塩と米、そして努力
しかし、そんな他人の生活感溢れる場所に入り込んで食事するのは、なんだか、その人の家のブライベートな部分に招き入れてもらったような感覚があるので、オレはヤケに好きである。好みにもよるでしょうけど。
とにかく客はオレ一人なんで食堂内をなんともいえない沈黙の世界が支配している。
そんな沈黙の世界が続くこと10分弱。ついに定食が登場。
いや〜これが素晴らしい! メインのメンチ以外に厚揚げと大根を煮つけた小鉢にサラダ。漬物の盛り合わせには、漬物界の最高級品の奈良漬けまで入ってる。
これは酒が充分に呑めるな〜と思うも、定食が届いた時点ですでにビールは飲み干していたので、他にお酒類はあるかと聞くと、日本酒の常温があるという。
それを頼むと、これがまたいい感じのコップ酒でね。メンチ、小鉢、サラダあたりで呑んで、最終的にライスは味噌汁だけで行けるという計算がこの時点で完了。
最初はメンチに卓上の塩を振りかけて喰おうと思い、振りかけると、もう塩の瓶の中にはほとんど塩がはいってなく、湿気取りの煎った米だけがカラカラいってる。それを見た店主が一言。
「あ、塩入ってない?」
「あ、もう米だけですね〜」
「あ、その米って、なんで入ってるか知ってる?」
「塩が湿気ないようにですよね」
「そうそう。最近の若い人は知らないみたいね…」
会話はそこで終わった。………あの〜塩がないんですけど、そっちの方はお忘れになられましたんでしょうか?
これが、よくいう“塩対応”ってヤツですかね……ってうまいこと思いついたな、オレも。
しょうがないんで、塩の瓶を振りに振って、どうにか塩を出す。まぁ何事も頑張ればどうにかなるという店主の教えかもしれない。
その後、コップ酒をもう一杯お代わりして、なんもいえないいい時間を過ごす。
会計は2750円でした…。
ま、安くはなった…。
それにしても入店したのは土曜の午後6時過ぎ。土曜ですよ土曜!
そんな週末の飲食店の稼ぎ時に、客は終始オレ一人!!
個人的にはチョイ高いが、ある意味最高にイイ店なのにこの閑散はなぜ?
まぁ理由は色々思いつく(誰にでも)けど、主人自身が今のままでイイと思ってるんだろうなァ〜。
まぁ何事も頑張ればどうにかなるワケだし…。
文/カーツさとう
コラムニスト。グルメ、旅、エアライン、サブカル、サウナ、ネコ、釣りなど幅広いジャンルに精通しており、新聞、雑誌、ラジオなどで活躍中。独特の文体でファンも多い。