2012年に日立製作所が初めて海外で取締役会を開催した国は、アメリカでも英国でもなく、インドだ。それに先駆けて2011年、技術開発、新事業の創出、現地企業や大学との連携のために「日立インドR&Dセンター」をインド第3の都市バンガロール(現在正式名はベンガルール)に開設していた。日立のように海外企業がインド国内に持つ1257研究所のうち、37%がバンガロールに集中している。インド南部にあるこの都市には、いったいどんな魅力があるのだろうか。
インドの頭脳と世界からの投資が集まる「アジアのシリコンバレー」
バンガロールには、オラクル、シスコ、インテル、またアップルなどのシリコンバレー発のテクノロジー企業のインド支社の他、海外からインドに進出している多国籍企業の約75%がオフィスを構えている。ITスタートアップ企業の創業数は世界第3位の都市で、さらにユニコーン企業(評価額10億ドル=約1000億円のスタートアップ企業)は、2013年以来7社創出されている。ソフトバンクも投資しているオンライン教育のバイジューズ、 インド版ウーバーのオラ、フードデリバリーのスィギー等で、2019年にはさらに2社のユニコーン誕生が期待されている。
バンガロールでは、1969年にインドのNASAにあたるISRO(インド宇宙研究機関)が置かれ、民間の航空産業や重工業の発展に寄与した。インドのIT産業の黎明期の1980年代前半に、現在のITソフトウェア最大手3社のうちウィプロとインフォシスの2社が創業され、同時期に発効されたソフトウェア事業を海外展開しやすくする法律も後押しとなり、バンガロールでIT産業が萌芽した経緯がある。さらに、2008年に新空港がオープンして人の往来もより盛んになった。
そして、インドで最難関の工科大学をはじめとした大学と企業が連携し、政府やインドIT協会がスタートアップ企業をサポートするインキュベーション施設を作り、投資しやすく人材が集まりやすい環境が作られてきた。技術系の企業だけでなく多業種の外資系企業が研究所を開設し、スタートアップが次々とアイデアを形にして市場で頭角を現し始めた。
このようにインドの優秀な人材と巨大市場を確保し、事業に必要なテクノロジーを中心に研究開発を行い世界展開する拠点として、バンガロールは重宝されている。その一つの例が、2018年に米国本社の巨大企業にバンガロール本社のスタートアップ企業、フリップカートが買収されたことだ。
南インドで最も背の高い「ワールドトレードエンタービル」には、多くの多国籍企業やテック企業がオフィスを構える。