「何だかいいね!」を〝再生産〟するために
昨年、nendoが手がけたゼブラのボールペン『ブレン』を例に、右脳と左脳をどう使ってデザインをしていくのか聞いてみた。
『ブレン』の場合、〝何だか気持ちいい書き心地〟、そんな極めて感覚的なゴールをまず設定し、それを実現するためには、どんな機能や形が必要かをロジカルに詰めていったという。
着目したのは「筆記振動」だった。文字を書く時、どうしてもペン先が少なからず振動し、ブレたり、カチャカチャと音が鳴ったりする。この筆記振動こそが、書き味を妨げる要素だと考えた。
「振動解消のため、ゼブラの研究チームとパーツを一から見直しました。重心が低くなるオモリを開発したり、インクの中芯を太くして剛性を高めたりしていきました」
そして佐藤さんは、その機能を最大限に発揮するため、シームレスな外装をデザインした。つなぎ目がないほうが、書いた時の力を逃さずガタつかない。心地よさを実現するために不可欠な形だった。
結果、『ブレン』は150円という値段ながら「精緻な作りで書き心地がいい!」と人気に。加えて「見た目もいい」という評価もつかんだ。
ほかの人が気づいていない〝不便〟を見つけられるか
nendoが手がけた『peel』というカップがある。カップのフチの一部がめくれ上がったようなデザインになっている。これはめくれた部分にティースプーンを立てかけることで、カップの中でスプーンが動かずストレスなく飲み物を飲める「機能」でもある。加えてティーバッグの糸を巻きつける、留め具としても使える。
ほとんどの人が、当たり前に使い、「とくに不満も課題もない」と感じているティーカップ。しかし、そこに佐藤さんは「ティースプーンって使った後の置き場に困るよね」「ティーバッグの糸って邪魔だよね」といったニーズを掘り起こし、解決したわけだ。
「日常の中で、気づいていないけど本当は〝我慢しちゃっている〟ことって多いと思うんです。でも、些細な不満や不安をいちいち自覚しちゃうと面倒じゃないですか。だから脳が合理的な判断として『不満なんてないよ』と無理やり認知させるシステムがあるんだと思っています。けれど左脳と右脳、つまり直感とロジックの両方を普段からしっかり働かせて物事を見ると、『アレ? これ直したほうがよくない?』が見えてきます」
これこそnendoのデザインが世界から求められる理由かもしれない。見えない課題を丁寧に見つけ、直し、よりよくする。
革新的な商品や事業が生まれにくくなった今の時代に、軽やかに風穴を開けるのだ。
nendo works
ゼブラ『bLen(ブレン)』
書き味を追求したボールペン。握りやすく長時間使っても疲れにくい太めの形状で、ノック部は転がりにくいよう楕円形にデザインした。
大幸薬品『クレベリン』
ウイルス除去、除菌製品のブランドリニューアルを手がけ、商品パッケージ、本体デザインを一新した。一部店舗では品切れも起きた。
セラミックジャパン『peel』
一部がめくれたような作りのカップ。スプーンを立てかけたり、ティーバッグの糸を巻いておける。かわいらしいデザインに機能が光る。
オンワードホールディングス『KASHIYAMA DAIKANYAMA』
4月に代官山にオープンした商業施設。アパレルと飲食店を融合させた6フロアのビルで〝丘〟がコンセプト。散策のように館内を楽しめる。