サインは気軽にしないこと
ちなみに、この時点(説明会が始まった2時間)で帰ったのは筆者ひとりだった。そして帰る間際、会場を見渡すと根負けしたのか、サインしている人が複数いた。どのような縁で連れてこられたのかは知らないが、普通に考えれば数十万円の商品を買って会員になるなんて信じられなかった。
会場の独特の雰囲気は確かに帰りづらく、途中で抜けるなんてなかなかできないことは理解できる。そもそも、この会場に来てしまった時点で、気が弱いと思われていたはずだ。
参考までにこの会場、入った時は外の景色が見えていたのに、説明会が始まると窓はすべて黒カーテンで覆われていた。入口のドアも同じく黒カーテンで目隠しするといった念の入れよう。また、説明会の間はトイレに行けないとの注意も最初にあった。今思えば「逃がさないよ」ということだったのだろう。
つまり、説明会と称する場所に行ってしまった時点で、かなり不利な状況となるわけだ。
勧誘者の末路
翌日、勧誘した彼女から「怒らせてしまったのならゴメンナサイ」と連絡が来た。おせっかいにも筆者は「あれは明らかな悪徳商法だからやめなさい」と忠告した。「あんな奴らと付き合っているとロクなことにならんよ」とも告げた。すると、
「なんでそんな失礼なこと言うんですか!」と怒りだした。さらに、
「私はアナタのことが好きだから、信頼していたから誘ったのに、悲しいです」
とまで言いだした。ここで縁を切るつもりだった筆者だが、最後の色仕掛け的な発言は不快だった。そこで後日、彼女にこんな提案をした。
「この前はゴメンね。お詫びといっては何だけど、あのビジネスに興味があるという友人がいるから紹介するよ」
友人とは某テレビ局の報道記者だった。もちろん彼の正体は普通のビジネスマンだと偽った。予想通り彼女は同じ銀座の説明会に彼を誘った。
当日、彼はピンマイクや小型カメラを隠し持ち、説明会場の周囲にカメラも配置したうえで潜入取材を決行した。
3日後、テレビのニュースで報道され、その後この組織へ警察の捜査が行われた。しかし、残党たちは名前を変えて別のマルチ商法を立ち上げては消えていく、そんな繰り返しが続いている。
ちなみに筆者を誘った彼女は、しばらくして会社を辞め地元に帰っていた。理由を知る由もないが、空しい結末であった。
皆さんも一時の感情や勢いに流されて、被害者はもちろん、加害者側にもならないよう気を付けましょう。
なお、今現在マルチ商法的なものに誘われているなどの悩みのある方は、こちらの事例紹介を読んでおくといいでしょう。ご参考まで。
取材・文/西内義雄
※本記事は筆者の体験に基づくものです。特定の個人や団体、商品を中傷する目的は一切ありません。