業界の常識を見直し超撥水デニムを実現
作業服・作業用品の大手・ワークマンから、新たなヒット商品が誕生した。その名も『4D超撥水ストレッチパンツ』。玉のように水を弾くオリジナルデニムは初回生産分3万7000本を売り尽くし、大反響を巻き起こしている。
『4D超撥水ストレッチパンツ』の開発を担当したのは、ワークマンのプライベートブランド「フィールドコア」のチーフデザイナーを務めるMDの中野登仁さんだ。発案のヒントは単純明快。
「これまでの撥水パンツは、化繊100%生地を使った、いわゆる〝シャカシャカ系〟が中心。〝撥水性のある綿衣料品は作れない〟というのが業界の常識でしたから、製品化を考えたことすらなかったですね。それでも、突然の雨にパンツが濡れて困っている人は大勢いる。これを実現すればきっと話題になる、そう思い立ち、昨年5月から商品開発をスタートしました」(中野さん)
ワークマンプラスの人気が追い風になった
『4D超撥水ストレッチパンツ』の構想を練り始めた頃、ワークマンは新業態「ワークマンプラス」の開店準備の真っただ中にあった。2018年9月5日に1号店「ワークマンプラス ららぽーと立川立飛店」をオープン。レジ待ちが2時間に及ぶなど、当初の想定を大幅に上回る船出となった。この「ワークマンプラス」のブレイクが、中野さんのMD魂を刺激した。
〝超撥水機能を備えた綿パンツ〟〝価格は2900円〟など、商品コンセプトを固め、撥水性に優れた丈夫な生地や、生地の表面加工に用いる薬剤などを探し回った。試行錯誤しながらたどり着いたのが、洗濯を40回以上繰り返しても撥水するという第三者試験をクリアし、水弾きが悪くなっても、アイロンをかけると撥水性が復活するという超撥水素材だ。
優れた撥水性のほかに、仕上がりにも徹底的にこだわった。
「パンツの形に縫製した後に洗いをかけ、砂状の粒子を吹きつけるなどして、ヒゲやアタリといったヴィンテージデニム特有の雰囲気を演出しました」(中野さん)
また、単なるストレートパンツにしたくないという思いから、スマホを持ち歩くのに便利なカーゴポケットや腰部のゴム帯など、次々にアイデアを試した。極めつけは、4枚の生地を縫い合わせて作る、股下の4D立体構造だ。日本人に多いといわれるO脚に対応し、どんな姿勢をとっても体に心地よくフィットするため、さらに動きやすくなった。
生地を選び、パーツを吟味し、フィッティングを繰り返すなど、試作品の数はゆうに10型を超える。思いつく限りの課題をクリアし、約10か月をかけて「フィールドコア」ファンの期待に応える、究極の高機能パンツを完成させた。
売れた理由は低価格とかつてないはき心地のよさ
全国発売を翌月に控えた今年3月、「ワークマンプラス ららぽーと甲子園店」で『4D超撥水ストレッチパンツ』のテスト販売を行なった。マネキンにはかせた『4D超撥水ストレッチパンツ』に大量の水を注ぎ続けるという、自慢の超撥水を可視化したデモンストレーションは、来店客の心をつかみ、用意したストックはすぐに完売。数日遅れでテスト販売を始めた他店舗でもこの試みは功を奏し、あっという間に売り切れた。全国発売のスタートと同時に、新商品開発の舞台裏に迫ったテレビ番組が放送されたこともあり、入荷後数日で完売する店舗が相次いだ。
『4D超撥水ストレッチパンツ』がヒットしている理由を、中野さんはこう分析する。
「この撥水力はほかにない魅力だと、自信を持って言えますが、それだけがヒットの要因ではないと考えています。最も重要なのは価格です。企画段階で、販売価格が3000円を上回るようであれば、製品化は諦めていました」
というのも、ワークマンで販売するパンツの売れ筋は900円台。作業着としてまとめ買いをする人が多く、機能だけを優先して販売価格を吊り上げると、既存顧客は離れてしまうという。
「それからもうひとつ要因を挙げるとすれば〝はき心地のよさ〟です。どれだけ高機能な商品であっても、はき心地が悪ければリピートしてくれません。ワークマンに来店されるお客様の目は、とにかくシビアです。『4D超撥水ストレッチパンツ』にしても〝最初から売れるのはわかっていたでしょ〟と言われますが、とんでもない。全く売れないオリジナル商品もありますから」
最後にこんなお願いがあった。
「プライベートブランドはワークマンプラスでしか買えないと思われる方は多いです。通常のワークマンでも販売していますので、足を運んでもらえるとうれしいです」
こうした地道な営業力もヒットを連発する要因といえそうだ。
『4D超撥水ストレッチパンツ』販売推移
テスト販売で生産量を決め、3か月後に一般発売というのが通例。テスト販売の翌月に全国販売するなど、決断の速さに目を見張るものがある。
専用の店内販促ツール
超撥水を可視化するためのデモンストレーション。水道の蛇口から大量の水をデニムに注いでも、水は生地に染み込むことなく、玉のようになってツルツルと落下する。驚きの撥水効果は育メンにも好評だとか。
ヒットの方程式
□確実にリピートしたくなる手頃な価格設定
□着心地など共感しやすい魅力を備える
□これまでにない商品を粘り強く開発する
問い合わせ先/ワークマン http://www.workman.co.jp
取材・文/安藤政弘 撮影/中村圭介