さて、さる支店に入った。案内係にロビー入金機がどこにあるか尋ねる。すると、ないと言う。銀行のスリム化で、設置をとりやめたのだろうか(かもしれないが、ネットの書き込みを見ると、すべての支店にあるわけではないらしい。僕はこんな便利な機械は三菱に限らず、あらゆる銀行の各支店にあるものと思い込んでいた。また設置してある支店のサイトを見ても、あるかどうかは書かれていないようだ)? とにもかくにも、約3kgの重みが倍増したような気がする。これ、持ち帰るの?
さらに係の方から、「大量硬貨取扱手数料新設のお知らせ」チラシをいただく。来年4月以降、101枚以上の硬貨入金は有料になってしまうのだ。今はまだ無料だから、残り3袋はロビー入金機があるいつもの支店に持って行けばいいが、手元の約3kgはどうしたものか。
窓口に通帳と小銭を出して預金するという手はあるのだが、この場合は金額を用紙に書き込まなければならない。何百枚あるかわからない小銭を店頭で、いや自宅であれ数えることなど到底できない。貯金箱満タンで毎回8~10万円だから4で割って、適当に“23473円”と書いて窓口に出す。こんな邪な案も浮かんだが、あまりにも姑息だ。
その時、閃いた。ATMで小銭も入金できるじゃないか! 案内係に尋ねると、可能だが1回あたり100枚までしか入らないそうだ。ならば、何回か繰り返せばいい。100枚ずつ数えて入金するのも大変な話なので、適当に“100枚くらい”を入れよう。で、やってみた。ロビー入金機と違いATMの入金口は小さく、ガバッと一挙に入れられない。何度にも小分けして入れるので手間がかかる。ATMが金額を数える時間も、決して短くない(ロビー入金機のほうがはるかに早かったと記憶する)。
さて入金第1弾、2498円也。さあ、2回目。あれ!? 入金は終わったのに、画像が初期画面に戻らない。ATMから小銭を操作する音が聞こえる。まだ作業中なのだ。約1分(計ったわけではないので30秒かも)待っても戻らない。ならばと、空いている隣のATMで第2弾。3069円也。初めのATMに戻って第3弾。今回は100枚を超えてしまったようで、超過分の小銭が戻される。ということは100枚超入れてもATMが数えてくれるから、多めに入れた方がいいのかもしれない。3483円也。またATMを移って……と、都合9回入金した。費やした時間は約30分、金額合計26727円也。今回はその4倍で、10万円超えか?
金額が大きいのは嬉しいが、この9回の行為はATMコーナーが空いていたからこそできたことで、さすがの僕も人が待っていたらやらない。それは常識人として当然だが、掟破りではないと思うこの行為、やっていて後ろめたいし、“怪しい奴”と思われても致し方ない。まあ引き出すのではなく預ける行為だし、人に迷惑をかけている訳でもないので、不審ではあれ注意されることはないだろうが……。
とはいえ、こんなことは二度とやるまいと誓った。
こういうわけで、何年も続けてきた大型郵便ポスト小銭貯金はやめることにした。取り出すのに手間はかかるし、運ぶのは重いし、何より利息0%の貯金なのに、来年4月からは入金に550円~かかってしまう“マイナス金利”だ。小銭をコツコツ貯めて、いつの間にか10万円。何故か得した気分になる、庶民のささやかな楽しみの道は断たれた。今後はプラコップに小銭を入れて、2~3週間ごとにATMで入金することにしよう。
そして小銭を防ぐべく、今まで以上にカードを使わなければ。カードは駄目と言われたら、せめて憤然たる表情をしてお店にプレッシャーをかけよう。
こんなところにも、キャッシュレス化を後押しする“風”が吹いているんだなと、しみじみ思ったのでした。
文/斎藤好一(元DIME編集長)