その歴史は、江戸時代中期にまでさかのぼる「鯉のぼり」。男子の誕生を祝い、その成長を願って、端午の節句に幟(のぼり)を立てる風習から発展したといわれる。当初は、黒い真鯉を1匹だけ揚げていたのが、明治時代には色も数も増えてきらびやかとなっていき、5月初旬の風物詩となった。
今は少子化のあおりを受け、5匹の鯉のぼりが空を舞う姿はあまり見られなくなってしまった。その一方、観光協会などが主催・後援する「鯉のぼり祭り」が盛んになっている。その多くは、ワイヤーロープに多数の鯉のぼりを吊るすかたちで、5千匹以上を吊るしてギネス世界記録に認定された「こいのぼりの里まつり」(群馬県)は特に有名。
4代続く世界最大の鯉のぼり
一方、数でなく一点もので勝負をかけるのが、鯉のぼりの名産地加須市(埼玉県)で毎年5月3日に揚がる「ジャンボこいのぼり」だ。
名前のとおり、とにかく巨大。1988年に誕生した初代の「ジャンボ1世」は、全長が100m、重さは600kg。文句なしに世界一のサイズを誇り、ハワイでの遠征も果たしている。
巨大クレーン車で吊り上げられた「ジャンボ1世」(出典:加須市公式サイト)
その後、さらに大きくなった「ジャンボ2世」(111m、730kg)、破損して引退した2世に続き、軽量化を図った「ジャンボ3世」(100m、300kg)が造られた。「ジャンボ3世」は、W杯ドイツ大会でカイザースラウテルンの空を泳ぎ、日本代表を応援した。
2014年に誕生したのが「ジャンボ4世」(100m、330kg)。加須市の木・花である桜・コスモスのピンク色に、青色、緑色、オレンジ色を配して少しカラフル感を増している。これが、当代の「ジャンボこいのぼり」であり、元号が令和になって初めて遊泳するとのことで、見に行った。
掲揚は午前と午後の1回ずつ
「ジャンボこいのぼり」の掲揚は、「加須市民平和祭」の一環として行われる。場所は、東武伊勢崎線加須駅からバスで15分ほどの利根川河川敷。利根川を背に、5月3日の11時半からと13時半からの2回に分けて揚がる。それぞれ最大で30分ほど泳がせるという。
前日までの悪天候が嘘のように晴れ、この日は格好の鯉のぼり日和となった。
現地に早めに到着すると、見たこともない巨大クレーン車が停まっている。これで、「ジャンボこいのぼり」を引き揚げるのだが、この時点ではぶら下がっているのは、数メートルの通常サイズの鯉のぼりだけだ。通常サイズでも十分大きいはずだが、このクレーン車と比較すると煮干し程度にしか見えない。
クレーンの目の前の地面に敷かれたブルーシート上にあるモノが、「ジャンボこいのぼり」。吊り上げて風を呑み込ませると、大きくふくらんでその雄姿を現すが、今はまだ干物だ。
風がないと泳げないのが泣き所
11時半になった。クレーンの先端のフックがスルスルと下りていき、「ジャンボこいのぼり」の口の部分が掛けられる。「そうっと」という感じで引き揚げが始まり、鯉の頭部が持ち上がる。
やがて全体が引き揚げられ、垂直になった。
思わず声を上げる―「これは…確かに大きい」…しかし、ここからなかなか横にならず、遊泳態勢になってくれない。風が足りないのだ。尾びれが地面に対して水平になって、泳いでいるようになるのは、風速4~6mが条件だという。しかし、ほぼ無風のまま時が経つ。
さらに、金属製の口輪が破損してしまい、午前の掲揚は不首尾に終わってしまった。