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人見知り女子が知り合いゼロのBBQに単独で参加してみてわかったこと

2019.06.15

朝井麻由美のひとみしり道場~コミュ障を直すための修行~ 【連載第3回】

《前回までのあらすじ》

ゴールデン街にある「人見知り専門店・人見知り克服養成所」という飲み屋で、見知らぬ人と交流をはかってみた。「養成所っぽさ」は特になく、ひとみしりはたいして克服できなかったものの、糸口は掴めたような気がした。次はバーベキューに乗り込んでみよう。


 バーベキューはここ数年ですっかり、アッチ側とコッチ側を分ける代名詞となった。明るい感じの人たちが、明るい感じでバーベキューをしている写真をSNSに上げまくったせいだ。それまでは薄ぼんやりとしていた境界線が、白日の下にさらされることになったのである。彼らはしょっちゅう肉を焼く。時には海で、時には陸で。SNSに上げられる写真は、そういうことを嗜まない人間、つまり私に、言いようのない敗北感を抱かせる強いメッセージ性を持つ。たぶん、「映え~!」とか言いながら撮っている。

 敗北ののち、冷静になって自分の心に問う。「かの者たちのようにバーベキューをしたいのか?」。答えはノーだ。いかんせん、バーベキューって、別においしくない。紙皿に無造作に突っ込まれるススけたカタい肉と、焦げた野菜。ニンジンなんて酷いものだ。歯ごたえしっかり生食感なのに、表面は真っ黒、ということがしばしばある。ニンジンはどう考えても焼くのに適していない食材であろう。ともあれ、肉や野菜を焼きたいなら、ちょっといい焼肉店に行ったほうがずっといい。

 つまり、私にとってバーベキューに行く行為は、レクイエムなのである。“そうなれなかった私”を弔うレクイエム。

 レクイエムを奏でに向かった先は、誰も知り合いのいないバーベキューイベントだった。そういうところへ無理に行けば、魔法のようにひとみしりが直ると思っている節がある。

 バーベキュー場へは、駅を降りてから20分ほど歩く。20分の間に引き返そうとしては思いとどまり、を繰り返した。全然行きたくないけれど、行きたいのである。鎮魂の儀を、そしてあわよくばひとみしりの克服を、したいのだ。

 さて、バーベキュー場へ到着すると、いきなり困ったことになった。様々な団体で賑わっていて、自分が申し込んだバーベキュー団体がどこだかわからないのである。このバーベキュー場には、「ここからここまでがこの団体のエリアです」といった分かりやすい垣根がないのだ。あらゆる団体がくんずほぐれつ、飲めや歌えや騒いでいるため、誰に参加費を支払えばいいのかさっぱりわからない。きみたちにとってはなんてことない日常の一コマかもしれない。しかし何度も言うが私は今、鎮魂歌を奏でんとしているのである。神聖なるレクイエムに向かってあまりに不親切ではないか。

 少し歩くと、受付テーブルらしきものを見つけた。

私「ええと、受付ってここで合ってますか……?」

受付の人「ヨコヤマさん主催のバーベキューでしたらここです」

私「……? ええと、じゃあ、たぶん、はい」

 私が申し込んだバーベキューには、団体名しか書かれていなかった。従って、ヨコヤマさんなんて知らない。けれど、見渡す限り受付はここにしかないのだ。ヨコヤマさんという人が主催の団体だったのだなぁ、と理解して、受付でお金を払い、近くにあった椅子に座った。

 結論から言うと、これは大きな間違いであった。ヨコヤマさんのバーベキューは、どこかの会社の集まりだったらしい。椅子に座った途端、近くの人に「何事?」という顔をされ、「あの……、ここの人ですか?」と訝しまれた。完全に不法侵入だった。言い訳のしようもない。事案発生である。親切なヨコヤマさんは、自分の会の参加者が迷うことがないようにと、わかりやすい受付を設けていたのだ。それがよもや不審者を招き寄せることになるとは思うまい。「すみません、広くて受付がわからなくて……」などと供述し、返してもらった参加費を握りしめ、被告はそそくさと立ち去った。

 ほどなくして、ようやく目的のバーベキューに辿り着く。

 私が不法侵入をしている間に会はすでに始まっており、男たちが肉を焼き、女たちが談笑し、私は隅に座っていた。小さなバーベキューコンロを囲む輪、そこには一分の隙もなかった。

 そもそも驚くべきは、彼らが何の目的もなくコンロを囲んで盛り上がっていることである。何かを祝うパーティーや式典で盛り上がるのならばまだ分かる。喜ばしいことがあり、その場に集まった面々でその喜びを分かち合い、祝う。いいことだ。一方でバーベキューは、盛り上がりの対象が特にないことが多い。祝賀バーベキュー、なんて聞いたことがない。皆が皆、ただなんとなく肉を焼き、ビールや缶チューハイを飲んでいるのだ。この会も、「オープンなバーベキューイベントです! ワイワイ交流しましょう!」という趣旨の内容がイベント告知ページに書かれていた。つまり、知り合いでもなんでもない面々が、今日この場にたまたま集まり、他愛もない会話に興じている。おばけだ。コミュニケーションおばけである。摩訶不思議な現象は全部おばけのせいにして片付けたい。

 しずしずと端から飲み物を取り、皿を持って虚空を見ていたら、突如皿に肉を入れられた。そして、ニコッ。おばけだ。目も合わせようとせずたたずむ人物の皿に、何の脈絡もなく肉を入れる力技。これがコミュニケーションおばけの底力なのか。

 しかし、皿に入れられた肉というのが、驚くほどうまかった。私の記憶の中にある、バーベキューの肉とはまったく違っていた。ススけてないし、カタくもない。どうやらこのバーベキュー、「バーベキューインストラクター」という資格を持つ人が、肉のセレクトから焼くところまでプロデュースしているらしい。近くで肉を食べていたユキエさん(仮名)が教えてくれた。もしかしたら、この会に関して言えば、このうまい肉目当ての参加者がほとんどなのかもしれない。実際、しばらく見ていると、会話もそこそこに焼けた瞬間に肉がなくなるというシーンが何度もあった。

 私はバーベキューというだけで、偏見に捉われていたのではないか。頭で「バーベキューに参加する人々」のイメージを勝手に作り、勝手に壁を作っていた。色眼鏡で見ることで、最初から向き合おうとしていなかった。バーベキューにも色々ある。“バーベキュー的”だと思っていた人たちは、意外と“バーベキュー的”ではなかったのだ。

 ひとみしりを形作る要素のひとつに、自分と違う属性の人を拒む、というのがあるのではないだろうか。私は自分がこれまでに見聞きしたバーベキューの情報から、そこにいるのは自分とは違う種族の人間だ、と考えている。違う種族の人間の中に放り込まれたときの、適切な振る舞いが分からない。女子高生のグループの中に、おじさんがひとり迷い込んでも、同じノリで会話はできないように、バーベキュー的な人々の中にひとり放り込まれても、同じノリで会話はできない、と思う。無理に合わせようとして失敗するのが怖い。だからうまく喋れないし、下手打って傷つかないように、黙る。

 そんなことを考えながら、隣の団体に目をやると、文字通り「ウェーイ!」と言いながら乾杯をして盛り上がっていた。「ウェーイ!」って本当に言う人、いるんだな……。「お隣は学生さんの集まりみたいですよ」とユキエさんが言う。彼らが流していた音楽は、MONGOL800の『小さな恋のうた』、Whiteberryの『夏祭り』、氣志團『One Night Carnival』。嘘みたいだが、本当である。判で押したようなバーベキューぶりに感動すら覚える。彼らにとっては世代の曲でもないだろうに、脈々と受け継がれるバーベキューソング。

 片やうまい肉、片やワンナイトカーニバル。バーベキューにも色々あるのだ。

(プロフィール)
朝井麻由美
あさい・まゆみ 
ライター・編集者・コラムニスト。東京都出身、国際基督教大学卒業。コラムニスト・泉麻人のひとり娘。
トレンドからサブカルチャー、女子カルチャーに強く、体当たり取材を得意とする。
『DIME』『SPA!』『ダ・ヴィンチ』『サイゾー』など、雑誌やWebで執筆。
『二軒目どうする?』(テレビ東京系)準レギュラー出演中。
著書に『ソロ活女子のススメ』、『「ぼっち」の歩き方』、『ひとりっ子の頭ん中』など。
https://twitter.com/moyomoyomoyo
https://www.facebook.com/moyomoyomoyo.asai

イラスト/曽根 愛

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