コーチングを行う上で信頼関係を高めるポイント
これまでは、コーチングを行う前の準備体操としてメンバーとの信頼関係を高める点についての解説だった。ここからは本題であるコーチングの場面において大切になる信頼関係のポイントの解説となる。
1.「心理的に安全な場所」であることを繰り返し伝える
「コーチングを行う場面において、心理的に安全が担保されていることを繰り返し伝えましょう。具体的には『ここで話した内容は口外しない』『何を話しても評価や否定をしない』『人事考課には影響しない』と言うものです。メンバーにとって普段話しづらいプライベートなことを話さなければならない局面もあるでしょう。まず大事なポイントは、この場所は何を話しても許される場所であることを約束してください。コーチングで得た情報を飲み屋で同僚に口外するなどあってはならないことですが、場合によっては契約書を交わすことにより、より心理的に安全な場所であること意識づけることも効果的です」
2.評価や否定をしない
「メンバーひとり一人に個性があり、持ち味があります。価値観についても同じように、善し悪しはありません。上司とメンバーの関係で起こりがちなのは、コーチングの場面で上司がメンバーを評価してしまうことです。
例えば『そんな夢物語を言うのは成果を上げてからにしなよ』とか『長期的な君の夢は置いておいて、目先の営業目標をどう達成するか考えてよ』などです。
評価や否定をされてしまうと、メンバー本人は2度と本音を言うまい、という感情が沸くのは当然です。いわゆる上司の顔色を伺った忖度(そんたく)が始まります。メンバーのどんな意見にも耳を傾け、傾聴してください。そして忍耐強く相手の発言を待ってください。もし、質問を投げかけて反応が鈍くても、それは本人がより意識の深いところで思考している証拠と捉えて、質問攻めにしないことを心がけましょう」
3.共同作業であることを理解する
「コーチングはコーチである上司と、クライアントであるメンバーの共同作業です。メンバーに目標を一方的に押し付けるのではなく、部下が現実的・具体的な目標を達成するために、上司としての自分に何ができるかを考え、支援を約束することで協調的な協力体制が生まれます。
具体的には『いま、私が支援できることはありますか』など問いかけてみてください。初回で何も相手から回答が得られなくても、数回繰り返すうちに信頼関係が得られ、メンバーの本音が引き出せる関係になると思います。特に職場の中で評価者が行うコーチングは外部コーチが行うものとは異なり、ポジションパワーが働くので非常に力強いものです。使い方を誤ると詰問になってしまいますので、ぜひ注意してください」
後編では、部下との信頼関係を築くにあたり、絶対にやってはいけないことや、コーチングを行う上司自身の心の持ち方を教えてもらう。
【取材協力】
有岡 秀郎(ありおか ひでお)さん
米国NLPコーチング研究所公認プロフェッショナルコーチ
航空自衛隊に入り、その後大手航空会社の航空貨物会社、電子部品の法人営業を経て、現在は教育会社に所属。業務の領域は大手上場企業に対する人事施策や能力開発のコンサルティングが中心。個人的な活動としてパーソナルコーチを行う。活動テーマは幅広くビジネスリーダーシップの開発やキャリア開発が中心。
https://s21382801.wixsite.com/website
取材・文/石原亜香利