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創業は240余年前の天明元年!高知県に現存する最古の蔵「日本酒蔵」の新杜氏が目指す令和時代の酒造り

2020.02.03

40代の社長と杜氏が伝統を守る

現在、この歴をある蔵を守るのは、2013年に社長に就任した10代目の西岡大介さん(45歳)。つまり30代の若さで歴史を背負ったわけだ。

そして2019年秋からは杜氏も代わり、島村浩史さん(49歳)に引き継がれた。いつの時代も同じ人で酒造りができるはずもないのは当然のこととはいえ、今シーズンの造りにかかる重圧は相当なものだったに違いない。

そのあたりを島村さんに伺うべく蔵を訪ねると……。

前職は〇〇1?

島村さんと初めて会った時、「いかにも久礼らしい漁師風の男だ」と思った。きっと地元で生まれ育った人だろうと話しを聞くと、その経歴は少々意外だった。

というのも、高校まで県内にいたが、大阪の芸術大学に進学している。卒業後は大阪の大手通販会社に勤務し、広告関連の仕事をしていたという。その後、兵庫県の醸造会社に転職し、梨ワインの生産に従事することで酒造りの面白さを知り、馴染みの酒屋さんに紹介された高知県内の別の酒蔵で杜氏の世界に足を踏み入れた。

ただ、杜氏として「職人的」に酒造りに関わりたい島村氏の思いと、脱職人的な働き方改革を目指す蔵の方針は少々ズレが生じた。

「サラリーマン的な仕事の枠組みは、どうも苦手なんです。自分はもっと幅広く酒造りを知りたい、関わりたい」

悩んでいるときに縁あって西岡酒造に入ったのが8年ほど前のこと。前杜氏の元で働きながら、西岡の味を自分のものにしていった。

まずは継承すること

今、島村さんが心がけていることは何だろう。尋ねると真っ先に出て来た答は

「変わったと言われないこと」

これを機会に新しいことに挑戦しようなどと思う段階ではないという。何事も最初が肝心。

「西岡の酒は濃い。そして飲み飽きない。これはとくに久礼の背骨でもあります。先輩らが作り上げてきた、食事をしながらでも飲める酒は継承します。そういう軸がブレないよう造れて、初めて次の技が出てくるのです」

静かに語る。そして定番酒ほど造るのが難しいと付け加える。まさに職人の矜持である。その一方、

「どの酒も飲み方は問いません。○○は冷やじゃなきゃとかはなく、『あらばしり』の燗もうまいと思いますよ。ウチはあくまで日常の酒でありたいのです」

とも付け加える。

杜氏ならではの生活

造りの始まった10月から翌年3月まで、島村さんは蔵に寝泊まりしながらの生活が続く。隣町の家に帰るのはせいぜいお正月の1日くらい。それほど杜氏の仕事は集中しなければならないわけだが、小さな蔵では何でも全員でやるのがモットー。

「造りはもちろん、瓶詰も掃除も何でもやりますよ。全員でやるというスタイルが大切なんです。ひとつのチームとしていろいろな仕事ができる、それが魅力でもあります」

改めて蔵を見渡せば、若いスタッフが多いものの、社長をはじめ全員がテキパキと動いているのが印象的だった。

営業もすれば田んぼもやる

春になると、島村さんにはもうひとつの大きな仕事が待っている。それは酒造りに欠かせない米づくりだ。というのも、高知は日本酒が有名なのに他県に比べると酒米は少なく、高齢化で作り手も減っている。

できる限り自分たちの手で、地元の味を守るためにも田んぼ仕事は必須。そうすることで、若い人たち、次の世代に引き継いでもらえる。

また、PRで各地の販売店を周るなども重要な仕事のひとつといい、実直な職人でありながら、チームの一員として酒造りの全てに関わりたいとの思いが伝わって来た。

取材協力:西岡酒造 http://www.jyunpei.co.jp/

取材・文:西内義雄
医療・保健ジャーナリスト。専門は病気の予防などの保健分野。東京大学医療政策人材養成講座/東京大学公共政策大学院医療政策・教育ユニット、医療政策実践コミュニティ修了生。高知県観光特使。飛行機マニアでもある。JGC&SFC会員。

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