■連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ
2019年5月に発表された「マツダ3」に、11月末には「スカイアクティブX」エンジンが追加して搭載された。すでに発売されていたエンジンは「スカイアクティブG」(ガソリン1.5Lと2.0Lの2車種)と「スカイアクティブD」(ディーゼル1.8L)。新たに、ガソリン2.0リッターの「X」が加わった。
「G」の2.0Lと「X」は排気量こそ2.0Lと同じながら、大きな違いを持っている。「X」は世界初の「火花点火制御圧縮着火」という方式を用いていており「内燃機関に求められるあらゆる性能を飛躍的に向上させた」(カタログより)というスゴい触れ込みのエンジンなのである。「G」の新型が「X」で、置き換えられるわけではない。「X」はメカニズムからして異なった“特別なガソリンエンジン”とも呼べる存在だ。
機械として優れているか? ★★★★4.0(★5つが満点)
実際に運転してみると「X」と「G」の違いは明らかだった。「X」はアクセルペダルの踏み込みに忠実にチカラが湧いてきて、マツダ3を滑らかに加速させる。エンジンからのチカラが細かな粒子の流れだと喩えるとすると、その粒子のツブツブが細かい上に大きさがピタリと揃っている。「G」も加速自体はまったく申し分ないのだが、ツブツブの径が大きいから「X」の加速のキメ細かさと滑らかさには及ばない。たまたま、ドイツの最新コンパクトカーを前日に試乗していて、その印象と較べてみても、「X」の上質な加速は2台を上回っていた。
「X」の長所は燃費の良さにもあるという。試乗コースである伊豆スカイラインとその周辺をマツダのスタッフが事前に走って計測したところ、「G」の2.0Lよりも約2割優れていたそうだ。仮に、渋滞中だったり、他のドライバーが運転したとしても、最低でも1割は必ず良い燃費を記録するはずだと開発者は付け加えていた。ちなみに、指定ガソリンはハイオクとなる。
クルマの動力源の電動化が急がれる世界的な情勢下にあっても、「まだまだ内燃機関には改善していく余地がある」と真摯に開発を行って実現した「X」の仕上がり具合はマツダの狙い通りだと感じた。ただ、価格の高さゆえに誰にでも勧められるわけではない。「G」の2.0L版よりも68万円も高いのだ。「D」1.8L版と較べても40万円も高い。燃費が2割良かったとしても、68万円もの差額を取り戻すには恐ろしく長い走行距離を重ねなければならない。
加速フィーリングの上質さという美点を併せて鑑みたとしても、68万円の価格差を合理的に納得することは難しいのではないか。微妙な金額だが、合理ではない判断、つまり非合理的な判断を要する領域に入り込んでいるような気がする。つまり、ブランド価値をそこに認められるかどうか、という判断だ。
喩えてみれば、20万円のルイ・ヴィトンのバッグは2万円のZARAのバッグの10倍多くのモノが収まるわけではないし、10倍長持ちするわけでもない。“ルイ・ヴィトンであること”に20万円の値付けの根拠が設定され、顧客もそのブランド価値込みで購入している。合理的な判断だけを基にして“高いじゃないか!”と文句を言う人はいない。ルイ・ヴィトンの喩えは極端過ぎるかもしれないが、「X」の68万円高はその領域に片足を突っ込んでいる。