■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は5G時代を見据えた通信の未来について議論します。
端末の販売台数はダウン
房野氏:携帯電話キャリア各社が第3四半期の決算を発表しました。どう見ましたか?
石野氏:大手3社はみな増収増益でしたが、通信事業単体で見るとドコモとauは少しマイナスになっていて、それをキャリア決済やサービスの収入で補ってプラスになっていました。第3四半期は無事、増収増益だったけれど、来年度からは総務省の“完全分離”も入ってくるので、さぁどうしましょうという感じじゃないですかね。
房野氏:上場会社としてのソフトバンクはいかがでしたか?
石野氏:いい決算でしたよ。社長の宮内さんは必要な情報を開示してくれました。
ソフトバンク株式会社 代表取締役 社長執行役員 兼 CEO 宮内 謙氏
法林氏:言っちゃいけないことも言ったけどね。あまり話題になっていないけれど「(2018年12月の通信障害で)悪いのはエリクソンです」という発言はアウト。あれは言ってはいけない。あの発言は総務省に突っ込まれたら終わり、電気通信事業法に触るはずですよ。電気通信のサービスを提供している最終的な責任者はソフトバンクなので、他の会社のせいでダメになりましたとは言ってはいけない。ソフトバンクから外注(下請け)に出しているだけなので。例えば、石野君のせいでウチの雑誌は売れなくなりました、なんて言えないはずですよね。それと同じなので、本当はあのコメントは言ってはいけない。
【参考】史上最悪規模!?ソフトバンクの通信障害はなぜ起こったか
石野氏:エリクソンに賠償を請求するのかという記者からの質問に対し「詳細は言えない」と回答した後に出た発言でした。まぁ、あれはジョークだったと思いますけどね。それ以外にもたくさん言ってはいけないことを言っていたような気がしますが(笑)
石川氏:宮内さんも、CTOの宮川さんもペラペラしゃべっちゃうので、広報は大変だと以前から言われていました。
法林氏:そうだよね、コントロールが効かない。
石野氏:孫さん以上ですね。孫さんは意外と口が硬い。さすがに創業者なので、守るところは守る。それでも「総務省にガソリンを撒く」とか言っちゃうので(笑)
ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役会長 兼 社長、ソフトバンク株式会社 取締役会長 孫 正義氏
法林氏:それも完全にアウトだよな。
石野氏:完全にアウトなんですけど、なんというか守るべき情報は出さないというか……でも、そんなことないか、どこかを買収するとかぽろっと情報を出しているので。ただ、宮内さんの方が、こちらが質問すると気を良くしてどんどんしゃべってくれる。デビューしたての感じがします。
石川氏:「ケータイはいらない」という発言をしましたっけ。
石野氏:「コンベ端(コンベンショナル端末、フィーチャーフォンのこと)はいらない」発言。
石川氏:「スマホがあればいい、ケータイは作らない」みたいな発言をしたら炎上したということが過去にあったんですよ。我々メディアがそれはどうなんだと反論して、宮内さんは反省していた。だから、一応気にしているんですよ。
石野氏:KDDIの社長の髙橋さんも「グッバイ、おサイフ!」というキャッチフレーズでお財布の業界団体から怒られたと言っていて、なんでみんな過去に怒られたことを振り返っているんだと。
法林氏:まぁ、あと3社とも端末の売上が確実に落ちている。特に第3四半期は前年比で見ても台数が落ちているし、かなり落ち込みが激しい。たぶん、お客さんも買い控えている。本来、売れ筋で稼ぐはずだったiPhoneの2018年モデルがやっぱり売れなかったということがある。
石川氏:ドコモの決算会見で自分は社長の吉澤さんに、販売台数が落ちているのはiPhoneのせいですかと聞いたんですよ。そうしたら、最新モデルはそこそこ売れているけれど、台数は古い機種で稼いでいるという言い方をしていた。最新機種はそうでもなくて、docomo with向けのiPhone 6sとかでなんとか台数を確保しているという感じだと思います。今回、特徴的だったのがAppleの決算。Appleって決算のときに電話会見をするんですけど、そのときにティム・クックがはっきり「日本の販売奨励金がなくなった影響で販売台数が落ちている」と言っているんですよ。
法林氏:まだなくなっていないけどね。
石川氏:まぁまぁ。奨励金が減りつつ、手が入りつつあるので、販売が落ちているという話をしているので、Appleもマズイなということに気づき始めていますね。
石野氏:auとソフトバンクの販売台数は落ちているけれど、ドコモの数字はそんなに落ちていないというか、トータルで見ればiPhone 6sやiPhone 8とかでカバーしている。
法林氏:ソフトバンクとauは前年同期比で1割以上落ちているよね。
石野氏:そうですね。ドコモは「ケータイ補償」で端末の取り替えが少なくて台数がマイナスになっているくらいなので、ある意味、前年維持という感じです。auとソフトバンクは分離プランを入れているので、その影響が大きく出ているということですかね。
房野氏:奨励金を出さないことで、利益はどうなりました?
石野氏:そうですね、トータルはプラスになっています。端末の販売台数と売上がauとソフトバンクは落ちているという感じ。
石川氏:ドコモの1年前の決算では、端末関連収入が赤字なんですよ。でも、今年の決算は黒字になっているんです。どうやらキャッシュバックや奨励金が減ると、販売台数は落ちているにも関わらず思いっきり黒字になる。ああいうのを見ると、本当に総務省がやっていることは正しいのだろうかと思う。
法林氏:キャリアがより儲かる方向に行っちゃっている。
石川氏:そうそう。
房野氏:販売台数が減るというのは、新規の契約数が落ちていることではないんですか?
法林氏:新規契約数は飽和状態じゃないですか。
石野氏:だから、販売台数は機種変更ないしはMNPなんです。そこが落ちれば当然、販促費を抑えられる。3社しかないから新規契約は黙っていてもある。そう考えると、端末が売れない方がキャリアにとっては儲かる。単純にいうと儲かる。ただ、売れないと他社に逃げてしまう可能性があるので、一定のサイクルで機種変更は回して行かないといけないんですけど、2年である必要はないよねっていう感じになりつつある。
石川氏:買い換えサイクルが延びれば延びるほどキャリアはおいしい。
石野氏:買い換えのタイミングで他キャリアに移られちゃう可能性があるので、買い換えが延びればおいしい。