●中低域の厚みとウォームな音色が魅力
まず、付属のアンバランス接続のケーブルで『LA SOL』をA&ultima『SP1000』に接続した。前回の『eamt-0c-ti』のハイスピードでクールな音色とは違い、こちらはイントロから音色はホットだ。佐山雅弘トリオ「メモリーズ・オブ・ビル・エヴァンス/マイ・ファニー・バレンタイン」(96kHz/24bit)の音が妙に遠い。イヤーチップが小さすぎると判断して、AZLA『SednaEarfit』のLサイズに交換した。このチップが私の耳にジャストフィットするので、そのイヤホンの設計通りの帯域バランスで音が出るはずだ。音が鮮明で近くなった。低域の量感も充分だ。
初期モデルの弱点であった低域が出にくいという問題はウーハーの大口径化で克服できたのだが、イヤホンそのものが大型、重量化してきたので使い勝手自体はは悪化しているのが残念。特にモバイル用に使う場合、耳にフィットするイヤーチップ探しが重要になる。井筒香奈江「Laidback2018/サクセス」(192kHz/24bit)を再生するとAMTドライバーを使っていることを忘れるほど、ボーカルはなめらかで低域までのつながりが見事だ。ハイブリッドではなくシングルドライバーのようだ。Fenderのジャズベースのキレのある響きもいい。これはBA型のマルチで音色が硬くなって、はなかなか再現できないできないのだがAMTは自然に聞かせてくれる。
●ケーブルによる音の差も描き分ける
オプションのエイベスケーブルに交換してみよう。大型のヘッドフォン用ケーブルのように太くて重さがあるケーブルなので、屋内でじっくり聞く用途に適している。クリップも付属するのでモバイルで使えないこともないが、現実的ではないだろう。
アンバランス用でもS/N感が向上して情報量が増えるのだが、その差が大きいのはバランス用ケーブルである。左右に音場が広がり、奥行き方向もスーッと深くなる。高域の音像がシャープになり、ハイハットの音がリアルだ。解像度が上がりライブ録音ではバックグラウンドノイズが音楽の一部になったかのように聞こえてくる。これが演奏されている空間を感じさせてくれた。AMTは透明感のある音が得意で、Diana Krall「The Girl In The Other Room/Sotp This World」(96kHz/24bit)などは苦手な部類だったが、このケーブルを使うと低域が深く沈み込み、何の不満もない。
専用のリケーブルAvesのハイエンドケーブルは受注生産で同社とTakAmp氏との共同開発から生まれた。
φ3.5mmアンバランス用、ケーブル長1.2m、重さ約52g。
●ハイエンドモデルが到達したのは自然体の音
RAシリーズのハイエンドである『RA SOL eamt-0cu-c』が到達したのは、ある部分が超絶にスゴイとか、ここが個性的という音ではなく、トータルとして音質が向上したもので、鬼面人を驚かすような派手な音ではなかった。むしろATMドライバーの個性は抑えられ、ことさらワイドレンジ感も出さず、接続された機器の性能と再生する音楽の魅力を引き出すモデルと言える。かといってモニター調のつまらない音ではなくアカシアの木と銅とセラミックによってチューニングされたウォームな音色が、そこには確かに存在している。音質的には魅力あふれるモデルだが、この価格であれば、さらなる装着感を追求して欲しいと思った。
本機は春のヘッドフォン祭2019の「リエゾン・オーブラボー」で展示され、試聴もできる予定なので興味のある方は足を運ばれてはいかがだろう。
様々なイヤーチップを試した結果、私にはAZLA『SednaEarfit』がフィットした。
写真・文/ゴン川野