発見されぬまま長期間が経過すると…?
調査結果では、約6割が4日以上経過してから発見されていることがわかった。
ひとり死に詳しい小谷氏は、発見されぬまま長期間が経過することで、どのような状況になるのか、次のように話す。
「ひとりで死を迎え、誰にも発見されぬまま長期間が経過してしまうと、死体が腐敗し、最期を本人の面影のある状態で送ってあげたいと思っている遺族や知人を悲しませてしまうことになります。布団や床、そして2階以上の場合は階下まで体液がしみこむこともありますし、のちのち遺体を片付けてくれる人を困らせることにもなります。
また、死後4日以上が経過した物件は『事故物件』と認定されてしまい、賃貸住宅の場合は貸主に損害を与えてしまう結果になります。もしも遺族などに残してあげられる購入物件の場合でも、不動産の財産価値を大きく下げてしまうことになるので、あまり好ましいこととはいえません。
異臭で近所の人が異変に気付くという報道を多く目にしますが、異臭が漂う頃には遺体の腐敗が相当進んでいるので、そうなる前に、自身の死に気付いてもらえる準備をしておくべきでしょう」
死に向けた準備事項とセーフティネット作りの方法
そこで小谷氏に、ひとり死の後、誰にも発見されぬまま長期間が経過するといった事態を防ぐために、行っておくべき準備事項を聞いた。
「死ぬ瞬間は選べませんが、亡くなったときにできるだけ早く発見してもらうための準備は可能です。例えば、宅配弁当を取る、新聞を購読するなどしていれば、連絡がつかない、新聞受けに新聞がたまっているなどの異変に業者が気付くでしょう。
死ぬ直前が自覚できるような状況、つまり突然死ではないのであれば、訪問医療者や介護サービスの人が発見してくれるかもしれません。
むしろ、突然のひとり死への備えのほうが大事でしょう。決まった日に喫茶店でモーニングを取る、近所の公民館の講座に出るなど、近所の人とつながる行動をしていれば、現れないことに気付いた人が発見してくれるでしょう」
またIoTの力を借りる手もあるという。例えば、象印マホービンの「みまもりほっとライン」は古くからあるサービスだ。電気ポットの電源を入れたり、給湯したりするたびに、内蔵の無線通信機から信号が発信され、家族等がポットの使用状況を1日2回、Eメールで受け取ったり、専用ホームページで1週間分をグラフで確認できたりする。
最近では「部屋の住人が生きているか」がわかるセンサーも出ている。例えば、インフィックの「LASHIC(ラシク)」は、部屋の中で人が行動しているか、電気をつけたか、気温の上下などをセンサーが察知し、指定した相手のスマートフォンでその様子をリアルタイムで伺えるセンサーだ。月額980円と廉価で設置でき、大がかりな工事も必要ないため手軽に導入できる。
またボタン1つで指定した親族や知り合いと通話ができる機能なども搭載されていれば、いざというときに即座につながり、安心感も高まると小谷氏は話す。
今からできるセーフティネットづくりの方法
「自分の行動や環境を自分でコントロールできる体力があるうちに、ひとり死に備えておく必要がある」と小谷氏。30~40代のビジネスパーソンに向け、今からできるセーフティネットづくりの方法を聞いた。
「核家族化が進み、老いては子に従えという時代ではなくなり『最後はひとり』が当たり前の時代です。家族だけが頼りという人が多いですが、元気なうちに、家族以外の人たちと、どのくらい『お互い様』ネットワークを築いておけるかが問われています。
元気なうちは自立できるのですが、老いや病、死に直面すると、誰もが誰かの手を借りなければならなくなります。『迷惑をかけたくない』ではなく『迷惑と思わない・思わせない』ような人間関係を築けるかが課題です」
突然のひとり死への対策は、高齢者だけが行うものではないと思われる。まずは祖父母や両親、そして自分や家族のセーフティネット作りは、気付いたときに行っておくとよさそうだ。
【取材協力】
小谷みどり氏
1969年大阪生まれ。奈良女子大学大学院修了。第一生命経済研究所主席研究員。專門は死生学、生活設計論、余暇論。大学、自治体などの講座で「終活」に関する講演多数。『だれが墓を守るのか』(岩波ブックレット)、『こんな風に逝きたい』(講談社)、『ひとり終活』(小学館新書)、『〈ひとり死〉時代のお葬式とお墓』(岩波新書)など。自身も7年前に夫を突然死で亡くす。立教セカンドステージ大学講座「最後まで自分らしく」を持ったことがきっかけで、配偶者に先立たれた受講生と「没イチ会」を結成。2019年よりシニア生活文化研究所を開設。
取材・文/石原亜香利