■連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ
今年の東京モーターショーの開幕まで2か月を切った今年の東京モーターショーに参加する輸入車勢は、わずか3社に減ってしまったことが報じられ、話題になった。3社とは、メルセデス・ベンツ、アルピナ、ルノーなどがそうだ。
東京モーターショーは、前回、前々回から出展メーカーを減らしてきている。前々回までは参加していたジャガー・ランドローバーやFCA(フィアット・クライスラー・アルファロメオ)はそれが最後になったし、ボルボは前回が最後になった。
モーターショーの“華”とも言える、ロールス ロイスやベントレー、アストンマーティンなどの超高級車、フェラーリやランボルギーニ、マクラーレンなどといったスーパーカーなどのメーカーがスキップするようになったのは、前々回よりもさらに前の回だったかもしれない。
そう、東京モーターショーの凋落は最近始まったことではないのだ。少しずつ、海外の自動車メーカーの出展が減っていったのである。それについて「“クルマ離れ”が著しい日本に見切りを付けた欧米の自動車メーカーは、中国などの新興国にこぞって参加」という的外れでステレオタイプの論調が目立っていたが、実態はそんなに単純ではない。
東京モーターショーへの出展メーカーが減り続けているという事実と並行して、世界の自動車メーカーはモーターショーへの関与そのものを急速に減らしてきているのだ。旗幟鮮明だったのはボルボで、10年前にステートメントを発表している。
「小規模なものを含めると、今まで年間60ものモーターショーに世界中で参加してきた。しかし、これからはジュネーブ、北京もしくは上海、ロサンゼルスの3つに絞っていく」
60から3である。鮮やか過ぎるにもほどがある。もちろん、60の中には名古屋輸入車ショーのような地方で開催される規模のものも含まれている。ボルボの本社のあるスウェーデン・イエテボリ市のイエテボリ自動車ショーすらも出展を取り止めたのだ。60を3つに急減させる理由は、次の通りだった。
「顧客とコンタクトする方法を見直した結果です。その分のリソースは、今後はデジタルによるコミュニケーションや独自のイベントなどに使っていくことになります」
フェラーリが世界規模のモーターショーに出展しない理由
つまり、インターネットをより活用し、ボルボ独自でドライビングやツーリングなど各種のイベントの実施を増やしていくということだ。また、日本の凋落を受けるかたちで中国のモーターショーが隆盛するばかりかと思われると、そうではない。フェラーリは2018年の北京モーターショーに続いて、2019年のオート上海も欠席したのだ。
「グローバル戦略を見直した結果の一環で、上海だけでなく、今年のフランクフルト・モーターショーも欠席することにしました」(フェラーリ中国の広報マネージャー)
代わりに、フェラーリは、オート上海期間中に上海中心部の恒隆広場にあるプラザ66というハイブランドしか入っていない高級ショッピングモールの建物の前の広場にポップアップストアを建て、ASEAN地域では初公開となる「F8 トリブート」を発表した。
「F8 トリブート」は発表から4日間だけでも12台もの注文を受けたと広報マネージャーは効果に満足していた。だから、フェラーリ自身が中国マーケットに消極的となっているわけではない。依然として、中国は有力なマーケットだと認識しているのである。それなのに、世界的規模のモーターショーに出展しない理由は、どこにあるのか?
「フェラーリの顧客は、もうモーターショーを楽しみにしていません。実際に購入を検討している人ならばまずはwebで情報収集しますし、しないで買う人も珍しくありません」
特に台数を限った限定車などはフェラーリに限らなくても、webに情報が上がる前に上得意客に耳打ちされ、発表前に完売している場合が最近ではほとんどだ。
「モーターショー会場に着いて、VIP用の通路を通ってフェラーリのブースに辿り着けたとしても、会場が広いのでかなり歩かなければなりません。ついでにフェラーリ以外のブランドのブースを覗いてみたくても、混雑した広い会場を歩かなければならないのは苦痛でしかないでしょう」
たしかに、得意客になればなるほど、新型車の情報はメディアやましてやモーターショー発表などより先に、メーカーから直接伝えられるようになる。上得意客でなくても、フェラーリを買うような人物にとっては、あの広大な上海や北京のモーターショー会場を歩いてブースまで辿り着くのは確かに苦痛かもしれないだろう。