【取材班2 スーパービギナーワタナベ編】
Jリーグは、言わずと知られた、日本におけるプロサッカーリーグの略。日本サッカーリーグ(JSL)に替わる形で、1993年に発足した。
2019年現在、Jリーグに加盟するクラブは全55チーム。日本全国に様々なクラブが点在するが、Jリーグ発足当初の三菱浦和フットボールクラブ時代から異彩を放ち続けるクラブがある。浦和レッドダイヤモンズ(浦和レッズ)だ。
ホームタウンは埼玉県さいたま市。J1リーグ、Jリーグカップ、天皇杯全日本サッカー選手権大会という、国内三大タイトルをすべて制覇したクラブであることは、サッカーに関して門外漢の筆者でも知っている。そしてもうひとつ、浦和レッズを象徴するのが、スタジアムを真っ赤に染めるサポーターの存在だ。
ホームスタジアムである「埼玉スタジアム2002」の収容人数は、サッカー専用スタジアムとしては日本一を誇る、6万3700人。南サイドスタンドの一部をアウェー席に割り当て、アウェー席とホーム席の間に緩衝地帯を設けるため、実質的な席数は5万7300席。
1試合当たり平均約3万6000人の浦和レッズサポーターが〝参戦〟している。ようするに、北ゴール裏を中心に座席の60%以上を浦和レッズの赤いユニホームに身を包んだファンが占めることになる。〝スタジアムを真っ赤に染める〟という評判に偽りはなさそうだ。
このように熱狂的なサポーターを擁する浦和レッズだが、今シーズンよりJリーグを初めて観戦するひとに向けた指定席を用意したという。その名も「ウェルカムシート」。
ウェルカムシートの場所は、バックアッパースタンドの南側。何と専用コンシェルジュを常駐し、サッカー観戦を全力でサポートしてくれる。しかも、指定席でありながら、価格はホーム側の自由席と同額。試合当日に、ふと思い立った時でも2500円で試合が観戦できてしまう。
「そう考えるとお得でしょ?」と、久我氏からスタジアム観戦に誘われた、ワタナベ。サッカーとは無縁の人生。Jリーグといわれても、思いつくのはレトルトカレーくらいのもの……本当に楽しめるのか。
10月6日に行なわれた浦和レッズ対清水エスパルス戦を観戦すべく、「埼玉スタジアム2002」の最寄りにある浦和美園駅へと初めて降り立った。
フォトスポットに集合
浦和美園駅から15分ほど歩き、「埼玉スタジアム2002」のゲートをくぐるとLINEが入った。
久我「南口のフォトスポットで待ってます」
〝フォトスポット〟とは何だ? 首をひねった矢先に久我氏を発見。
「目の前にいんだから、そう言ってくださいよ」と声を掛けたのだが、久我氏は気にした素振りも見せない。
「ここからファインダーをのぞくと、スタジアムを一望できるんですよ」と早速ナビゲートモードに入ったようだ。
売店の立ち並ぶ南広場は、ご覧の通り、黒山の人だかり。だが、これくらいはまだまだ序の口。「今日は少ない方ですよ」と久我氏は言ってのける。
ちなみに、これらの売店は一部を除いて定期的に入れ替わるそうで、この日はイベント的な催しとして、埼玉県の名産である「狭山茶」の出店があった。
久我氏の言う〝一部〟とは何か。聞いてみた。
「ひとつは、浦和レッズの応援グッズを販売するFAN SHOP」(久我)
「もうひとつは、駒場ラーメンですね。Jリーグ開幕と同時期に生まれた醤油ラーメンで、肉厚のチャーシューが2枚のった食べ応え満点の逸品。レッズサポーターのソールフードといって過言ではないでしょうね(久我)
「ほぉ~、これはなかなかの肉厚っぷり。スープはさっぱりとしていながらもコクのある王道の醤油ですね!」(ワタナベ)
「さぁウェルカムシートへ案内しましょう」(久我)
「ウェルカムシートの場所はわかりますか?」(ワタナベ)
「もちろん! 事前にチェック済みです!」(久我)
ウェルカムシートの見晴らしは最高だ!
ウェルカムシートがあるのは、スタジアムの5階。その道すがら気になる文字を発見した。
「横断幕に書かれた〝ビジター〟というのは?」(ワタナベ)
「ビジターは簡単にいうとアウェーチームのサポーターのこと。つまり、レッズの対戦相手ファンですね。横断幕から先のエリアはレッズサポーターに割り振られた席なので、ゆめゆめご注意を!ということです」(久我)
「ゆめゆめって(笑)。怖いことをサラッといいますね」(ワタナベ)
「こういった配慮はどのスタジアムでも一緒ですから」(久我)
などと、話している内に、噂のコンシェルジュデスクに着いたらしい。サッカーのサの時も知らないワタナベは、恐縮した心持ちでコンシェルジュに話しかけたが、あまりのギャップに驚いた。
前半と後半の間の休憩時間はどのくらいあるのかやトイレ、売店の場所など、サッカーファンにとっては取るに足らない質問に対して、とても親身になって教えてくれる。
また観戦の一助となるように、とオフィシャルガイド、そして試合前日に朝日新聞に折り込まれる情報新聞「REDS TOMORROW」を手渡してくれた。
オフィシャルガイドには全選手のプロフィールやスタジアム内の地図、試合に勝った際にスタジアム全体で合唱する「We Are Diamonds」の歌詞などを記載。一方の『REDS TOMORROW』には試合の見どころなどが記されていた。
せっかくなので試合開始前にこれらの情報を頭に入れておこう、そう思って観戦席に座ったのだが、目の前に広がる光景に釘付けになった。
ゴール裏まで、スタジアム全体を見渡せるパノラマビュー。しかも、ウェルカムシートの頭上には屋根がある。これなら天候を気にせず観戦に集中できそうだ。
試合開始直前、選手紹介のVTRが流れると、一気に北ゴール裏に陣取るレッズサポーターが湧きたった。しかも、この音の塊のような声援は試合終了まで衰えることなく続いた。
ウェルカムシート内でフラッグを振るサポートや応援を指揮する人などはいない。どちらかというと、マジマジと観戦に更ける人は多かったが、かといって一体感や臨場感を感じないかといえばそうではない。
ウェルカムシートから右側の遠くに浦和レッズサポーターの主陣営、左側の近くに敵陣サポーターの陣営があり、双方の距離感は絶妙だと感じた。
おそらくこの場所よりも浦和レッズのサポーター陣営側の近くに陣取れば、エスパルス陣営の声援はほとんど聞こえなかっただろう。それほどまでに浦和レッズサポーターは、まさに熱狂を絵にかいたような分厚い声援で選手のパフォーマンスを支えていた。
この臨場感が味わえて2500円は、かなり破格! 試合内容に関係なく、大声を上げたくなった。両チームともに1ゴールずつを奪い前半戦は終了した。
コンシェルジュに教えてもらった最寄りの売店でフードを物色。後半戦に備えた
小腹満たしで買った「揚げ餅(醤油)(2本入り)」は350円
スタジアム内へのビンや缶の持ち込みは不可なのだが、売店ではこのサイズのレッズオリジナルカップでドリンクやアルコールを提供。
しかも、コーラをなみなみと注いで250円なのだから、普段から音楽ライブなどのイベントを好むワタナベは、ちょっとしたカルチャーショックを受けた。めちゃくちゃお得感がある!
数えたくないくらいの敗戦を経て……
さて、1-1で迎えた後半戦。きっとピッチ上では複雑な計略をめぐらせあっているのだろうけれど、素人目には両チームともに攻めあぐねいているように映った。膠着状態が続く。
そして、後半30分
均衡を破ったのは、橋岡大樹選手の豪快な右足ボレー
試合終了のホイッスルが鳴る頃には、こんな喜び方ができるくらいにまでゲームにのめり込んでいた
試合後、真っ赤に染まったスタジアムにて「We Are Diamonds」の大合唱!
後日話を聞いたところによると、10月6日の勝利はリーグ戦9試合ぶり。ホームゲームでは数えるのが嫌になるくらい久々の勝利だった、と久我氏は声を震わせ、拳を強く握った。浦和レッズの一体何が久我氏の情熱をかき立てるのか。その答えはいつかレッズバーで解き明かしてみたい。
関連情報:http://www.urawa-reds.co.jp/
取材・文/渡辺和博、久我裕紀 撮影/田中智久