ルルレモンが取ったマーケティング戦略とは?
ルルレモンが支持されている理由。それは、質の良い機能性に優れた商品を提供していることは勿論、非常に優れたマーケティング・ブランディング戦略にある。
(1)新たなカテゴリの創出
マーケティング手法の1つに「新しい選択軸を与えることで、新たな市場を創出する」という手法が存在する。
例えば、アサヒ飲料の缶コーヒー「ワンダモーニングショット」。
【出典】https://www.asahiinryo.co.jp/wonda/sp/
このコーヒーが発売されるまで、「コーヒーをいつ飲むか?」という選択軸は存在していなかった。そんな中、ワンダは「コーヒーを飲む時間」という新しい選択軸を与え、「朝専用のコーヒー」という新たな市場を創出し、当時缶コーヒー市場で5位に甘んじていたワンダを業界3位まで押し上げることに成功したのだ。
「スポーツウェア市場」で戦ったのでは、ナイキやアディダスのような老舗ブランドに太刀打ちできない。そう考えたルルレモンも、この手法を使用した。それは機能性を追求したスポーツウェアとファッション性を追求したストリートウェア、どちらも兼ね備えた「ファッションスポーツウェア」という市場を創出した。
【出典】https://www.instagram.com/lululemon/
アメリカでは、ジムに通っている人は大抵スポーツウェアで街中を歩き回っている。日本では、ジムに行くまでは通常の洋服を着ていて、ジムに到着してからロッカーで運動着に着替えるのが普通だが、アメリカではスポーツウェアを着たままジムに行き、運動後も汗をかいたウェアのまま自宅まで帰るのがスタンダードなのである。
そのため、アメリカの人々はスポーツウェアに「機能性」だけでなく「ファッション性」も求めていたのだ。ここに目をつけたルルレモンは「ファッション性のあるスポーツウェアか否か」という新しい選択軸を与えることで、老舗ブランドとの競争軸をずらし、「ファッションスポーツウェア」という新たな市場を創出することに成功したのだ。
(2)地元のアスリートをアンバサダーに任命し、コミュニティを育成
Adidasのカニエ・ウェスト、Pumaのリアーナなど、既存のスポーツウェアブランドはブランドアイコンに有名人を起用していた。
【出典】https://us.puma.com/en/us/home
しかし、ルルレモンは有名人ではなく地元のヨガインストラクター、トレーナー、アスリートなどを「アンバサダー」としてブランドアイコンに起用した。
彼らをアンバサダーに任命し、無料で商品を提供する代わりに、店で定期的に開催するヨガやランニンググループなどのイベントの講師を務めてもらった。
公式HPを見ると、各店舗ごとにアンバサダーが紹介されている。
【出典】https://shop.lululemon.com/
ちなみに私が参加したルルレモンのイベントでは、フィットネスジム「クロスフィット」で人気のトレーナーがサーキットトレーニングを指導してくれた。
ルルレモン各店舗で、アンバサダーを講師に招き、毎週何かしらのイベントを開催することで、顧客にルルレモンの世界観を体感させ、ブランドロイヤリティを高めさせているのだ。
イベントに参加することで顧客はアンバサダーや店員、あるいは他の参加者との絆を深めていき、各店舗でコミュニティが形成される。
誰もが知る有名人ではなく、地元で活躍する人をアンバサダーにするからこそ、このような顧客にとってより信頼性の高い、魅力的な関係を構築できたと言えるだろう。
(3)生活に溶け込んだSNS施策
ルルレモンのターゲットは25-35歳のフィットネスに関心を抱いている女性。彼女たちの興味をひくために、ルルレモンはSNSに注力している。Facebook、Twitter、Instagramは勿論のこと、Pinterest、You Tube、SpotifyなどのSNSにも取り組んでいる。一つ一つのSNSの質が非常に高く、人々のライフスタイルにうまく溶け込んでいる。
例えば、Spotify。
ランニングしながら聞くのに適した曲、リラックスしたい時にピッタリの曲…。様々なシーンに応じたプレイリストが作られており、ファンを引き付けている。
また、You Tubeではヨガレッスンのコンテンツなどがあり、自宅でもユーザーがヨガを楽しめる仕組みを提供している。
提供しているのは、運動系のコンテンツだけではない。
2,8百万人のフォロワーを抱えるInstagramのストーリーには、「Fuel」というコンテンツがあり、ヘルシーな料理が紹介されている。リンクをクリックすると公式HPにとび、詳細なレシピを見ることができる。
【出典】https://shop.lululemon.com/
また、Pinterestには「hairspration(ヘアースタイル)」「summer vibes(夏をイメージしたシーン)」など様々なコンテンツが用意されている。「Sanctuary(聖域)」というカテゴリには、リラックスできるインテリアのアイデアなどを見ることができる。
運動をする時間のみならず、生活全体で活用できるTips(コツやテクニック)を提供することで、生活者のライフスタイルに溶け込んだSNS施策を提供していると言えるだろう。
このような独自のマーケティング・ブランディング戦略で、ミレニアル世代から愛されるブランドになったルルレモン。
アメリカとは異なる生活習慣やカルチャーを持つ日本において、どのような戦略をとっていくのかに注目である
文/小松佐保(Foody Style代表)
一橋大学経済学部卒業。日本&シンガポールのブランドコンサルに勤務した後、食領域に特化したマーケティングコンサルとして独立し、アメリカ・ボストンへ。
会社員時代に生活習慣の乱れが原因で体調を崩したこと、ボストニアンの心身共にヘルシーなライフスタイルに感化されたことで、「食×健康」に関心を抱くように。
現在は、ニューヨークの世界最大の栄養学校Institute for Integrative Nutritionでホリスティックヘルスを学びながら、食生活やライフスタイルを改善するための情報発信やイベント開催などを行っている。