人に物事を頼みづらい、頼むのが億劫だから自分でやったほうが早い。そうして一人で全部抱え込み帰り時間が遅くなる。これがかつての典型的な日本のビジネスパーソンだった。
しかし今は働き方改革などで、そうも言っていられないし、一人で抱え込んでいる人ほど「無能な人間」と思われるような風潮に・・・。
そこで今回は「仕事が早く終わる人、いつまでも終わらない人の習慣」の著者であり、コミュニケーションデザイナーの吉田幸弘さんに、上司と部下との関係など、仕事においてうまく人を頼るポイントを聞いた。
日本人は頼り下手の傾向がある?
J:COMが2019年7月に、20歳~59歳の男女計1600名、日本在住の外国人(第一言語が日本語以外)計100名に対して行った人間関係・地域のコミュニケーションに関する意識調査の結果では、日本人は「頼りベタ」を自覚している人が68.0%となり、「頼りにくい世の中になっている」と感じる人が67.5%となった。
日本在住の外国人も、7割以上の人が「日本人は何事においても遠慮しがちだ」「日本人はもっと人を頼っていいと思う」と回答していた。
この調査結果からは、日本人は、自他共に認める頼りベタであり、さらに時代が「頼りにくい」環境となっていることが読み取れる。
日本人の特徴から紐解く「頼りベタ」の背景
日本人は、なぜ「頼りベタ」なのだろうか? 吉田さんはその背景となる日本人の特徴を次の3点を挙げる。
1.警戒心が強い
「日本は島国であることが影響し、警戒心がもともと強い傾向があると思われます。何かを頼むことで、『怪しい』と思われたくない。今だからこそ、SNSなどの発展で、長年会っていなかった学生時代の昔の友人から連絡があっても怪しまれなくなりましたが、かつて、そうした人から急に連絡があると、借金の相談、営業、勧誘など怪しく思われることが多かったものです」
2.照れくさい
「日本人は、表現をするのが苦手といわれます。私はよく出張に行くのですが、ホテルのエレベーターに乗ると外国人は何もなくても会釈しますが、日本人は、こちらがドアの開ボタンを押しても挨拶すらしない人が多いです。特に男性は、ドアから離れていても、7階のボタンを手を伸ばして自分で押そうとして、人に押してもらうよう頼む気配もありません」
3.減点主義の影響
「自分に割り当てられた仕事が、自分のスキルも足りず、行き詰まったとき、周囲の人に聞くと『こんなことも知らないのかよ』と思われたくないから、聞かずに自分1人でやろうとする。結果、上手くいかず、時間ばかり経ってしまうことがあります。日本に根付く減点主義の影響が強いと考えられます」
頼り上手になることのメリット
とはいえ、「頼りベタ」というのは、それほどデメリットはないように思える。頼り上手になると、どんなメリットが生まれるだろうか? リーダーとメンバーそれぞれの立場のメリットとデメリットを聞いた。
●リーダー(上司)のメリット
1.自分の苦手なことをカバーしてもらえる
「営業は得意だけど、プレゼン資料作成が苦手な上司は、得意な人に頼むことで、高品質のものができあがります。自分でプレゼン資料作成の勉強をしたり、検索したりする手間を省けます。
また、自分とは合わない年上の部下Aさんがいたとします。自分からの指示ではなかなか動いてくれません。そんなとき、自分ではなく、ナンバー2のC君にマネジメントしてもらうことによって、Aさんのパフォーマンスがよくなったらどうでしょうか。C君に頼んだほうが、Aさんも動いてくれる。これも頼み上手になるメリットといえるでしょう」
2.時間を生み出すことができる
「例えばデータ入力が苦手な上司なら、得意な部下に頼むことで、時間を生み出すことができます。その結果、自分で作ったら10時間かかった時間を他の仕事に充てられます」
3.部下の成長スピードを加速させる
「例えば、プレイングマネジャーで、予算作成の仕事と重要顧客のプレゼン資料の作成が重なったとします。このとき頼りベタはどちらも抱え込もうとするでしょう。しかしここであえて、部下に重要顧客の対応を頼むのです。すると部下に良い経験をさせられますし、その結果、成長のスピードが加速します」
4.部下の承認欲求が満たされ、モチベーションアップにつながる
「人は誰かに頼られると、嬉しいものです。年上、年下問わず、『頼られる=認められている』につながり、部下の自己効力感を満たすことができます。結果、部下のモチベーションアップにつながります」
5.PCスキルやソフトなどの情報を教えてもらえる
「たいてい、年下の人のほうが、PCスキルに長けているものです。有用なソフトやアプリなどの情報を教えてもらえます」
●チームメンバー(部下)のメリット
1.可愛がられる(好かれる)
「上司からすると、自分を頼ってくる部下は可愛いものです。上司が報連相(ほうれんそう)しろとうるさく言うのは、心理的な観点でいうと『頼られたいから』といえます。それによって、評価が上がる場合もあります」
2.関係が良好になり良い情報も得られる
「頼ることで、相手とのコミュニケーションが生まれます。良好な関係が構築できるため、当然、良い情報も入ってきます」
3.視野が広がる
「上司との縦の関係だけでなく、頼った別部署の同僚との横のコミュニケーションも取れるので、視野が広がるでしょう」