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将来の妊娠・出産にも影響する!?働く女性も知っておきたい腎臓ケア

2019.12.17

飲み過ぎで肝臓が心配、ストレスで胃が痛い、頭痛がする、動悸・息切れが気になるなど身体の不調には何かしらの自覚症状や思い当たる節があるだろう。しかし、“黙して語らない”沈黙の臓器、腎臓は悪化するまで、予兆はない。だが、一度、自覚症状が出現したら取り返しがつかない。悪化した腎臓を元に戻す薬はないからだ。

生活習慣病である高血圧や糖尿病、メタボはすべて知らないうちに腎臓にダメージを与えている。そして、成人のうち8人に1人が何らかの腎機能障害を抱えている現実がある。

今回DIMEでは働き盛りのビジネスパーソンにこそ知っておいてもらいたい、慢性腎臓病(CKD)の怖さ、現実に関してお二人の先生に取材した。
第一回は東京女子医科大医学部教授・保健管理センター長の内田啓子医師のお話を前後編にわたって紹介する。後編では働く女性たちの生活習慣にも警鐘を鳴らす。

前編はコチラ

“自分の健康”はキャリアプランの一つ

腰の上の背中側に、左右一つずつあるソラマメ型をした腎臓は重さ約130g、握りこぶしほどの大きさである。腎臓の主な役割は血液中にたまった老廃物を身体の外に排出する、尿を作る臓器として知られている。他にも体内の水分を一定に保ち、ナトリウム等のミネラルや化合物のバランスを保ったり、塩分を調節し血圧を一定に保つ役割もある。さらに赤血球を増やすホルモンを作ったり、骨の維持も司るなど「肝腎」という言葉もあるようにとても重要な臓器なのだ。しかし、一度悪化し自覚症状が現れたら、元に戻す薬や治療法はない。末期の腎不全の患者は透析に頼ることになってしまうのだ。

「働き盛りの人に腎臓についての認識を深めてもらいたいんです。どんなに無理して仕事を頑張っても健康な身体がないと、将来思い描くキャリアプランは実現できません。“自分の健康”は重要なキャリアプランの一つだと、30、40代の人には特に認識してもらいたいですね」

外来診療で延べ、1000人近い慢性腎臓病の患者を診る東京女子医科大医学部教授・保健管理センター長の内田啓子医師は、そんなアドバイスを送る。

「だるいんです…」と内田先生の外来を訪れ、採血をすると腎臓の機能を表すクレアチンの数値が異常に高い。「すぐに入院です。透析をしないと命に関わります」そんな30-40代の患者が1年に何人かはいる。

「今、重要なプロジェクトが進行中なんです!」「会議があるんです!」「入院なんてとても無理です!!」働き盛りの人はまず慌てふためき、その後、悲嘆にくれて、会社や家族に連絡する姿を何度も目にしているからこそのアドバイスなのだ。人工的に血液を浄化し、水分や老廃物を取り除く血液透析は2日に一度、1回約4時間。その生活は思い描いたキャリアプランを変更せざるを得ない。

女性の腎臓疾患の予防は?

近年、女性の社会進出は目覚ましいが、内田啓子先生は同じ女性の立場で、「働く女性は、脱水気味の人が多い」と注意を喚起する。

「水分不足は腎臓の働きに悪影響を与えます。日中1~1.5Lは水分を取ってほしい。ところが、オフィスで仕事中にトイレに立ちにくいという理由で、日中水分を控えるという女性が以外と多い。医師としては自分のデスクにペットボトルを置いて、水分の補給しながら仕事をすることを奨励しますね」

日本では欧米人のように、極端に太っている女性を見かけることは稀だ。だが、先生は「日本の女性は痩せすぎが問題です」と、指摘する。ダイエットで食べる量を減らしたり、偏食だったり。栄養不足が腎臓のみならず、身体に悪影響を及ぼすのはいうまでもない。

「女性がどんどん社会進出している時代ですから。カタログに出ている服を着こなせるぐらい痩せてないとダメとか、人にどう見られるかではなく、私はこうだと自分を出して、自分自身を解き放ったほうが、身体のためにもいいんですよ」

そして、先生は妊娠・出産にも先生は言及する。

「お腹の中の赤ちゃんはオシッコをしませんから、お母さんが赤ちゃんの老廃物を排出します。だから妊娠中、お母さんの腎臓は1.5倍働いて負担がかかっています。その意味でもこれから子供を持ってからも働き続けたいと考える女性は健診を受け、健診結果の数値に気を配り、腎臓の状態を知っておくべきです」

慢性腎臓病疾患が進行した人が妊娠した場合、「お母さん自身と赤ちゃんと、両方にリスクがありますよ」と説明する。だが、夫の協力を得て「透析や移植になっても生む」という女性もいらっしゃいますと内田先生は言う。

透析を悪者にしたくない

腎臓は糸球体と、それから伸びる尿細管から成り立ち、その二つを合わせてネフロンと呼ぶが、左右二つで約200万個あるネフロンが一度壊れると、薬で再生することは不可能なことは繰り返しのべた。慢性腎臓病の治療は、腎臓の悪化を遅らせるために、ネフロンの破壊につながる高血圧や糖尿病の薬を処方し、生活習慣を改善する日々の食事のアドバイスが中心になる。

だが、病状が悪化しクレアチニンの数値が2mg/dlを越えると、医師は透析や移植に入った時の生活プランを一旦は提示する。腎機能が10%を切る、末期の腎不全に陥った場合は透析療法へと移行する。

「これまで頑張ってきた患者さんに、透析のことを告げる時は辛いですね…。まずは長年、慢性腎臓病と付き合ってきた患者さんの努力に敬意を払います。でも、私は決して透析を悪者にしたくない」と、内田先生は語気を強める。

「他の臓器が不全になると、個体の死を意味しますが、腎臓は透析や移植という代替する医療が発達していますから、命を取られることはありません」

ある患者の父親は40才で透析療法をはじめた。自分も学生時代からタンパク尿や血尿があった。自分もいずれ透析療法になるだろう、そうなった時の時間的な制約も考え、IT技術を身につけ、いつでも起業できるように準備をしていたという。40才の頃、父と同じように透析治療を始めることになったが、愚痴や恨めしいことは一切言わず、血液透析を受け入れている。そんな患者の例に示し、内田先生は話を続ける。

「およそ30万人の透析患者さんのうち、3分の1~4分の1は仕事が終わって、夜11時頃まで、残業と同じ感覚で夜間の透析を受けています。日本の透析は技術的にも、患者さんの医療費の負担の面からも、世界一優れています」

血液透析を行なうには、毎月40万円ほどかかるが、助成金を申請すれば個人の負担は月額1万円ほどで済む。透析は毎年増大する医療費の大きな負担になっているという指摘もあるが、透析患者の多くが働き、社会貢献しているという現実を忘れてはならない。

“腎臓のような人でありたい”

慢性腎臓病患者の97%の患者が血液透析療法を選択するが、他にもお腹の腹膜を使って行なう腹膜透析療法、そして腎移植という選択肢もある。欧米では腎移植が広く行なわれているが、脳死からの臓器移植が少ない日本では、家族が二つある腎臓の一つを提供する、生体腎移植が中心となるが、腎臓を提供した方の腎機能は低下し、慢性腎臓病と診断されることも忘れてはならない。

いずれにせよ、療法を選択するのは患者本人であって、あくまでも治療法の選択肢やメリットデメリットを説明するのが医師の立場であると内田先生は言う。
「私が言いたいのは高齢になった時、透析にならないためにも、30代40代から生活習慣を意識すること。高血圧、高脂血症、糖尿病や生活習慣病に気をつければ、腎臓病の予防に繋がります。高血圧と言われたら腎臓は大丈夫かなと、セットで考えてほしい」

そして最後に、内田先生は“腎臓愛”について言葉にした。
「腎臓は相当悪化しても何も症状を表さず、24時間、365日黙々と自分の役割を果たしています。失って初めてその大切さが身に沁みてわかる。そんな腎臓が私は好きです。できれば私も、腎臓のような働き方ができる人間でありたいですね」

東京女子医科大学 腎臓内科 教授
内田啓子
1985年東京女子医科大学医学部卒業。同年同大学腎臓内科入局。研修医を経て医療練士取得。89年~91年米国ジョンスホプキンス大学留学。92年東京女子医科大学腎臓内科助教。医学博士取得。13年~同学生健康管理室教授(腎臓内科兼務)。16年~同医学部学生部長。同年~同保健管理センター長。日本腎臓学会で男女共同参画部門を担当し、女性に多い疾患や妊娠と腎臓を専門としている。

取材・文/根岸康雄 撮影/田中良知

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