今回は少し私情をはさませていただきたい。「歯のかみあわせを調整して肩こりや腰痛を治す名医がいる」と聞いて高崎を訪ねると、その医師は会った瞬間「あなた、左の肩と首がこるでしょう」と笑い、本当に歯のかみあわせの調整で筆者の肩こりをなおしてしまったのだ。その後、医師と親しくなり、次第にこれが日本の大問題だとわかった。
丸橋賢先生。背後には歯の標本がずらりと並ぶ。聞けば、これは「ごく一部」らしい
群馬県高崎市にある丸橋全人歯科では、杖の忘れ物が多い。かみあわせの調整によって歩行困難だった方が歩けるようになり、杖を忘れていくのだ。「全人歯科」とは変わった名前だが、その理由は文章を読んでいただけば明らかになるだろう。
スポーツ選手の成績が急上昇!
夏目 治療を受け、先生のもとに著名なアスリートが多数いらっしゃる理由がわかりました。今まではどんな方がいらしたのですか?
丸橋 プロ野球選手、五輪の選手など様々です。例えば射撃の選手のかみあわせを調整したら、その方はすぐ全日本大会で優勝し、アジア大会でもメダルを獲得されました。あるゴルファーの方はゴルフクラブを持っていらっしゃって、かみあわせの調整後、当院の鏡でフォームを確認されていました。すると、本人は同じ感覚なのにテイクバックの位置が非常によくなっていて、その後、テレビに出られるほどの活躍を始められました。
現役の方たちは数か月に一度くらい歯の調整にいらっしゃいますね。歯科矯正ができることからもわかる通り、歯は微妙に動きますから。
夏目 正直、私は半信半疑で来たのですが、あまりの結果に驚きました。なぜこんなことが起るのか、あらためてお教えください。
丸橋 新品の消しゴムを立て、その上にパチンコ玉を置くとしましょう。消しゴムの上下の断面が平らであれば、パチンコ玉は転がり落ちませんよね。でも、少しでも断面が斜めになっていたら、玉はすぐに転がり落ちてしまいます。
これを自分の体に置き換えて考えてほしいのです。人間の骨格が消しゴム、パチンコ玉は頭です。骨格がゆがんでいると、頭は常に転がり落ちそうになっていて、人間は肩や首の筋肉でこれを支えます。しかも、頭の重さは平均約5kg。仮に5kgのお米袋を首や肩で四六時中支えている状況をイメージすると、肩や首がこるのは当然とわかります。
夏目 骨格で支えなければキツい、ということですね。
丸橋 そして、頭を支える骨格の中で、最もゆがみやすいのが「歯」なんです。上あごと下のあごは、上下がかみあった状態で「一つの関節」と考えられます。そしてミリ単位どころかミクロン単位のズレが、数センチもの首の曲り、肩の傾きとなって現れるのです。
夏目 かみあわせが調節された状態を読者にも体験していただきたいんですが。
丸橋 いいですよ。では判定方法からお伝えします。まず大きな鏡の前に立って目をつぶって「自然と立っている」状態になってください。そして目を開け、左右の肩の高さが地面と平行でなく、どちらかが下がっている場合、かみあわせがよくない可能性が高い。ほとんどの場合、肩が下がっている側の首、肩、背中(肩甲骨付近)が強くこります。また、左右の目の高さが異なる、口が斜めになっている方もかみあわせがよくない可能性がありますね。
夏目 私も先生に診てもらいましたね。左右の肩の高さが並行になっていませんでした。
丸橋 また、自然に立った状態で口を開け、上あごと下あごをゆっくり閉じてほしいのです。そして「歯のある一点だけ先に衝突する」「強くかんだら上あごの力で下あごが動いた」といったことがあれば、かみあわせがよくありません。そして、もし「かみあわせがよくない」と思ったら、歯と歯のあいだにティッシュか綿を入れ、調整してみてください。
夏目 具体的には?
丸橋 仮に右肩が下がっていたら、左側の歯を少し高くします。右肩が下がるのは頭部の重心が右に偏っているから。原因は、左の臼歯のかみあわせが低く、下顎が左回転し、右の下顎角(顔のエラの部分)が突出しているのです。そこで左臼歯部を高くすると重心が正中に戻ります。また、かみしめた力で下あごが動くようであれば、早期接触している歯以外の部分にティッシュか綿を入れ、早期接触と下顎偏位(下あごの動き)をなくしてください。そして「首や肩の力を使わずに頭を支えている」「このまま眠っても倒れない」くらいまで調整したら、ラジオ体操などをして10分ほど体をほぐしてください。効果が実感できますよ。
夏目 私は先生に診てもらうまで肩こりがひどく、原稿を1日3~4時間しか書けなかったんですが、調整後は何時間でも書けるようになりました。
丸橋 いいことをおっしゃいますね。実はそこに問題があるんですよ。