入! 今度は手動コースで腰だけをいく。
快王様の絶妙なフィンガーテクに、思わずこぼれる「アンッ…」という喘ぎ声。そして快楽をむさぼり尽くしたかのような10分間は、またも「アッ」という間に、というか「アンッ」といってる間に終わった。
さすがにもう200円を再投入するのは勿体なくて辞めたけど、総額400円払った価値のある体のスッキリ具合! 体が一段階軽くなったような気分でサウナを後にした。
だが翌日。家で朝起きると、いつもと同じように背骨回りはバキバキでした…。
これが人間の施術だったり、マッサージ機でも毎日定期的に受けるとずいぶんと効果も違うんだろうけど……結論・たまァ~にたかが400円じゃ、その日だけの気休め。
でもその気休めで充分ではある。なにしろ“気”はしっかり“休んでる”んだから。
文/カーツさとう
コラムニスト。グルメ、旅、エアライン、サブカル、サウナ、ネコ、釣りなど幅広いジャンルに精通しており、新聞、雑誌、ラジオなどで活躍中。独特の文体でファンも多い。