信用取引の金利収入や自己売買による収入などが増えていくはず
もし証券会社の株の売買手数料が完全無料化した場合、各社の収益にはどのような影響があるのだろうか。
SBI証券が発表した2020年3月期の上期決算説明資料によれば、証券会社の株の売買手数料は、30%前後。松井証券のみ約50%となっていて割合が異なるが、完全無料化が実現すると、3割近く売り上げが少なくなってしまう計算になる。
株の売買手数料は資料中だと「委託手数料」と表記されている
引用元:2020年3月期上半期 決算説明資料/SBI証券
SBI証券の場合は2020年3月期上期の売買手数料収入が約134億円なので、年間だと約270億円の売上減となる。
売買手数料(委託手数料)以外に収益源として目立つのは「金融収益」と「トレーディング損益」の2つ。
金融収益:信用取引を行う投資家に貸し付ける金銭や株券に対する金利による収益
トレーディング損益:証券会社自身が株などの売買を行って得た収益
これら2つの収益は、委託手数料と同じく投資家が取引すればするほど増えるもの。金融収益の方は投資家から金利を得るので、取引金額が同じでも取引期間が長くなればなるほど収益が増える計算になる。
したがって取引手数料を無料にすることで、投資家の取引を促進し、いまある金融収益やトレーディング損益を大きくしていこう。という戦略が予想できる。
投資家からすると取引手数料が無料になった分取引が活発にできる一方、信用取引でリスクを取りすぎてしまい、大きな損失を生む可能性が増えることになる。そのため取引手数料に煽られて無用な取引をしないように、感情面のリスク管理をしっかり行いたいところ。
ちなみにトレーディング損益は、証券会社が投資家の取引相手方になって利益を上げることができる。加えて投資家の取引データを機関投資家などに販売するなどして収益を得ることもできる。特に取引データは投資家が取引すればするほど貯まり、その分証券会社が有利になっていく。悪い言い方をすれば「売買手数料が無料である」というのを隠れ蓑にして間接的に投資家から利益を上げることが可能なのだ。
なお投資信託の手数料は、「引受・募集・売出手数料」の中に含まれているが、各社とも数%程度の収益である。そのため、投資信託の手数料が無料化したところで影響は大きくないだろう。
株の取引手数料無料化の流れは海外でも巻き起こっている
米国ではすでに株の取引手数料が完全無料の証券会社がある。米国での最大手ネット証券であるチャールズ・シュワブは10月7日から米国株などの取引手数料を無料化した。
他にも米国のフィンテックスタートアップ企業ロビンフッドが取引手数料を無料化している一方、信用取引の手数料を収益源にしている事例もある。
取引手数料は無料。信用取引など金利や、周辺の付加機能を有料にする。そんな収益構造の変化が証券会社に巻き起こっている。
文/久我吉史