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アーティストであり経営者でもあるtofubeatsが挑む「実感」と「手触り」を手に入れるための音楽作り

2019.12.06

ゼロ年代を代表するミュージシャンとして一世を風靡するtofubeats氏。大学在学中に本格的な音楽活動をスタートすると、2013年の『水星feat.オノマトペ大臣』のスマッシュヒットによって、一躍時代の音楽シーンを象徴する1人となった。

彼が注目を集める理由は、その音楽性や才能だけではない。従来の音楽家とは異なり、自らのマネジメントを目的とした合同会社HIHATTを設立するなど、音楽業界に新たな風を吹き込む異彩として知られている。

tofubeats氏はサブスクリプションサービスの台頭に代表される音楽シーンの変化を、どのような視点で捉えているのか。また、彼が見据える音楽業界の未来とはどのような姿なのだろうか。

業界の原則を斜めから捉え、アーティストとしての自由を手にする

–––アーティストが自ら、自身をマネジメントする法人を経営することは一般的ではないと思います。まずは、「HIHATT」を設立した背景からお伺いさせてください。

tofubeats:一言でいえば「流れ」ですね。

音楽業界にはアーティストがメジャーデビューするための原則「三者合意」があります。アーティストが芸能事務所と契約をし、事務所を介してレコード会社と契約を結ぶという決まりになっているんです。僕はワーナーミュージックからデビューしていますが、二度目の契約更新をする前に所属していた事務所を辞めていました。なので、自分で事務所をつくるしかないな思い立ち、と「HIHATT」を設立することにしました。

–––他の事務所に所属するという選択肢もあったかと思うのですが、なぜ自ら法人を設立する選択をされたのでしょうか。

tofubeats:僕の音楽活動を支えてくれている人に、より金銭的な配分を増やしたいと思ったからです。芸能事務所に所属していれば、プロモーションを一任できるなどメリットがあります。しかし、事務所はあくまで中間業者です。当然僕らの音楽活動によって生まれる売上のいくらかは事務所の収入になります。

僕はこの事務所が得る売上を、自分を支えてくれている人に還元したいと考えました。少なからず規模は小さくなってしまうでしょうが、事務所の活動は、自分にもできるはずだと思ったんです。

–––法人化によって得たメリットは、金銭面の自由以外にもありましたか。

tofubeats:やりたいことをスピーディーに実行できるようになりました。音楽をつくるにしても、YouTubeで配信を行なうにしても、事務所に所属していると意思決定の速度が鈍くなります。そもそも、やりたいことができないこともある。一方、自分で自分をマネジメントするスタイルなら「できないこと」がなくなるんです。

–––自らが意思決定者となることで、本当にやりたいことを追求することができるのですね。現在、ご自身の「やりたいこと」として取り組まれていることはありますか。

tofubeats:若いアーティストの作品を発信し、新しい才能が世の中に出ていくきっかけを提供したいと思っています。アーティストを直接的にマネジメントすることはしませんが、「HIHATT」として受けた仕事を若い子たちに任せることも少なくないですね。

利便性の対極を求める音楽業界の新潮流

–––ご自身の活動だけでなく、若いアーティストの育成も行なっているんですね。tofubeatsさんの言うように、新たな動きをされるアーティストが今後は増えていくと思いますが、今後の音楽シーンはどのように変化していくとお考えですか。

tofubeats:「アーティスト個人が力を持つ時代」になっていくのではないかと思っています。

最近では、アーティスト自身が音楽配信サービスを運営する会社と直接契約を結び、楽曲をリリースする事例が増えてきました。そうすることで、アーティスト本人が「この曲はどんな年齢層が」「どういった時間に」「どれだけ聞いているのか」など、いつでもさまざまな数字を見られるようになっています。これは大きな変化だと思っていて、これまでレコード会社、すなわちレーベルがやっていたことをアーティストが行なえるようになったということなんです。

–––そうなると、アーティストがレコード会社やレーベルと契約する理由が少なくなってくるのではないでしょうか。

tofubeats:そうですね。日本ではアーティストがレーベルに所属することで、アーティストから原盤権などの権利を剥がすことが一般的ですが、そもそも海外ではアーティストが自らエージェントを雇い、プロモーション活動を代行してもらったりと、考え方が逆なんです。

あくまでもアーティスト手動で物事を決めていくのがワールドスタンダード。従来の販売ルートに乗せないと多くの人に聞いてもらえないという構造が崩れている今、時代に則しているのは海外的な考え方ではないかと思っています。

–––業界の構造も変わりつつあるのですね。新しいサービスの台頭は、その他にどんなメリットを音楽業界のもたらしたのでしょうか。

tofubeats:楽曲をより多くの人に届ける障壁が低くなったことは、アーティスにとってのメリットだと思います。これまでは曲を録音し、CDにし、売り場に並べてもらって初めて手に取ってもらうことができた。それが今では、録音さえすれば配信することができる時代です。

–––良いことずくめにように思えるのですが…。

tofubeats:いえ、デメリットも存在します。先程申し上げたように、たしかに裾野は広がりました。ですが、“枠”自体は狭くなったと思っています。

例えば、サブスクリプションサービスで配信する場合、トップページの目立つところに表示されなければ、そもそも見つけてもらうことができません。CDショップは売り場があったので、偶然発見されるということもありましたが、デジタルのサービスではそうはいかないのです。

大物アーティストがサブスクリプションを解禁した同じ週にデビューした新人アーティストはどうなるでしょうか。彼らの勢いに埋もれてしまい、なかなか発見してもらえないですよね。

–––なるほど…。デジタルだからこそ、偶然見つけてもらえる機会が減ってしまうんですね。確かに私も、トップページに表示されているアーティストばかり聴いている気がします。

tofubeats:そういった意味で、デジタルは人の好みを“硬直化”させてしまう危険性があると思っています。つまり、「みんなが同じ曲ばかり聞くようになってしまう」ということです。

サブスクリプションサービスにもレコメンド機能はありますが、それらも利用者が過去に聞いたものをベースに提案されます。

–––今後も音楽はデジタル化の一途を辿り、硬直化が進んでいってしまうのでしょうか。

tofubeats:デジタル化が進んでいくのは間違いないとは思いますが、一方で硬直化に対する反動が起きているのではないかなと感じています。

例えば現在、レコードの売上が伸びている。CDが中途半端なフォーマットになってしまい、すごく便利なデジタル音源か、すごく不便なレコードが求められるようになっているんです。今後はそういった二極化の傾向が強くなっていくのではないかと思っています。

六畳のアパートで見た景色を、今でも大切にしたい

–––インターネット上で音楽活動を始められたtofubeatsさんご自身は、これからも新しい技術を取り入れたビジネスを展開していこうと考えられているのでしょうか。

tofubeats:いえ、僕個人としてもにも“二つの極”があると思っています。音楽はデジタル音源かレコードで買うことがほとんどですし、インターネットやテクノロジーが好きで、それらを利用しておもしろいことをやってきたいなと思う一方で、手触りのあるモノが大好きだという側面もあります。

–––今後は会社としてモノを扱っていくことも考えておられるのですか。

tofubeats:はい、今後は法人としてリアルなモノを販売するようなことにチャレンジしていきたいと思っています。現在でもグッズなどは自分たちで工場に発注するなど、勉強をしている真っ只中です。レコードはもちろん、機材なども取り扱ってみたいと考えています。

–––少し意外でした。なぜモノなのでしょうか。

tofubeats:高校生のとき、作った曲をCD-Rに焼いてCD屋さんに持ち込んで手売りしていたんですね。店員に聴いてもらって「いいね!10枚買うよ」と買ってもらい、それが売れ残れば今度は引き取りにいかなければなりませんでした。そういったリアルな体験がとても好きなんです。

最初のアルバム『Lost Decade』を制作したときの体験も心に残っています。メジャーデビュー前だったので、流通など販売までのフローを全て自分でやらなければならなかった。だから、最初はCDを3500枚刷ったのですが、それがドカっと6畳一間のアパートに届いたんです。

部屋の片隅に積み上がったCDの山が、次第に小さくなっていく。最終的には1万枚を超えるCDが、僕のアパートを経由して人々の手に渡っていきました。そのときに感じた「音楽を世の中に届けている」という感覚は今でも忘れられません。今はそうしたことはないですが、せめてそのときに生まれた感情を大切にしたいと思っています。

–––自らの手で誰かに届けているという実感、手触りが重要なのですね。

tofubeats:法人化したときも「実感」を感じました。それまでは、どれほど楽曲を制作したとしても、その権利は僕のものにはなりません。しかし、法人化して楽曲の権利を自分たちで管理できるようになったとき、「本当の意味で自分の作品をつくっているんだ」という実感を得ました。それ以来、作品づくりへよりコミットできるようになったんです。

便利な世の中になり、音楽はデータとして手に入れられる時代になりました。でも、そんな時代だからこそ、リアルなモノに触ったときに感じる手触りや、実際に自分が行動をしたときに感じられる実感を大切にしていきたいですね。

tofubeats
1990年生まれ、兵庫県神戸市出身。大学在学中からインターネット上で活動を行い、2013年にスマッシュヒットした“水星 feat.オノマトペ大臣”を収録したアルバム『lost decade』を自主制作で発売。同年『Don’t Stop The Music』でメジャーデビュー。2018年10月には4thアルバム『RUN』をリリース。多くのアーティストのサウンドプロデュースのほか、BGM制作、CM音楽等のクライアントワークや数誌でのコラム連載等、活動は多岐にわたる。9月25日に『うんこミュージアム TOKYO』の公式テーマソング「生きる・愛する・うんこする tofubeats with うんコーラス隊」および、コートジボワール在住のラッパーとコラボレーションした「Keep on Lovin&You (REMIX) [feat. DEFTY]」を同時配信リリースした。

取材・文/鷲尾諒太郎(モメンタム・ホース) 編集・撮影/岡島たくみ(同)

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