雪降るゲレンデから真夏の東京まであらゆる気温・天候でも消えない
オリンピックの聖火リレーでは、トーチだけでなくコースも趣向をこらしたものになっている。かつては宇宙ステーションや水中をリレーした大会も!
日本では3月20日、ギリシャ古代オリンピア市より運ばれてきた聖火が国内に到着。まずは「復興の火」として宮城・岩手・福島で展示された後、3月26日より聖火リレーがグランドスタート、沖縄から北海道まで全国を巡り、7月に東京に到着する。
福島ではゲレンデを滑走するし、広島では古式泳法で川を渡るなど、興味深い試みが盛りだくさん。一方、東京2020パラリンピック聖火リレーはオリンピック終了後、8月13日から日本各地から出発し、8月25日、東京に到着する。
つまり、同一の燃焼機構であらゆる気温に対応することも、聖火リレートーチ作りに課せられた課題だ。
「気温への対応は、バーナーで使われるマイクロレギュレーターという技術を用いました。スプリングとダイヤフラムを用いた、いわゆるガス調圧器です」(山本さん)
マイクロレギュレーター内はダイヤフラム(逆止弁)によって2つの部屋に分かれている。気温が高くなると燃料ボンベの圧力が高まり、気温が低いと圧力が弱まる。この性質のせいで冬になるとガス製品は火力が落ちてしまうのだが、マイクロレギュレーターのスプリングが圧力を感知し、ダイヤフラムでバランスを取るため一定のガスを噴出。気温や気圧の影響を抑えて、一定の燃焼となる。
マイクロレギュレーターを搭載していないバーナーと、マイクロレギュレーターを搭載している聖火リレートーチで、気温による炎の安定性を比較。マイクロレギュレーター入りの聖火リレートーチは、常に高さ35〜40cmをキープする。炎の高さは、走者が安全で、なおかつ沿道で観戦する人が見やすい高さとのこと。
万一、走者が転倒したり、聖火リレートーチを落としたりすることをも想定し、聖火リレートーチはどの方向に向けても消えない設計。これもバーナーの技術によるものだ。
ガスなのに赤い炎が出るのは? ヒントは空気の量!
キャンプ好きなら知っていることだが、ガスバーナーの炎は青く、高温で多少の風にも強い。しかし、聖火リレートーチの炎は赤く、そのままでは風や雨に弱い炎である。
「赤い炎を消さないようもう一つの炎を燃焼させ、その燃焼により赤い炎をサポートする仕組みを実現させることには苦心しました。100以上の試作とテストを繰り返し、完成した燃焼機構です。」(山本さん)
ひとつの燃料から赤い炎をサポートする青い炎と触媒燃焼用、赤い炎(拡散燃焼)用に経路を分岐させ、青い炎用は通常のバーナー同様の空気取り入れ口を、拡散燃焼用の経路は空気の取り入れ口を設けないことで意識して赤い炎を創り出しているのだという。
聖火リレートーチ燃焼部の断面。2つの経路に分かれていて、空気を取り入れる穴の大きさが一目瞭然。
触媒燃焼のためのプラチナはドーム形状になっていて、その内側では予混合燃焼という1500℃の炎が生まれているというのも興味深い。
聖火リレートーチは筐体と燃焼部の遊びが少ない。せっかく継ぎ目のない筐体なので、燃焼部をビスで固定しては台無しだ。王冠のようなワッシャーが内部で開き、燃焼部を固定するようにしている。筐体自体が2mmほどのアルミ板で、ワッシャーの形が外に浮き出ないようにも苦心したとか。
当然、燃料ボンベは筐体のすぐそばにある。つまり、聖火リレートーチを持つことでパワーブースターのように熱交換する構造となっている。