バンガロール発、インドの頭脳が世界最大の小売企業を支える
今年2月にバンガロールで開催された、「Future of Work」というインドの若手エンジニア向けのカンファレンスに参加した。IT企業のトップ、CTOたちが参加者にテクノロジーの最新の動向を共有し、ビジネスのスケールアップや将来必要なスキルをワークショップで教える学びの場だ。多くの関心を集めていたのが、2007年にバンガロールで創業されたオンライン小売のスタートアップ、フリップカート社CTOのラビ・ガリキパティ氏の講演だ。
ラビ・ガリキパティ氏(フリップカートCTO / 取材当時):インドで生まれ教育を受けた彼は、IBM、オラクルやスタートアップで活躍し、IT業界で30年間の経歴を持つシリコンバレーでもベテランだ。
彼は2015年に米国から帰国し、フリップカート社でオンライン小売のビッグデータとクラウドを使うビジネス基盤を作り上げ、同社の信頼と業績に多大な貢献をした。今回のカンファレンスでは「AI(人工知能)を使った企業のトランスフォーメーション」として、フリップカートでの経験も共有し具体的できめ細やかなアドバイスで聴衆を魅了していた。AIを何事にも優先して考える「AIファースト」の企業文化、クラウド、ハードウェア、学術論文の重要性を丁寧に説明した。Eコマースのスタートアップからテクノロジー企業に進化し、AIを活用する将来への取り組み準備が整った同社の先進性と自信がうかがわれた。彼は職場で1200人のエンジニアを率いており、会場では若いエンジニアたちの心をつかみ、安心感がある和んだ雰囲気が漂っていた。
「Future of Works」2019年2月の会場(写真提供 YourStory Media)
2017年、同社のアプリはインドのEコマースでは初めて1億ダウンロードを達成した。2018年、フリップカートはさらに躍進を続け、世界最大の小売企業ウォルマートに160億ドル(約1兆7500億円)の巨額で買収された。インドの頭脳と経験が地元のスタートアップを支え、グローバル企業の手で世界展開するという好例だ。
一方、ウォルマートは日立が研究所を設立したのと同年、2011年からバンガロールに研究所を開設している。同社の世界中のオンラインビジネスのための研究所として設立され、将来的なインドでのオンライン小売に備えてリサーチが進められていた。2000人のエンジニアが在籍し、サプライチェーン、AIやVRの研究など同社の将来に関わる小売に特化したソリューションを研究開発している。そして同社の半分以上のデータアナリティクスの担当者はバンガロールで勤務し、インドのテクノロジー企業の買収でインド人のエンジニア採用が倍々ゲームで増えていると言う(2019年2月BusinessLineより)。
米国で繰り広げられているアマゾンとウォルマートの競争は、インドでは同社が買収したフリップカートを通じて火花が散っている。同社は実店舗の一般小売店をインドに持たないが、フリップカートを通じて実店舗をオープン予定だ。バンガロールでのインドの頭脳と外資の参画が、インドそして世界を揺さぶる。