■連載/ヒット商品開発秘話
味噌や醤油といった基礎調味料の中で唯一、売上を伸ばしていると言われているのが酢。健康志向の高まりなどが主な理由である。
しかし酢は、加減が難しく味付けがうまく決まりにくい。この課題を解決し好評を博しているのが、創味食品の『だしのきいたまろやかなお酢』である。
「だしまろ酢」の愛称でおなじみの『だしのきいたまろやかなお酢』は、2019年3月に発売。和えたり掛けたりするだけで、酸味が強くなりすぎることなく味付けが簡単に決まる。10月15日時点で300万本超が出荷されている。
多くの女性社員が熱望した商品化
同社は業務用調味料の開発・製造・販売を主力にしている会社。外食や社員食堂、学校給食などで使用される業務用の商品が売上の約7割を占め、家庭用の売上は約3割。家庭用の商品数は20品程度しかない。
このような環境の中で『だしのきいたまろやかなお酢』が誕生したのは、女性社員からの要望だった。家でよく料理をつくるというその女性社員は、普段から酢を使っていたが、加減が難しく味付けがなかなか決まらないことが悩みであった。同社はだしを取ることを得意としていることから、だし酢があれば板前が調理したような酸味がまろやかな料理ができると考え提案した。
しかし同社は、酢を発売したことがない。過去に調味酢が社内で提案されたことがあったが、扱ったことがないため提案で終わってしまったこともある。
2017年12月に実施された市販品の新商品企画会議で『だしのきいたまろやかなお酢』が提案される。『だしのきいたまろやかなお酢』は酢が伸びていることなどから、試作してみることが決まる。後日、会議の内容は全社で共有されるが、女性社員を中心に『だしのきいたまろやかなお酢』の商品化を熱望する声が相次いだ。
高く評価された試作品
開発は女性の開発スタッフに託される。コンセプトは「まろやかなお酢」。和洋中何にでも使えるものとすることにした。
まず、三杯酢にだしを合わせて酸味をまろやかにする土佐酢を参考にして進めてみることにした。問題は、だしを効かせすぎると酢がまろやかになるものの、使える料理が和食に限定されがちになること。オールマイティーに使えるようにするには、だしの加減や素材などを工夫する必要があった。
だしは、風味がマイルドで鰹本来の持つ旨みが特徴の焼津産花かつおと、京懐石で好んで使用され味が濃く澄んだだしの取れる利尻昆布の一番だしを使うことにした。また、酢は黒酢なども試したが、和食では滅多に使わないフルーティーなりんご酢を使用。和食だけでなく洋食や中華にも使えるよう汎用性を高めた。
しかしこれでも、だしの風味は残る。あともうひと工夫必要であった。
そのために実施したのが、ゆず果汁の追加。柑橘類の中でも品がありエグ味や香りのクセが少ないゆずの果汁をプラスすることで、だしの風味を目立たなくした。
こうして試作品は完成。2018年2月の企画会議で提案したところ、高く評価され商品の骨格が決まった。開発本部商品開発課 課長の小幡友幸氏は、このように振り返る。
「会議で試作品を評価したところ、まろやかで酸っぱくないことから、『イケる!』と判断。奇跡的に1回目の提案で商品の骨格が決まってしまいました」
劣化試験に時間をかける
以後、中身の開発は味のバランスを整える程度で済み、2018年6月には完成する。完成から発売までの間は、中身以外の検討などに充てられた。その中の1つがパッケージであった。
パッケージには紙パックが採用されることになった。プラスチックボトルも検討されたが、軽い、廃棄が簡便、冷蔵庫での収納性がよいことから、紙パックに決まる。
だが、酢を紙パックに充填するのは簡単ではなかった。食品を紙パックに充填するとき、風味の劣化防止の意味から内側にアルミ箔をラミネートすることがあるが、酢は酸性のためアルミ箔を溶かしてしまう。そのため、耐酸性がありアルミ箔を内側にラミネートしなくても劣化が防止できる特別な紙の包材を使うことにした。
この包材は同社で初めて使うものだったことから、実際に使えるものかどうかを慎重に検討。劣化試験にも時間をかけた。
また、パッケージ以外では、新たな材質の紙パックを使うことから、生産ラインの見直しも行なわれた。