前回は、組織として働き方改革に取り組むためには意義=〝腹落ち感〟が必要、という内容でした。行動を変える意義がわかっていないと、新たな行動は定着しません。「どうやってやるか?(How)」の前に、「なぜやらなくてはいけないのか?(Why)」を、しっかり考えることが目標達成を引き寄せます。
管理職が壁になっている!?
私が経営するクロスリバーでテレワークの阻害要因を調査したところ「ファーストライン・マネージャー(課長クラス)の意識」「不明確な職責」「人事評価」の3つであることがわかりました。
まず、マネージャーが阻害要因の一つに挙げられる理由から説明しましょう。マネージャーの多くは、自分の部署のメンバーたちが目の前に座っていたほうが管理しやすく感じます。すぐ近くにいてくれたほうが「〇〇君、ちょっといい?」と言って呼びつけたり、ダラダラと仕事していそうなメンバーを注意したりできるからです。
また、マネージャーは過去の成功体験を持っているので、それに引きずられて行動が変えにくい人がほとんど。しかも、直近10年間を見ると教育や研修の絶対時間が足りず、どうやって人、情報、売り上げを管理すればいいのかを、教わる機会がなかった人も少なくありません。
このようなマネージャーがメンバーを管理できるはずはなく、それに輪をかけるようにして「職責があいまい」で「目標や評価の基準がクリアになっていない」のであれば、目標の達成は到底引き寄せられるはずはないでしょう。
評価基準が明確でないと、管理職の感覚でメンバーを評価するようになり、「Yesマン」が評価され、苦労して大量のパワポ資料を作成した人を評価し、新たな挑戦をする人が評価されず、行動が保守的になってしまいます。
こういった状況に陥らないため、クロスリバーのクライアント各社では、各部門の管理職が働き方を変える意義を教育し、その変え方を管理職に考えさせました。どのような変革でもいいので、一定期間その実験をすることを義務づけ、その結果を全社で共有させたのです。最も多く取り組まれたのは「会議改革」と「〝パワポ〟(PowerPoint)資料の改善」でした。
会議改革でもっとも成果が出たのは「やめる会議を決めること」です。60分の会議を30分にすることより、アジェンダ(目的)が事前に設定されていない会議をやめたほうが、会議時間の削減に大きなインパクトを得られました。また、教育や啓蒙を目的とした共有会議や、意思決定や交渉が必要な会議は残し、過去の情報を共有だけをする会議をやめたところ、効率が上がりました。「会議をやめた」ところで、ビジネスに支障をきたすことはなかったのです。
当初はこうした改革に対し、70%以上の管理職が消極的でした。しかし、実験後に「意外とよかった」と答えたのは65%にも及びます。このような実験で意義がわかると、自然と実験を継続するようになります。そうやって管理職の行動と意識が変わった部門は、配下メンバーの満足度が軒並み上がり、業績にも貢献するようになったのです。同時並行で、あるべき管理職の職責を人事部と話し合い、人事評価の仕組みも改善していきました。管理職の行動と意識を変えた結果、今では新たな行動を起こすとそれに対する成果を出しやすくなっています。「Why」を掘り下げて、その後に「How」を考えて取り組んだ実例です。